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その42

その42

「だからぁ~! 奴ら絶対おかしいっすよ!!。」 

臨時のギルマスに引きずるように連れてこられながらも、何かいろいろ言い募っているのは”アロナワの栄光”のリーダーのテルマである。

「何がおかしいだ。相手は魔物だぞ。他のパーティーに迷惑を掛けなければ何やろうとオーケーだろうが。」

「だって、あんなチビ助の女子供が、あれだけの数を退治するなんて…・絶対インチキに決まってるじゃないすか。」

まっ、気持ちはわかる。うん、その気持ちはわかるよ。事実ある意味アズミなんかインチキの塊りだし。

「インチキもくそもねえだろう。文句言うなら、ちゃんとみんなの見ている前で証明しろ! コソコソ付け回すのは、誰だって迷惑だろ!」

話だけ聞くとギルマスの言う事ももっともと聞こえるが、テンプレだとこう言う場合思い上がった冒険者の方が、勇んで模擬試合を挑んでくるはず。が、どうも様子がちがう。

これなら模擬試合などしなくても話だけで事を納められそうなのに、むしろ 事を煽り立てているのは『臨時』ギルマスのように見える。

まあ、周りの様子を見ればそれも納得できるのだが。何しろ、臨時ギルド前の広場には冒険者のほとんどが集まっていて、・・・それにしても人数多すぎ…

「ダマスさん、見物人が異様に多いんだが、宣伝でもして、みんな呼び集めたんですか?」

俺がジト目で『臨時』ギルマスを問い詰めると、

「・・・いや、そんな事はせんぞ、ただ、2,3人に審判を頼んだだけで・・・。

審査員の募集も、皆が集まっている時でないと不公平だからな・・・うん。結果的にそうなったかもしれんが・・・結果だ、結果!」

要するに、大勢の前で言いふらして宣伝したと言う事だ。

「・・・それに、インチキかどうかなんて、みんな自分の目で見ないことには納得しないだろう…。」

それっぽい事を言っているくせに目線がギョトギョト泳いでるのは何故だ! アズミが納得づくなので、まあ、問題は無いちゃあ無いんだが・・・。

ついでに俺様だって対人戦は経験不足だし、その割に最近強くなってきているような実感が有るので、ちょっとやってみたい気がないわけではない。

アズミの方はすでに広場の中央で待っているのに、ぐずっているのはテルマの方で、見物の冒険者からは、

「グズグズすんな!」

とか、

「いい加減あきらめろ!」

とか、あのガタイなのに、どうもテルマよりもアズミの方が多くの人から強いと思われているらしい。

「アズミみたいな見た目おこちゃまが、何でテルマよりも上とみられるんだ?」

集まった冒険者の雰囲気に納得がいかず考え込んでいたら、つい独り言を漏らしていたらしく、隣に立っていた冒険者にギロリと睨まれた。

「お前、アズミにくっついている奴だろうが。」

確かに俺がアズミの付属物のように思われているのは知っているが、本人を目の前に酷い言いようである。

「ああ。」

気分は悪いが、返事ぐらいはすべきだろう。

「一緒にいるくせにそれか。アズミはガタイは小さいが運動神経とすばしこさはかなりのもんだろうに。

体力お化け、装甲お化けの魔物ならばともかく、人間なら太い血管を断ち切るだけで致命傷になる。3センチだ、急所にさえ当たれば、ほんの3センチの深さで良い。」

「ま、それはそうだが・・・・・。」

「テルマあたりじゃアズミに太刀打ちできないのは判るにしても・・・・、問題は魔物なんだよな・・・。

アズミの倒した魔物を見た奴が驚いていたが、見事にきれいに刃筋が通っていたそうだ。ここの冒険者のみんなの話題になってんだぜ。

あのちっこい体で、あのデカい剣をどうやって扱ってんだか・・・、おい、一緒に居るんだからアズミの秘密は知ってんだろ?」

「おい、ノマド、そんな所でクッチャベッてると終わっちまうぞ!」

俺にと話してる奴の仲間らしい・・・、声が掛かる。

広場の中央を見ると、アズミがするするとテルマとの距離を詰めて行く所だった。

「おっつ! 始まるか・・・っつと、あれっ、もう終わりかよ。そりゃ~ねえだろう。何が何だかわからねえじゃねえか。」

ノマドの仲間が不満を漏らすが、ごもっとも、いきなり間合いを詰められて焦ったテルマは袈裟切りに切り下げたが、アズミの姿がぶれたと思った瞬間、テルマの懐に飛び込んで、喉元に刀がきっちり添えられていた。

「一体何をやった??」

ノマドが独り言のようにつぶやくが、これって俺に聞いているのか?

「いちおう影抜きのつもり…みたいだな。テルマのスピードが遅すぎるんで、技になっているのか微妙なとこなんだが。」

「影抜き??」

「四つに切り結ぶと見せて、肩甲骨にウエーブをかけて、相手の刃筋をすり抜ける技だ。」

古来からある剣術の影抜きとは違うが、映画の殺陣師がやっていた影抜きの方がかっこよかったので、俺とアズミはそっちを練習している。

「おい、見たろ! やっぱインチキだろ! 俺の剣当たったはずだよな? 何ですり抜けるだ? おかしいだろ!」

テルマがごちゃごちゃ言ってるが、テルマに味方する奴は・・・当然いない。

「へたくそ! ちゃんと相手をしろよ!」

「避けられたのも判んねえのかよ! もう1度やれ! 」

色々ボロボロな罵声のありったけを浴びせられて、可哀そうっちゃあ可哀そうなんだが、他人の狩りをストーカーしていて、このぐらいで済むなら、まあ手ぬるい方だろう。

「それにしても、アズミの奴早すぎないか? それに体の割にデカい木剣をなんであんなに軽々と振れるんだ?」

「当然魔力で身体強化をしている。ただ、やり方がちょっと特殊なんだ。」

ノマドのつぶやきに、それなりの解説はする。全部話す訳には、もちろんいかないし、全部が全部俺も知っている訳ではない。

通常身体強化の魔力は体全体、あるいはベテランなら手とか足とか特定の部位ぐらいに絞って流したりすることは有るらしいが、基本、かなりアバウトに魔力を巡らせているにすぎない。

俺とアズミは魔術だけでなく、身体強化の場合でもイメージを厳密にすることによって、効果が爆増する事に気が付いた。

それはムルガに来るのに走って来た事でも十分感じてはいたが、アズミはその辺をかなり徹底して追及している。

まっ、アズミがその気になれば細胞の一個一個を魔力でコントロールすることも可能なんだろうが、とりあえず今は、使用する筋肉、骨格、などをに場所だけでなく、必要な瞬間だけ強化して、魔力の効率を上げる練習をしている。

ただそれだけでなく、恐ろしい事に、神経細胞を強化して、神経信号の伝達速度をクロックアップしている事である。

通常神経細胞の信号伝達速度はその神経の太さにもよるが、秒速60から70mである。それをアズミはブーストアップして10倍近い速度をたたき出している。

普通の人間がそんな事をすれば、エネルギーを制御しきれずに神経を焼き切ってしまうが、アズミもその辺の事は承知していて、

「カズは絶対真似しないでよ。」

当たり前だ、俺にはやりたくてもやれるものではない。

「カズの目標はとりあえず、リミッター解除ね。」

リミッター解除などと言っても何のことか判らないだろうが、ひと言でいえば”火事場の馬鹿力”を常時、意識的に使えるようにすることである。

人間は持てる力をすべて開放してしまうと、自身を傷つけかねない。したがって平常時には自身を壊さないように本能的にリミッターをかけている。しかし、非常時においては緊急措置として、リミッターが解除される事が有り、それが曰く”火事場の馬鹿力”である。

身体強化は作用を起こす力を強化するだけではだめで、必然的に起きる反作用を魔力を使って、防御し、あるいは拡散して自身に対する負荷を消さなければならない。

そしてなおかつ、自身の自己防御本能に、身体が魔力によって守られている事を納得させる事が出来れば、リミッターが解除されると言う訳である。

だが、問題はここからである。

『どうすりゃいいんだ!!』

喚いたところで問題が解決するわけではない。防御本能を納得させる? そんな事できるのか? 

アズミ曰く、

「センスの問題よ。」

だそうである。

「体の細胞一個一個と向き合って声を聴くつもりになれば解決するわ。」

だ、そうである。

出来るか? 俺にそんな事が出来るか? 思わず頭を抱えてしまう事案であるが、アズミ曰く、

「男って、無神経と言うか、デリカシー無いから苦労するだろうな~。」

だ、そうである。

苦労すれば、それで済む問題とは思えないが、たとえ無駄に成ったとしても、俺には努力しないという選択肢が無いのが悲しい。


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