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その44

その44

色々あって、アズミとカズは、今は昔の魔の山のアジトに居る。

依頼に問題が有ったわけではない。ムルガの村の魔物討伐の依頼は無事終了した。

この後はノーザンピークのスタンピードに対応、そのあとそのまま王都に向かって、魔法学園の入学に備える予定だが、それぞれについて対応が必要になった。

まず、アズミは魔法学園には行かない事に成った。理由はいつまでもカズがアズミのスカートの陰に隠れて居ては困る・・・・いや、これは冗談であるが、いや、冗談だとばかり言いきれないのが困った所であるが、表向きのメインとなる理由は二人で雁首をそろえてまで行く必要があるか? と言う事である。

行かない理由については、魔法以外に特に学ばなければならないことが無い事である。ちょっと考えてみてほしい、例えば数学・・・いや算数である。

スパコンのアズミが算数である。それももっともらしく真面目な顔をして教わらなければならない。

この世界の数学は微積はおろか代数計算もないらしい。多分高等数学と言うのは鶴亀算とか、植木算とか・・・。こんなものを真面目に教わるとか、まあ、とんでもない苦行になることは間違いない。

学園に行くのが無意味であるという気はない。実際の生きた知識や不文律を体験するには、学園に行って学んだ方が軋轢は少なさそうだ。何しろこの世界には貴族なんていう連中がいる。

それでもなお、魔法学園以外で調べなければならない重要事項が二つほどあり、それを外すわけには行かないと言う事に成ったのだ。

一つはこの世界の神々と魔法とのかかわりである。

無属性魔法、通称生活魔法に関しては神々の名を出すことに任意であるのに対して、属性魔法の場合は詠唱が必須であり、かつその詠唱の初めの部分にそれぞれの神に対する祈りや結びつき文言と言ったものが必要になるらしい。

つまり、属性魔法に対して、この世界の神々がどのようにかかわって来るのか、知る必要があるのだが、もちろん学園でもある程度は教えてくれるだろうが、神々の事となると、教会が専門であるはずであり、教会での調査も必要である。

さらにもう一つ、古代遺物と言うものがある。

きわめて強力な魔法的な遺物でありながら、現代魔法に必須の神々とのつながりが感じられない。

つまり、はるか昔、すでに失われてしまった魔法があり、その魔法は強力でありながら、現在の魔法とは全く違った成り立ちを持っていた、と、言う事である。

当然ながらこれを調べないという選択肢はない。

これをアズミが一人で担当する事に成る。

色々と問題である。

悪い虫がわんさかと寄って来ることが考えられる。

虫よけだけなら、新たにアズミの父親役のアバターを作ることも考えられるが、致命的な欠点は父親の経歴や資格まで作る事が出来ない事だ。

古代遺跡を探索するにあたって、アカデミックな経歴が無い事はアマチュアで活動していた、と、誤魔化すにしても、冒険者の経歴さえ無いとすると、個人的に活動していたと自称する事自体が不可能である。

アズミ一人に頑張ってもらうしかないらしい。

で、初心者の何もできない可愛い女の子キャラではどうにもならない。立派に独り立ちできる、安心立命のキャラが必要になる。

最近アズミがやたらに顔を売り出したのはこの辺の事情を考慮してのことらしい。

その辺は ”さすが!” とほめても良いが、せめていで立ちも何とかしてほしい。

”『ゴスロリ』 はないだろ! ” と、思うカズである。

当然ノーザンピークのスタンピードでも一発花火を打ち上げて、出来る女アズミここに在りを宣言したいところだが、問題はその方法である。

単純に注目を集めるだけならば、強大な攻撃魔法をぶっ放せばいいだけだが、それをやってしまえば、景品として大問題が漏れなくついてくる。

「弓が良いと思うな。」

「弓? なんかずいぶんと地味で注目とかされそうもないが。」

アズミの提案だが、首をかしげざるを得ない。

「弓と言っても和弓ね。私たちが来た21世紀の日本ではもうそこまでの強弓は引けないけど、戦国時代の武将なら400m以上飛ばしてやっと一人前みたい。」

戦国時代の武将たちの弓は飛距離400m以上、有効射程距離でも350mは有り、強弓使いでは有効射程距離でも400mを超えるらしい。和の武器と言うとカズのような武道音痴には日本刀しか思い浮かばないが、いにしえの敷島においてはバリスタやクロスボーのような機械式の弓には及ばないものの、通常の弓としては世界でトップクラスの性能を誇っていたと言う。

「射程が長いのは判ったけど、それでもやっぱり弓じゃ地味なんじゃねえ? 」

強力な広範囲魔法と一緒では弓の威力はいかにも見劣りしそうである。

「ノン、ノン、ノン、スタンピードの鎮圧に国の魔法隊も来るらしいの。流石に国の軍隊ともなると、すごくて、1発で2~30mの範囲を焼き尽くすらしいけど、残念な事に1人10発から20発程度で魔力切れになるらしい。」

「いや、しかし、一発で2~30mを焼き尽くすようなもんとじゃ、勝負にならんだろう。」

「だから~、20発しか撃てないから、どの程度の射程が有るのかは知らないけど、ある程度近づいて最も効果的な部分を狙って打つ必要があるわけ。」

「あ~、そう言う事か。」

「実際には100mぐらいまで近づいてから撃ち始めるらしい。」

「は~、要するに和弓の射程の400mから、魔術団の撃ち始める100mまでは弓の独壇場って訳か。」

「そう言う事。それに和弓の所作はめちゃ美しいから・・・魔術ほど派手じゃないけど、人目を引き付けるには十分だと思う。」

と、言う訳で弓の練習をする事になる訳であるが、それ以前におまけとしてカズにも魔法学園に行くための対応も必要である、と釘を刺された。

ただし、飽くまでもお負けである。

「あのね~、カズねえ、もうちょっと女の子と、せめて普通に話せるようにならないとまずいよ。」

「そんなこと言ったって、勝手にディスって来るのは相手の女の方だろう。俺自身は超絶人畜無害だぞ。」

悲しい事に、カズの場合、どうせ相手にされない事を悟り切ってしまって居るので、自分から下心を持って近づくつもりはない。

「その辺は判るけど、相手がそうは思ってないのが問題なの。」

”そんなの相手の勝手だろ、なんで俺がオベッカイ使わなければならない!” そう思うカズであるが、人類の半分は女であり、その半分から相手にされないと言う現実がそこにある。

「まだ、人間の半分、男が残ってる。」

カズが言うと、

「その残り半分だって、相手にしてくれるのは少数でしょうが。」

アズミに言い返される。

まあ、そうである。それが引き籠りの、引き籠りたるゆえんである。・・・・・詰んだ。

・・・・ ではどうするか? と言う事に成るが、その手の事に対しては名案など有るはずもない。

こういうのは本人の自覚と、漂う雰囲気が重要で、引き籠りが体臭からにじみ出ているうちは、まず無理である。

「それでも、剣術をやるようになって大分変ったと思うけどな。」

「よくよく見るとね。ぱっと見は・・・染み着いてしまった引き籠り臭はそう簡単に抜けないわ。」

情けない話が続くが、”それでどうする?” と、言う事に成り、カズに唯一マイナス印象を持っていないカナの町のギルドの受付嬢、ビビアンさんに練習がてら贈り物でもしてみようと言う事に成った。

いちおうお世話にはなったし、これから魔法学園に入るのでしばらくは会えないし、しばしお別れ&お世話になったお礼の挨拶なら不自然な事は無いはず。

で、何を送る? と言う事に成る。

世間一般の女の子は貴金属、アクセサリーの類が好きであるが、身に着けるもの、あまり親しげなものを送ってしまうと、カズの場合下心を疑われる。

女の子に対しての適度の距離感・・・カズの場合その適度と言う奴がほぼ存在しないのだが、唯一ビビアンさんなら、少しは考慮していただけるはず。

「ティーカップあたりが良いんじゃない?」

「ティーカップ? その心は? 」

「今まで見た限り、この世界では陶器は有っても磁器がないみたい。女性がお茶するには厚手でちょっと武骨な感じがするから。」

なるほど、たおやかな女性の細い指がつまむのは、マグカップのようなごつい陶器の茶器よりも、小さな花をちりばめた白磁のティーカップの方が似合うに違いない。

それで行こう、と言う事に成った。

それはそれとして・・・。

アジトの前、練習場として使っていた広場で、アズミとカズ、弓を構える。

弓道は美の技である。弓道の目的は型を極め、精神を極める事。射法八節と呼ばれる磨き上げられ研ぎ澄まされた手順の様式は、神前に捧げる巫女の舞の様でもあり、静謐にして森厳である。

求めるはその様式所作の美しさ、矢の的中はその美の結果に過ぎない。

弓を新しき技として始めから覚えるには時間がなさすぎる。要するに不可能である。

したがって、覚えるのは弓道と言う所作、様式の美しさ、弓道が弓の神に捧げる巫女の舞ならば、剣の型も武の神に捧げる、これも武の舞である。

出来ることはすでに有るもの、剣術を通してすでに蓄えたものを、弓道と言う所作様式に流し込み、なじませ、魔力の強化によって練り上げること。

射法八節 『足踏み、胴造り、弓構え、打ち起し、引分け、会、離れ、残心』、洗礼され、見事に整えられたその様式を美として磨き上げる。まさに矢の的中はその結果に過ぎない。

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