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黒翼契約譚《レイヴン・クロニクル》 IF:血月の黙示録  作者:
第一章:血月の黙示録

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第十話:飢え

時計塔。


空気が重い。


クロエは、自分の胸元を押さえていた。


「……変」


「なんか、力入らない……」


ノクスの表情が曇る。


レグルスは舌打ちした。


「タイミングが最悪だ」


セレナが鋭く反応する。


「何を隠している」


「別に」


レグルスが即答する。


だが。


その声音には、明らかな焦りが混ざっていた。


エルが静かに端末を確認する。


「始祖波長、継続上昇」


「血流速度増加」


「魔力反応、不安定化」


淡々とした報告。


まるで機械。


クロエは小さく顔をしかめる。


「……なんか、匂いする」


その瞬間。


ノクスとレグルスの視線が変わった。


血の匂い。


始祖の空腹初期症状。


ノクスは静かにクロエへ近づく。


「クロエ」


「少し休みましょう」


優しい声。


だが。


その瞳の奥には、明確な警戒があった。


クロエはふらつきながら頷く。


「うん……」


その時。


ノクティスの首筋を、風が撫でた。


ほんの小さな傷。


先程の戦闘訓練でできた、浅い切り傷。


だが。


クロエの瞳が、ぴたりと止まる。


赤。


血。


ゴクリ――


無意識だった。


クロエ自身、理解できていない。


なのに。


目が離せない。


ノクティスの背筋へ、ぞくりと震えが走る。


視線。


それは獣のものではない。


もっと静かで。


もっと深い。


“夜”そのものの視線。


ノクティスの鼓動が速くなる。


恐怖。


なのに。


逃げたいと思えない。


エルの端末が警告音を鳴らした。


「反応急上昇」


「始祖波長、臨界域へ接近」


セレナが即座に槍を構える。


「全員下がれ!」


空気が変わる。


クロエは、苦しそうに頭を押さえた。


「やだ……」


「なんで……」


「お腹、空いてるだけなのに……」


声が震える。


ノクスが前へ出る。


「クロエ」


静かな声。


「こちらを見てください」


クロエの赤い瞳が揺れる。


ノクスだけは、恐れていなかった。


「大丈夫です」


「あなたは、負けません」


その言葉に。


クロエの呼吸が、わずかに戻る。


だが次の瞬間。


ドクン――


強烈な脈動。


クロエの瞳へ、赤い光が走る。


同時に。


十三番街全域へ、圧倒的な威圧が広がった。


空が軋む。


窓ガラスが震える。


低位吸血種達が、一斉に膝をつく。


セレナの顔色が変わる。


「……馬鹿な」


ノクティスは、本能的に理解してしまった。


目の前にいる。


教会が千年追い続けた、“黒翼の始祖”が。


クロエは、涙目のまま呟く。


「……こわい」


「私、なんか変……」


その姿は。


災厄とは思えないほど、弱々しかった。

読んでいただきありがとうございます!


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