その43
その43
「お~い、もうアズミと試合う根性の有る奴はいないのか? いないなら俺がやるぞ!」
テルマがぐずって二本目を試合おうとしないので、業を煮やした冒険者の一人が声を上げた。
「おお、やれやれ!!」
「お前、勝てるつもりか? 負けて恥をかくだけだぞ!」
周りから色々と声が掛かる。
「ばーか、負けは承知の上だ。俺の見るところ、この中でアズミに勝てる奴なんかいねえよ。」
「おお、それはそれは、承知で恥をさらすつもりか!」
「しょうがねえだろうが、あんな剣のひと振りにもなんねえ勝負で、ハイ終わりって訳にはいかんだろう。負けを承知で戦うのも冒険者の意地だ。死ぬわけじゃあるまいし。」
「あたしは正式に剣を習った人とやるのが良いんだけどな。」
アズミがひと言割り込むが、すぐに却下されてしまった。
冒険者で正式な剣技を知っている人はあまり居ないし、ノコノコ出て行ってアズミのような女の子にボコられ希望者はまず居ないんだそうだ。
だいたい平民が正式な剣術などなかなか習えないし、魔物相手ならばスピードとパワーでケリがつく、人間相手のような駆け引きは必要ない。
多少なりとも剣技を知っているのは商人の護衛を専門にしている人とか、兵隊崩れとか、貴族や騎士の三男四男あたりでへそ曲がりで冒険者になったようなかなり特殊と言うか、限られた人になってしまうそうだ。
「あ~、俺はアルトだ、取り合えず俺が相手をする。騎士の三男坊を知ってるから、あとで紹介してやるから、そいつに話を聞いてくれ。」
と、言う事に成った。
周りからやんやの声援を受けながら、アズミとくだんの冒険者は広場の中央に立つ。
テルマの時と同じようにアズミはスルスルと間合いを詰めていく。
「わっ、わっ、わっ! ちょっ、ちょっと待て!」
アルトは慌てて距離を取って、待ったをかける。
「えっ、ちょっと待てって何?」
「いやあの、何と言うか、そう無遠慮に間合いを詰められると、調子が狂う。何と言うか、その、心の準備が・・・。
大体、普通は間合いのすぐ外でにらみあって、タイミングを見て、こう、バッと仕掛けて行くもんだろ。」
別に”相手の間合いにノコノコ入って行ってはいけない。”そのような規則など存在しない。ただし、普通はやらない。
「ヘイ、ヘイ、”心の準備”ってか? 初心娘のお床入りってか? バカ言ってんじゃねえぞ!」
外野からヤジが飛ぶ。
「なあ、何でアズミはノコノコ相手の間合いに入っていくんだ?
あれなら自分から切りかかっていた方が速そうなんだが・・・。」
ノマドに声を掛けられた。
「一つは、相手がどんな技を使うか見たいって事も有るんだが、もう一つ、攻撃は最大の防御って言葉があるが、剣では必ずしもそうじゃないんだ。
相打ちなら・・・相手が切り込むと同時に捨て身で切り込んでいけば、多少の格の違いぐらいひっくり返して相打ちにする事が出来る。」
「模擬試合で相打ちを狙ってる? それ、おかしくねえか?」
「いや、相打ちと同じ剣の動きをしながら、相手の剣を体さばきでかわす事が出来たら、どういう事に成る? アズミのスピードが有れば難しい事ではないぞ。」
カズは仕方なしに解説する。本来なら自分の手の内はあまり明かさない方が良いのだろうが、アズミは隠す気もなさそうだし、まあ、良いかという気分である。
アルトは何度も深呼吸を繰り返し、ロングソードを模した木剣を八相、やや担ぐように構えて、
「よし! いいぞ! 来い! 」
声を掛ける。まるでバッターボックスに入った野球のバッターが、ピッチャーの投球を待つ様に、迫ってくるアズミに剣を振るうべく、待ち構える。
「ターッ!!」
アズミが間合いに入った瞬間、アルトは袈裟懸けに剣を振り下ろす。
「ハッ!」
一瞬の体捌き、アズミは右に回り込みながら刀を片手持ちにして半身になり、アルトの剣を紙一重でかわしつつ同時に籠手を打つ。
ゴンと骨を打つ音が聞こえて、これは痛そう! アズミの奴、ちょっと手加減を間違えたか?
「オオオッ!!!」
思わず剣を取り落し、右手を抱え込んでしゃがみ込んで激痛に耐えるアルト、木刀とは言え、普通に力を入れれば骨は砕ける。
”大丈夫? どうする?”
目線で尋ねるアズミだが、
「もう1本…頼む。」
半分意地と言うか、強がりと言うか、もう1本模擬試合を頼んでくるアルトの目が涙目である。
すぐにと言う訳にはいかず、ポーションを掛け、痛みが引くのを待ってから、結局アルトは計5本模擬試合をこなして終わった。
「ぶー!」
「もうちょっと頑張れただろ!」
「良い所なし!」
周りから罵声を浴びながら、
「あ~、負けた負けた。クソーッ! 全然いい所なかった。」
アルトがぼやきながら戻ってくる。
「ヘイヘイ! もうちょっと何とかならんのか。」
さらにしつこい罵声に、
「ウルセー! 文句があるなら自分でやれ! 」
怒鳴り返すと、アルトは周りに向かって声を掛ける。
「お~い、ダミアン、ちょっと来てアズミの技を解説してくれ。
アズミ、こいつダミアン、騎士の三男坊なんで、騎士の正式な剣技とか多少は知ってる。」
「あ、アズミです。よろしく~、騎士が使うような正式な剣技とか知らないので教えてください。」
「こちらこそ、いや~、ふだん煩い奴がボコボコにされるのって、見ていて楽しいよな。その相手が小ぶりの女の子となるとなおさらだ。よくやったアズミ。
アルトも見事な道化ぶりで、いや~、実に良かった良かった。ご苦労さん。」
このダミアンっていう人、どう言う性格しているんだろう? さすがにアルトもちょっとばかりムッとしていた。
「あのな~、さすがにそれは言いすぎだろ。俺だっていろいろ苦労してたのわかるだろ。」
「まあな、だが、回り込みながら距離を取るのは良いが、ただ逃げるだけになったのはいただけないな。」
さすがに一家言は有るらしいダミアンの言葉に、
「なにも俺は逃げてばかりいたわけじゃないぞ。フェイントも使ったし、切り下げにためを作って、何とか切り結ぶのもやったぞ。みんな失敗したが。」
アルトが返す。
「おう、あれか、あれどうなってるんだアズミ? 切り結んだと思ったら、アルトの剣を絡め捕られるように反らしていたが。」
「巻の事かな? 刀・・・、私の使ってる剣は刀って言うんだけど、反りが有るんで、その反りと、手の内って言う刀の握り方を使って、剣を巻き付けるように働かせて・・・・・」
「それより、問題はあの突きだ! やっと隙を見つけて絶対勝ったと思って、突きを放ったら、こちらの剣は反らされるわ、飛び込んだらアズミの剣に自分から突き刺さりに行っちまった。テルマの言い分じゃないが、”ありゃインチキだろ!”」
アルトが突っ込む。
「ふふふ、あれも刀のそりを使った技ね。相手の剣の上を滑らせながら、刀のそりを使って相手の刃筋を反らしていくの。」
「なあ、ダミアン、ロングソードじゃ刀に太刀打ちできねえんじゃねえか?」
何かアルトがヤサグレてぼやく。
「そんな事ないですよ。刀よりロングソードの方が間合がも広い。どんな技を使おうと届かなけりゃ意味がない。刀のアウトレンジから攻撃すればいいだけです。」
まあ、理屈上はそうなる。現実はアズミのスピードで翻弄されるしか無いにしても、魔力強化抜きの素の体力勝負となれば、トータルで見て、アズミよりアルトの方が有利に決まっている。
ようするに、アルトがどんなに渋い顔をしようと、”得物のせいにするな! 魔力強化の技で劣っているあんたが悪い!” と言う事に成ってしまう。
「そろそろ騎士の剣技の事を教えてよ。」
当然こうなる。アズミはこの世界の一般的な剣技の事を知りたくて試合を受けたわけだし。
「ロングソードの場合、基本的に刀よりも重いので、簡単に振り回せない。体捌きで相手の剣を空振りさせて、そのすきに切り込めればいいが、でない時にはとりあえず四つに切り結んでからの勝負になる。」
四つに切り結んでから相手の剣を力づくで押しのけて、相手正面の剣筋を通して突く。逆に、押してくる相手の力を使って、足さばき、体捌きで相手の剣を躱しながら、潜り抜ける、影抜きのような技もあるらしい。
「突き以外では、相手の剣と切り結んだ時の反動を使って、回転させるように振る。相手の剣筋から身をかわすために、体さばきと併用するが。
それから、突きでも、四つに切り結んだ状態から、体さばきで相手の剣筋を反らしながら、上から覗き込むように突いたり、下から潜り込むように突いたり、
あと、単に力で押すだけでなく、小手の返しを使ってぐりっと相手の剣を押し戻すってやつもある。」
「ん、それってどう言う事? 」
何か気になる事が有るのか、アズミが食いついた。
「ああ、四つに切り結んだ時、単純に押すより小手を返すようにして捩じり込んだ方が力が入るから・・・、それで相手の剣を押しのけて刃筋を通すわけだ。」
「ん~と、それって、刀のそりを使う代わりになるんじゃない?」
「ちょ、ちょっと待て、それって、俺がアズミにやられた、あのインチキな突き技が剣でもできるって事か? 」
アズミの言葉にアルトが夢中になって割り込んでくる。
「インチキってなに、インチキって・・・ちょっとおォ、その言いぐさ、何なのォ?
・・・ まあ、いいわ。四つに切り結んだ時にわざと中央を譲るか、切り結んだあと相手が押してきた時に、わざと押されたふりをして中央を譲れば、相手は突きに来るって事でしょ、そのタイミングでぐりっと小手を返しながら押し返すように突きを入れれば、あんたの言う、インチキが出来る・・・と思うわ。」
「本当か? 本当にできるか? ・・・・・、うん、うん、こんな感じか?」
ぶつぶつ呟きながら、アルトはエアーで何度も剣を振るそぶりを繰り返す。
「おい、ちょっと、ダミアン…」
「あ~、その話、オレ振るのは拙いんじゃない。あんたの切なるご要望で、目下アズミと誠意お話し中なのですが。」
「・・・あっ、わりい、じゃ、そっちのお前、お前でいいや、ちょっと付き合え。」
「お前って何だ! てめえにそんな口きかれる覚えはねえぞ!」
当たり前である。顔見知り程度の奴にそんな口を利かれて、大人しくしていたら冒険者商売、やってられない。アルトの奴、大分てんぱっていたようだ。
ただし、
「ああ、すまんすまん、つい気がせいてしまって、エルム、悪いが、ちょっと手を貸してくれ。あとで1杯、いや、2杯か3杯おごるから。」
これで一件落着した。
大抵の事なら、冒険者仲間では ”1杯奢る。” こう言われ謝られて、なおゴネる奴はかなり悪質なクレーマーとみなされてしまう。
と言う事で、アルトとエルムは仲良く、かどうかは知らないが、木剣を抱えて広場の方に行ってしまった。
そのあと、
「おい! バカ! 最初はゆっくりやらないとタイミング掴めないだろ!」
「うるせえ! バカ言ったな、おごりはもう1杯追加だ!」
若干不穏な言動も聞こえるが、気にしないことにする。
ダミアンの説明によると、アズミの魔力強化は群を抜いて強力であるらしい。
当然である。人間業ではない。
まあ、そこは置いておくとして、アズミが”高橋長信改”の長刀を振り回すように、アズミ並みに魔力で身体強化して、ロングソードを振れる騎士はごくごくまれである。これも当然だろう。
であるから、ごく少数の魔力強化に突き抜けた個人的な技法はともかく、一般的な型としての剣技において、アズミが見せたような剣技は成立しえない。
それに、まず、騎士の最重要任務は国対国の戦争である。
戦い方は重装備で騎乗しての機動力を生かした集団戦。
なので、必然的に騎士は騎乗の上、防具はプレートアーマー、使う武器の主力は騎乗して使えるやりのランス、あとロングソード。
たとえアーマーを貫けなくとも、打撃だけで騎士を落馬させるぐらいのダメージを与えられる武器が必要になり、剣技もそれに対応した技が中心となる。
ところが拙い事に、いや、とても幸いな事に、きな臭い噂はあるものの、今の所この国の平和は長く続いて、しばらく戦争は起きていない。
したがって、現実の実際に行う騎士の任務は首都の警備や魔物のスタンピードが起きた時や、冒険者では手に負えないような魔物の討伐の応援などになる。
路地の多い首都の警備や、魔物の討伐の森の中では、騎乗の上プレートアーマーの完全武装はあり得ないので、徒の軽鎧、剣だけはステータスでもあるロングソードになる。
訓練は騎乗重武装の集団戦術が基本であるのに、実際に行う任務は軽武装徒の個人戦と言う、かなりちぐはぐな状況なのだそうだ。
とは言っても騎士は武人の花形であり、個人的には魔力強化に突き抜けた天才騎士と呼ばれる人もいて、その剣技は凄まじいと言われるものの、あくまで個人的なもの、一般的な騎士の剣技の型としては降りてきていないと言うのが現状らしい。
「チクショウ! いんちき! 卑怯者! あんなの無しだ! なし! 」
「ワッハッハッハァ~! 卑怯結構! いや~いい気分だ! 俺は世界一の卑怯者と言われてもいいぞ!」
アルトは新しい剣技は上手く行ったようで、エルムにぼろ糞言われながらも、ご機嫌で戻ってきた。
「アルトのこと、これから”ペテン師アルト”と呼ぼう。」
エルムはそう言うが、その技を考えたのはアズミで、しかも実力はアルトより上、そのアズミより先にアルトに二つ名がつくのはおかしいという声が上がって、まずアズミに”瞬速剣の使い手“なる御大層な二つ名がつくことになった。
「アズミの方がペテン師だろう。」
と、言う声がテルマとアルトから上がったが、
「女に騙されてブチブチ言う奴は男の屑だ。」
とか、
「可愛い女の子に騙されてやるのが男の美学だ。」
とか、とんでもない事を言う奴が現れて、しかもそれが大向うをうならせてしまって、無事、と言うか何と言うか、アズミは”瞬速剣の使い手”なる二つ名を賜る事に成ってしまった。
まあ、それはさて置き、
「新しい技を覚えて、だいぶご機嫌だけど、その技は駆け引きのない魔物には通用しないから。」
アズミに言われて
「あ”~・・・。」
天国から地獄に一気落ちのアルトであった。
まっ、刀は鞘の内と言うし、必殺剣もやたらに見せびらかしたりするより、心の支えとしていた方が良いんじゃない?
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