7 連続密室殺人
スタンフォード警部補が芯のある声で報告する。
「マイヤー、ブラウン、ダグラスの3人には共通点がありました。
彼らは同じ病院に勤務する医師でした。」
私とカメリアは、お菓子の家から馬車で30分ほど離れた場所にある病院を訪れていた。
小高い丘に建てられたその病院は、熟練の医師と共に医学生が多く所属する大きな病院である。
この病院に、お菓子の家の納品リストに名前のあった3人が所属していた。
そして彼らは、ここで殺されたのだ。
「3人は病院に常駐する医師であり、敷地内の寮に住んでいました。
殺害されたのは、それぞれの自室の中です。」
私たちはスタンフォード警部補の案内で、医師たちのための居住棟へ向かった。
中央の病棟と渡り廊下で繋がった寮は、簡素な作りながら、医師たちが快適に過ごすのに十分な広さがあった。
34年前の病院創設時から所属していたマイヤー、ブラウン、ダグラスの3人には最上階である3階の部屋が与えられていた。
最初に調べたのは、マイヤーの部屋だ。
本棚と書き物机、シングルベッドが置かれていた。
さらに部屋の中央の壁には、冬場に薪を燃やして部屋を温める暖炉が備え付けられていた。
窓の向こうにはベランダがあった。
スタンフォード警部補は私たちに、「貴重品や金目の物は盗まれておらず、金庫の中に残されたままでした。」と伝えた。
これは強盗目的の殺人ではないのだ。
マイヤーは、部屋の中央に背中を刺され倒れていた。
そして床に敷かれたカーペットには、小さな黒い足跡がいたるところに残されていた。
何より不気味なのは、指がくっきりとうつった裸足の足跡であることだった。
「発見されたのは今朝5時。
朝の巡回に現れないことに不審に思った同僚がマイヤーを呼びにきました。
しかし応答はなく、緊急性を感じドアを壊して開けたところ、遺体を発見したそうです。」
「発見された時、部屋の鍵はかかっていましたの。」
カメリアの質問にスタンフォード警部補は、「内側からかんぬきがかけられ施錠されていました。」と答えた。
私は「犯人はベランダから侵入、逃走したのでしょうか。」と尋ねた。
しかしこの考えは否定された。
「ベランダに出る窓には鍵がかけられていました。
窓ガラスも割られていません。」
カメリアも、「この足跡も、ベランダの方へは向かっていないようですわ。」と言った。
スタンフォード警部補は、「ブラウンとダグラスの部屋も、発見されたとき窓と扉は施錠されていました。」と報告した。
彼らは皆、密室で殺されたのだ。
次に私たちはブラウン、ダグラスの部屋を調べた。
部屋の構造はマイヤーの部屋と同様であった。
そして2人の部屋にも、黒い足跡が残されていた。
カメリアは足跡をじっと見つめ、「男性にしては、ずいぶん小さい足跡ですわね。」と言う。
「私の足よりもさらに小さいぐらいですわ。」
「では、女性の足跡でしょうか。」
カメリアは「それは違いますわ、ヒルダ。」と首を振る。
「足跡は指の間隔が大きく開いています。
先の尖った靴を日常的に履く女性の足では、このように指の間隔は開かないはずですわ。」
観察を終えたカメリアは「3人が最後に目撃されたのはいつでしたの。」とスタンフォード警部補に聞いた。
「マイヤーは昨夜20時に食堂で食事をとっています。
ブラウンは21時に運び込まれた患者の対応をしています。」
多くの患者を抱える病院の医師である彼らは、夜遅くまで働いていたのだ。
スタンフォード警部補は「それからダグラスですが。」と報告を続ける。
「彼の場合は犯行を目撃した者がいます。」
「話を聞きにいきますか。」というスタンフォード警部補の問いに、カメリアは「もちろんですわ。」と答えた。
目撃者は、ベルガーという初老の男性医師だった。
彼は被害者の3人と同輩であり、寮ではダグラスの隣室を使っていた。
カメリアはベルガーに、「貴方が目撃したことをお話ししていただけますか。」と頼んだ。
「話しても、きっと信じてもらえないだろう…。」
ベルガーの眼鏡の奥の目が忙しなく動く。
「あれは、人間じゃなかった…。
頭からつま先まで真っ黒で…。」
ベルガーは震える声で言う。
「ダグラスは、悪魔に殺されたんだ…!」




