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その47

その47

砦に入るとすぐに併設された冒険者ギルドに向かう。

受付に行くと、C級予定の推薦枠は第3ゲートの”ゲルト”の指揮下に入るように言われた。

「遅いッ!! 何だッヒヨコのくせに今頃ノコノコやって来やがって!!」

第三ゲートリーダーのゲルトに到着を告げると、頭から怒鳴られた。

たしかにカナのギルマスからは少し早めに行くようにとは言われてはいたけれど、現在は予定日の3日前、少し早めのうちじゃない? 前日とか当日とかではないし。

とは言っても、ここでは集団で戦うので軍隊生活未経験の冒険者には少し訓練が必要なのだそうだ。Cランク見習いの初参加ではもう少し早く来るべきだった。

頭から怒鳴られて、いささかムッとするけど、多分こちらが悪い様な気がするので、黙って怒鳴られるしかない。

この砦は外国に対する戦争用ではなく、魔物の、それもスタンピード専用である。

山並に向かって三重の防壁が築かれ、防壁と防壁の間は戦闘用の広場になっている。防壁が一重では討伐した魔物が邪魔になって戦えなくなるため、後ろに下がりながら数を減らしていく。

各個がばらばらに下がってしまうと、残されたグループが魔物に取り囲まれ、全滅しかねない。で、あるからそのための訓練が重要になってくる。と、言う訳で、少々参加が遅れて怒鳴られている。

「お前たち、休みは無しで訓練な!」

ゲルトのお小言はさらに続くのである。

第三ゲートの要員はゲルトを除いて30名、それを3分割して、討伐訓練、山地の偵察、休暇、に分けてローテーションになっているが、私とアズミは訓練が足りていないので、休暇は無しだそうである。

「推薦状には武器は剣とあるが、剣士で良いんだな?」

ゲルトに確認されて、魔物が遠距離のうちは弓も使いたいと言うと、

へぼな初心者は決まって余計な事をやりたがるとぶつぶつ言いつつ、

「魔物が100メートルまで迫ると魔法部隊の攻撃が始まるから、そしたら戻って来い。」

と、言われ、ついでにふだんは唐辛子玉を使って魔物を狩っている旨を申告すると、

「そんな今更訓練する暇もないのに、周りを巻き込みかねないようなものを使えるか!」

と、これまた怒鳴られた。

普段の戦い方を聞かれたから答えただけなのに、怒鳴られるのは解せん。

ついでにさらに不満を言わせてもらうと、どうも足手まといの初心者認定をされてしまったらしく、やたらと絡んでくるのはこちらも頭に来るところである。

まあ、確かに今まで兵隊もどきの集団戦などやった事は無いので、お世辞にも下される指示に的確に答えられているとは言い難いが、言うに事欠いて人の名前も覚えずに”ぺエペエ”とか、”ぺエ助”呼ばわりするのはいかがなものか?

あまりに頭に来たので、訓練後にアズミにゲルトの事をこぼすと、意外にも今はタイミングがよろしくないので我慢するように言われた。

俺はアズミなら絶対けしかけられると思っていたのに、これは驚きだった。

「あ~、ちょっと物騒な話が聞こえたんで、邪魔するぞ。」

はっとして顔を上げると、そこには先ほどまで一緒に訓練していた冒険者の一人の顔が有った。

「まあ、随分と虐められていたんで、思う所が有るのは仕方ないが、そこのお嬢さんの言うとおり今はタイミングが悪すぎる。どうしても、と思うならスタンピードが終わるまで待ってからにしてくれ。」

まあ、ごもっともである。そう言われては無理にこちらの我を通すのはやはりまづい気もする。

「ゲルトもあまりぱっとしない奴なんだがな、あんな奴でも指示を出す奴がいないと、まともな戦いにならんのだよ、すまんな。」

俺の見るところゲルトなんかよりもこっちのおっさんの方がよっぽどリーダーに向いていると思って、それを告げると、

「そんなめんどくさい事やってられるか!」

だそうで、 好き勝手やりたいから冒険者になったんであって、”メンドクサイ事を我慢するなら冒険者などやらずに騎士になる!”とのことです。

あえて突っ込みはしなかったけど、見た感じ貴族か騎士の三男坊当たりなのかな?

しかし、わざわざこんな事のために声を掛けてきたのかと思って、礼を言うと、実は”唐辛子玉”が欲しくてそのついでだそうで、2~3個くれと言われた。

「あれは周りを巻き込む危険があるんでダメと言われたんですけど。」

俺が答えると、

「いや、戦ってる奴を巻き込まない、もっと奥の方に投げ込んで、押し寄せてくる魔物の足を止めるのに使って見るつもりだ。」

”なるほど!” とは思うけど、ゲルトがダメ出しをした物を何でわざわざ? と聞き返すと、今回のスタンピードはちょっと様子がおかしいらしい。

「いつもならとっくに始まっているぐらい魔物密度が濃いのに、いまだに押し寄せてこない。過去の例からすると今回のスタンピードはかなり大規模になるかもしれない。ゲルトの奴がピリついてるのもそのせいだ。」

ついでに、せっかくのんびりするつもりで、いつもだと魔物の数が少ない初心者枠の第三ゲート配属を希望したのに、今回は楽をさせてもらえそうもないとブチブチぐちられたが、第三よりも魔物の多い第二や第一に行ったらもっと大変なんじゃないの? つい突っ込みたくなった。

「ついでに、俺の名前を出しても良いから、もう1度ゲルトの奴に”唐辛子玉”を進言してみてくれ。」

とは言われたけど、申し訳ないけど、まだ私はそちら様のご芳名を存じ上げないんで、名前の出しようがないんですけど・・・、それに、またゲルトに怒鳴り散らされそうで、正直気乗りはしない提案である。色々と突っ込みどころの多い御仁だ。

「ワリい、ワリい、俺はダゲールだ。俺からゲルトに言っても良いんだが、あれだけ偉そうに怒鳴り散らしておいて、ゲルトの奴、今更お前に頭を下げるのは難しいだろう。」

本当は嫌だよ。本当に嫌だけど事スタンピードに関するとなると、ゲルトはどうでも良いけど、他の冒険者の、それも下手をすれば命にかかわってくることもある。

もし、あの時わがままを言わなければ、あいつの命は救われたのに…とか、後々後悔する様な事が有ると嫌だ。

それで少しでも戦いが楽になるなら個人的な不満は棚上げするしかない。


「エイッ!!」

「エイッ!!」

昨日に続いて今日も集団戦闘の訓練である。

ちょっとアホみたいではあるが、これでも立派に訓練である。訓練では実地に魔物を相手にもできないから仕方がない。体力作りもかねて剣を振りながら、集団で動く練習である。

「総員退避陣形を取れ!!」

「弓隊援護開始!」

「1番から5番退避開始!」

これは防壁の外側で戦っていて、倒した魔物が多すぎて戦いにくくなったり、襲ってくる魔物の数が多くて危険になった時に一つ内側の広場に撤退する訓練である。

退避と言っても1度に全員が防壁のゲートをくぐるにはゲートが狭すぎるので、事実上ある程度の時間、後続の冒険者は多数の魔物の中に取り残される事に成る。いかにスムーズに退避するか、弓隊の援護をいかに活用するかが肝になる。

これは素人考えでもリスクのありそうな場面である。この時に弓だけでなく唐辛子玉も使えたら・・・魔物の圧力を減らせるんじゃね?

「唐辛子玉の事ですが・・・。」

ダゲールに言われたこともあって、ゲルトに唐辛子玉の事を切り出すと、途端にゲルトの眼が三角形に吊り上がって、魔物のような形相に代わる。

「ダゲールさんに言われたんです。」

”怒鳴られる!!” そう感じて慌てて言い募る。好きで話を持ち出したわけではない。もうこれ以上怒鳴られるのはご免である。

ゲルトも、今にも怒鳴りだしそうな表情のまましばし固まって、それでも話だけは聞いてもらえた。

暫く何を話して良いか戸惑っているような表情をしていたが、

「まあ、ナンだ、取り合えず持ってきておけ。使うタイミングや、投げる位置は俺が指示する。くれぐれも勝手な真似をするな。」

この場面ではひと言詫びる言葉が入ってもいいと思うが、それどころか上から目線のポジションをしっかりキープするのは呆れるのを通り越して、もはや尊敬に値する。しかし、それでもメンツ優先で”唐辛子玉”を却下しなかったのは、褒めてもいいかも知れない。

”ダゲールも俺に直接言えばいいのに。”

とか、ブチブチ言っていたが、ダゲールがそれをやっていたら”唐辛子玉”の使用をゲルト自身が俺に切り出す事に成る。

ゲルトに”あんた、俺に頭を下げて”唐辛子玉”を使わせてください。って言える?”と聞きたくなったけど、もちろんそんな事を言ったら大騒ぎになる。

これは、上から目線で貶めてくるやつに、ザマアする絶好の機会でやりたいのは山々だが、こういう時それをやると、たいていほかの関係ない人が割を食う事になる。

例えば、いざ俺様が少しでもエラそうな事を言えば、ゲルトの奴はブチ切れて、前後も見境なく”唐辛子玉”の使用をやめるだろう。で、割を食うのは関係のない冒険者、それもC級予備軍だったりする。

当然だが今回のスタンピード平定でそれなりのケガ人や、下手をすると死者も出るかもしれない。

そのうちの何人かは”唐辛子玉”を使えば防げたもしれない。自分のわがままで関係ない冒険者がケガをしたり、命を落としたりするかも知れない。

そう考えると、うかつにザマアもできなくなってしまう。

それで仕方なしに大人しくしていれば、余計に上から目線でなめて掛かられる。何とも理不尽な状況に腹が立つが、だいたいこれが引き籠りの陰キャが陥るいつものパターンである。

”そのうち何時か、そのうち何時か、思い切りザマアしてちゃぶ台をひっくり返して、本気でザマーしてやる!”

そう深く心に決めるカズであった。


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