第5話 光山の破滅
俺は光山のその投稿を見た時に思わずその場で小躍りしてしまった。
信号待ちの際に見たために周りから避けられるようにして引かれてしまったが、それでも構わないと思えるほどだった。
『お前ら知ってるか? 匿名性が高くなると情報の安全度が上がるんだぜ。
最近のアカウント凍結祭りは、国内サーバーのIPを自動検知しているらしい。
ドバイのセキュリティサーバー』を経由すれば、日本の警察は手出しできないし、AIの検閲も回避できる最強のシェルターになるんだ!』
その俺にとって輝くような投稿は全てを吹き飛ばすだけの効果はあったのだ。
やった! 光山の奴は、長里さんの投稿を鵜呑みにしたのだ!
カノンちゃんを最初に発見した日と同じぐらいの嬉しさがこみ上げた!
愚かな奴め。現実はむしろ真逆さ。兄貴の情報が正しければ、これで光山が逮捕される可能性が高くなる……。
長里さんも捕まっちまうかもしれないから悪りぃ事をしちまうがな……。
更にこんな投稿もあった。
『日本のネットは遅れてるなw 俺は海外経由だからBANとか関係なし! 美咲にも教えてやったわ。これが新時代の情報強者の動きさ。これで皆も自由な言論を手に入れようぜ』
そして、美咲がそれに呼応して、
『発言するのにイチイチ気をつかわなきゃいけないだなんてサイアクだからね! ミッツーナイスアイディア!』
と発信していた。
美咲はカノンちゃんと見た目こそ似ているが、知性は遥かに及ばない。何と愚かな女なんだ。きっと頭には脳みその代わりにスポンジでも詰まっているに違いない。
俺はフッと笑い、警視庁の情報提供のフォームに光山と美咲のアカウントのURLを貼り付ける。
そこには『ドバイの危険サーバーを広げようとしている危険アカウントです。日本の国益を害するスパイの可能性があります』と書いた。
「お前らは『情強』じゃない。ただの『獲物』だよ。愚かな奴め。地獄に落ちろ!」
送信ボタンを押しながら俺はそう言い放った。
そして、SNSのRにも同様の文言を張り付けて送り付ける。
ククク……結果が楽しみで待ちきれないな。もしかして人生で一番楽しい瞬間かもしれない。
警察のホームページでは今月はちょうど「スパイ取り締り強化月間」だったようだ。全てに追い風が吹いているような気がした。
◇
俺が警視庁に光山と美咲を通報してから1か月が経った。最初の1週間はいつ逮捕されるかどうかワクワクして待っていたものだったが一向に動きが無い。
授業、校長先生の話、無意味な行事の話――代り映えのしない退屈な日常が淡々と進んでいく――。
何だよ。警察ってのは結局動かないのかよ。それとももっと何か”材料”を与えないとダメなのか?
それとも俺の通報ぐらいじゃ”影のスコア”が足りないっていうのかよ……。
あー、やっぱり兄貴本人が通報しないと意味が無いのか……?
チクショウ。どうすれば奴らをギャフンと言わせることが出来るんだ……。
毎日、苛立ちが収まらなかった。
次はどういう作戦を立ててやろうかと色々と考えながら登校すると俺の隣の教室がやけに騒がしい。
不良が何か悪さでもしたのか? と思いながら自分の教室に入り、自分の机にカバンを投げ捨てながら突っ伏しながら座る。
すると、隣の同志沢渡が俺の肩を叩いてきた。
「シュン、おはよう。聞いたか? 光山の奴警察に任意同行で連行されて欠席したみたいだぞ? なんでもスパイ防止法で外国からのスパイだって疑惑がかけられてるって……数日間学校に来れないらしい」
俺は心の中でガッツポーズをした。そうか! ついに警察が動いてくれたのか! 当然ドバイのサーバーの一件が影響したのに違いない! よっしゃぁ!
しかし、皆どうして? という疑問符が多くついている中で喜んだり分かった口を叩くのは危険である。
俺が告発した事がバレれば沢渡だって俺を見る目が変わるだろう。
ここは必死に堪えなくてはいけない……。
「そうなのか……。 いつ誰が逮捕されてもおかしくない世の中なんだな……。光山なんてここらへんで一番の金持ちだろうに……」
内心では高笑いが止まらない状況なので神妙な顔で話せているか心配になったが、沢渡は深刻な雰囲気を変えていないので無事に成功したようだ。
「光山が何をやったから逮捕されるようになったのかまでは分からないけど、あのカノンちゃんすらもアカウント凍結になる世の中なんだから政治的発信をするのにはリスクがあるよな。
どういうワードが引っ掛かるか正直分からないから”自己検閲”するしかないってのが本当に辛いところだよな」
「クローズドなSNSで個人的な会話なら大丈夫なんだよな?」
「少なくとも扇動しているとは思われないから大きな罪にはならないと思う。
ただ、どこかで見られているかもしれないのは間違いないよ。
国や警察が持っている技術は一般人が持っているレベルとは比べ物にならないからね」
今使っているスマートフォンを始めとする電化製品だってもとは軍事技術だったのを誰でも使いやすいようにしたものに転用したに過ぎないものだったりする。
つまり、政府や警察が扱える技術というのは俺たちが想像もしないような次元が違うものだという事だ。
「何事にも一定のケアをしなくちゃいけないだなんて……おっかない世の中になっちまったな」
「もっとも、光山はSNSでは何かと過激な発言をしているとはいえ、それだけが原因とも限らないけどな。
何といってもここらへんじゃ財閥と言っても過言じゃない。何か会社に関することで親族一同がやらかしたのかもしれないよな」
光山は家庭からしたら”お坊ちゃま”と言われるような上級国民なのに、やっていることは俺たち底辺と変わらないような煽りや炎上ネタへの飛びつきなど不毛なことばかりをしている。
それについては学年中が知っているので勝手に察してしまっている雰囲気があった。むしろ漏れ聞こえている会話を聞く限りではザマミロみたいな雰囲気は多少なりともあった。
このような状況が警察からもある意味バレており「スコアの低下」に繋がっているのだろう。
「確かに何が理由で任意同行になったのかまで公表されていないみたいだから今後の動向に注目だな……」
「そうだな……」
教室を探すと美咲の姿はあったが顔面蒼白だ。付き合ってる男が捕まったのだから無理もない。もしかすると自分も逮捕されるかもしれないと恐れているのだ。
いい気味だ。先月俺をこっぴどく振った罰だ。今日から警察がいつ訪ねてくるか分からないと恐怖に震えて眠るがいい!
沢渡は”おっかない世の中になっちまった”と言っていたが俺にとってはむしろ好都合で理想的になったと言っても過言では無い。これで俺が告発者として正義を振りかざすことができるかもしれないのだから……。




