第6話 「狩る側」に
世の中チョロイもんだな。
その後、光山は警察に任意同行されてから3日後には学校に登校してきた。
風の噂ではあるが結局のところ逮捕されるわけでも何かの罪に問われるという事もないようだ。
だが、「学校を休んでまで警察に話しを数日間聞かれた」と言う事実は想像以上に奴のブランドに傷をつけた。
予想通り警察の捜査が明るみになった段階で権威は落ちたのだ。
美咲とは別れたようだし、更には新たに寄ってくる女もいなくなったようだ。
いい気味だ。実際に逮捕されずとも疑わしいというだけで十分過ぎる成果を挙げたのだ。
ただ扇動した罪で長里さんは当初予想した通り逮捕されたようだ……。
「歌手の長里啓介 スパイ防止法疑惑で逮捕」と言う記事を発見した時は、薔薇の棘が良心をチクッと少し突いて血を流した気分だ……。
長里さんの場合は他の人間と違って知名度が違い、社会的な責任も多く今回の一件の”主犯”とまで判断されているようだった。
だが、心苦しくてもこれも目的を達するためには必要な犠牲だ……。
しかも俺は「こういうサーバーがあるみたいです」と言っただけで、使えと言ったわけでも扇動したわけでもない。長里さんが勝手に突っ走っただけであり、仮に長里さんが俺との通話記録を警察に差し出したとしても俺が逮捕されることは無いだろう。
リスクコントロールもバッチリだった。
世の中には自分の利益のために騙そうとしてくる魑魅魍魎たちがゴマンといる。見極める力を身につけなければあっという間に利用された上に獲物になっちまうんだ……。
俺は「狩る側」になり続けてやる。ずっと、永遠にな。だから情報を収集してどんな相手よりも「上」に行ってやる。
俺自身が魑魅魍魎の一つとなり影の支配者になってやるんだ。
◇
カノンちゃんファンクラブの求心力を高めたという事で、本人が不在の中で新しくファンが増えることは無いのだが、コミュニティ内部で俺の地位はむしろ高まるばかりだった。
「教授」と言うニックネームも相まってかもっと年上と思われたこともあって色々な相談もされた。正直、ちゃんと相談に対して答えられているか分からないのだが、AIを利用してそれを自分なりの言葉にアレンジして何とか答えた。取り敢えず話を聞いただけでも勝手に納得して終わってくれることがほとんどだった。
世の中の人々はSNS上で繋がっているように見えても、有料で相談できる相手どころかAIすらも信頼していないのだろう。
俺は無料で請け負っていたが、メリットはある。
それと同時に何かしらか情報を得ることができるのだ。
カノンちゃんが政治的メッセージを歌っていたためか、政治に興味がある人物が揃っている。
その情報を元に今度は「本当の巨悪」を成敗してやろうと思ったのだ。
今日は「kuwai」と言うユーザー名が俺に相談を持ち掛けてきた。
『初めまして。よろしくお願いします。どうされましたか?』
『実は私の住んでいる〇×市の市長が汚職に手を染めているようなんです。2億円の敷地を10億円で買い上げし、1億円のキックバックを受け取っているみたいなんです……』
自分の住んでいる街を教えるだなんてどれだけディスアドバンテージなのか知らないんだろうな……。
ちょっとした個人情報から個人が特定され、嫌がらせをする輩がいるからだ。
俺なら絶対に教えない。仮に教えて身バレでもしたらデジタル空間での死を意味する。同志沢渡は例外だが推し活をしているアカウントは絶対に分からないようにしてあるのだ。
『警察に通報されましたか? その事案であれば間違いなく警察も動いてくれると思うんですが』
『それが……サッパリ動いてくれないんです。それどころか、”デマ情報を流すな!”と追い返されてしまいました……』
恐らくは市長が警察に対して買収や介入をしているのだろう。世の中は本当に狂っていた。正義への道のりは自ら敷いていくしかない。何も行動しなければ勝ち取ることは出来ないのだ。
『そんなことが……。公益的な通報なのに受け入れてもらえないのは辛いですね。情報ソースはお持ちですか?』
『ええ。ちゃんと警察にも持って行ったんですけど酷い対応だったのでその場で思わず泣いてしまいましたよ……』
きっとkuwaiさんは繊細な女性なんだろうな……。カノンちゃんのファンには女性ファンも多いから……。
「心中お察しします。それでしたらSNSでプライベートな情報だけを黒塗りして、公開してみてはいかがでしょうか? 警察との悲惨なやりとりが分かればもっと良いと思うんですけど」
「なるほど! 警察にもう1回行ってみて今度は録音してみます! 色よい返事が来なければ告発してみようと思います!」
「良いですね! 僕も通報に協力させてもらいますので情報を共有させてください」
「分かりました! 状況を逐一報告させていただきますね!」
世の中は本当に理不尽なものだ。権力によって正義が潰されてしまうことが平気で起きている。
ただ、今の世の中はSNSという誰でも使えるツールが存在している。そこで良い方向に拡散すれば警察も動かざるを得ないし、俺のようにスコアがそこそこ高い奴が告発すればなおさら動かなければいけなくなるだろう。
kuwaiさんにはどういうタイミングで告発すればいいのか、どういう文言を使えば刺激的かなどについて具体的なアドバイスをした――。
◇
俺の目論見は当たっていた。kuwaiさんの告発は瞬く間のうちにSNSで広まっていった。
トレンド1位が1週間連続で続き、告発の台風の目の一つになった俺のアカウントへのフォローも20倍倍ぐらい増えたほどだった。
ある程度広まった段階で俺は警察に通報。〇×市の市長はあっという間に逮捕され全国紙のトップに躍り出た。
〇×市警察の対応の悪さ横柄さも大炎上した。あまりにも酷く、理不尽で高圧的であるために警察組織の腐敗すらも指摘されたのだ。
自らの功績が紙面のトップを飾ったときは思わず小躍りして各紙の新聞をコンビニで買いに行き、その記事のスクラップノートを作ってしまった。
俺は正義を遂行している。
カノンちゃんは世の中の不条理を歌っていたが、俺は具体的にこの国の政治の悪を裁くんだ――。
俺はkuwaiさんに対して、何か他に困っている方はいらっしゃいませんか? と話しかけた。
kuwaiさんは興奮気味で俺に報告してきたので最初は話にあまりならなかったが、やはり俺たちのカノンちゃんコミュニティは政治への関心が高く、告発をしても断られているといった事案が他にもあるという話があるようだ。
当初は、kuwaiさんが成功したノウハウを伝えれば良いのではないか? と提案したが、教授の言葉で無ければ信頼度が低いのでは? と言う話にもなった。
これは俺にとっては渡りに船だった。俺の「正義遂行能力」がどの程度のものか試すことができるのだからな。
事実を拡散してSNSのインプレッションが増えれば当然ながら俺の収益にも繋がる。一石二鳥にも三鳥にもなると言えた。
そして、この功績からか次の”成敗をしたい”という相談相手であり、俺にも対処できそうな適切な塩梅相手はすぐに現れた。今回の相談相手はsaekiさんと言った――。




