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その45

その45

『カランコローン』

懐かしい扉を押すと、懐かしい音がした。

ムルガの村で何となく物足りない思いをしたのは、農家を借りた臨時ギルドではこのベルが無かったからかも知れない。

朝の忙しそうな時間をさけて、ドアの中をのぞくと、たった一組の冒険者と対応しているビビアンさんが見えた。

ビビアンさんは顔を上げてちょっとにっこりしたが、すぐにお客さんの対応に戻る。

カズとアズミはビビアンさんの手すきを待って、隅のテーブルに陣取る。

やたらに懐かしがるほど日にちはたっていないはずだがと、このギルドのいくぶん長閑な雰囲気を楽しんでちょっとボーッとしていると、

「久しぶりね。もうちょっと早く帰ってくると思って待っていたわ。大活躍だったみたいね、アズミは。」

ニコニコ笑顔でビビアンさんが話しかけてくる。カズでなくて、アズミに。

いくらカズの事を人並みに扱ってくれると言っても、やはり、受けが良いのはカズよりもアズミである。やはりちょっと悲しい。

「なんか、変な二つ名までもらったみたいですよ、アズミは。俺だってちょっとは活躍だったと思うけど。」

「まあ、カズはカズだからね。ちょっとぐらいどうこうしてもカズだから。でも、アズミもね~、その格好どうにかならないの? 」

「変かな~、可愛いと思うけど。」

カズの言う事など聞かないアズミでは有るけど、ビビアンの評価は気になるようだ。

「アズミは”瞬速剣の使い手”なんて御大層な二つ名を賜ったけど、どうもその格好は動き易そうには見えないし、変な虫が集団でたかりに来そうだぜ。」

あまりギャーギャー言うのも逆効果ではあるが、このぐらいまでなら・・・とカズも言葉をつなぐ。

だいたいこれからノーザンピークのスタンピードで弓を引くのに、ゴスロリのフリルだのリボンだのはどう見ても邪魔である。

「ところで今日は? って、これから依頼の受付じゃないよね? 」

ビビアンの言葉に、

「これからノーザンピークに行くけど、まだギルマスから推薦状をもらってなかったから。それと、そのあとそのまま王都に行って、魔法学園に入るつもりなの。」

アズミの言い方を聞いていると、自分が魔法学園に行かない事は話さないつもりらしい。

「ええと、それで暫くこちらには来れそうもないからちょっとご挨拶に。」

やっとカズが話に割り込む。ほんらいカズがビビアンにプレゼントを渡すのが一番メインのイベントだったはずだが、これでようやく本来の道筋に戻す事が出来る。

「ビビアンさん、これ、今までお世話になったお礼です。」

予定どおりビビアンにティーカップを渡すカズ。これで何事もなくプレゼントを受け取ってもらえれば、とりあえずミッションコンプリートである。

「へ~、カズがねえ、私にプレゼント? 」

と、微妙な返事をしつつ包みを開けると、

「わー、かわいい!! でも、変な下心とか無いでしょうねえ! 」

喜んでいるのか、いないのか、この返事もかなり微妙である。

「下心も何もしばらくいなくなるんだから心配ないでしょう。それと、そのティーカップ、親父が集めたガラクタの中に何個か入ってたんだが、学園に行ってプレゼントが必要になった時に使ったとして、どう評価されるのかも知りたがったんだ。」

「こんな可愛らしいカップを見たのは初めてだから何とも言えないけど、やたらに送り付けていい物とは思えないわ。あっ、私は別よ。もうもらっちゃったから返さないわよ。」

「いや、別に返せなんて言ってませんけど。」

やはりこの世界では、あるいはこの国では、陶器は有っても磁器はほとんど流通していないらしい。平民はもちろんある程度裕福な商人とかでも使っているのを見たことが無いそうだ。ギルマスなら、あれでも元はA級の冒険者端くれで、貴族のお茶会に招かれる事も有ったそうで、ひょっとしたらお貴族様が使って居るかどうか知っているかもしれない。と、付け足した。

「で、ギルマスは二階? 」

あいさつ代わりに渡すつもりで近所の酒場で買ってきた蒸留酒の壺を持ち上げると、

「ギルマスはちょっと買い物・・・。」

と言う声と、

「俺になんか用か?」

と言う声が被った。

振り返ると、カズが持ち上げているのと同じ酒壺をぶら下げたギルマスが立っていた。

酒屋の主人には冒険者に人気と言われたので、何も考えずに買ってきてしまったのだが、人気なのは確かなようで、ちょうどギルマスも買ってきたようである。

おかげで声ではなく、贈り物のつもりの酒が被ってしまった。

微妙に体裁が悪くて、カズは左手も持ち上げて、

「こっちの方は”蒼天の銀翼”のダンさんに・・・。」

ぼそっと呟くように言葉を濁す。

ギルマスにティーカップの事を聞いてみると、ギルマスも磁器製のティーカップは見たことがないらしい。1、2度、貴族のお茶会にも顔を出した事が有るそうだが、

令嬢やご婦人でも使っている茶器は豪華では有るものの、もっと無骨で、これほど可憐な茶器は見たことが無いそうだ。

「こいつは、安直にホイホイ渡して良い物じゃないぞ。」

「そうよ、ちょっと気に入った女の子だからと言って、気安く上げちゃだめよ。」

ギルマスの言葉にビビアンがかぶせる。

「アッ、私は別だからね。もう返さないから。」

今更ながら取って付けたように宣うのが今更である。

「あの~、アズミのいで立ちの事なんですけど、中古で良いので、ササッと軽鎧とかを用意してくれるところとか知りませんか?」

「ん、確かにちょっと魔物と遣り合う格好じゃないな。」

事自分の服装に関しては、カズの言う事など聞かないアズミではあるが、ビビアンやギルマスにまで言われると、さすがに感じるものが有るらしい、ちょっとブスッとしながらも反論なく聞いている。

「ノーザンピークでは弓を使って見るつもりですが、あの恰好じゃあ・・・、最悪胸当てだけでも付けないと拙いでしょう。」

「そりゃあ、弓を使うなら・・・・って、お前たち弓も使えるのか?」

「実戦で使った事は無いですけど、俺たちの弓は大型で、長射程が売りなんで、森の中のような見通しの悪い所では使いにくいんですよ。今回は平地で広い場所での待ち受けなんで試してみたいと思っています。」

「途中の町にやってくれそうな所が有るにはあるが、ちょっと親父が面倒な奴でな、親父に気に居られればと言う条件付きだが、そっちも試してみるか?」

職人気質の頑固おやじには有り勝ちの”納得のできん仕事は受けん!”と言う奴らしい。

「ねえ、マスター、その武具屋、マスターの知り合いでしょ。紹介状を書いてあげたら?」

ビビアンさんの言葉に、なんで俺が?と言うように片方を眉を上げるギルドマスターのアルマダ。

「今度、飲みに行くとき付き合ってあげるから。」

もらったばかりのティーカップをなでながらビビアンさんがおっかぶせるように言うと、それで話は決まってしまう。やはり男と言うものは女性にはかなわない生き物のようだ。

以上のような一件が有りまして、アズミと・・・、もとい、カズとアズミはノーザンピークの途中のロザの町へと旅立っていくので有りました。

最近忘れがちですが、主人公はカズでした。二人の名前を書く時にはカズを先に書くべきですね。

                        *


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