エピソード2
学校が終わった。
今日は紙で手を切ってしまった。以前爪と指の間を切ってしまった時よりは数倍マシだが、それでも痛いものは痛かった。今日あったことはこれぐらいだが、頭によぎるものがある。漠然とした明日への不安、無事に今日が終わりに近づいているという安堵、学校が終わるというのは1日に一旦、区切りをつけるようなものである。帰り道、昨日事故に会った道に差し掛かった。この道がなければ、私は能力に目覚めなかったのかもしれないと思うと、この道に対して、少し愛着が湧いた。交差点を渡り、路地に差し掛かった時、私のものではない影が視界に映る。私は目を疑おうとした。疑う間もなく、誰かに肩を掴まれる。
「誰!?」
振り返ると、見知らぬ男がたっていた。やつれた不気味な顔で、私の恐怖心を煽った。
「お前は俺の糧になってもらう。」
男はそういうと、包丁を振り上げた。
「ッ…!」
私は目を見開いた。死が迫ってくる感覚。昨日トラックが突っ込んできた時と同じ感覚だ。極限の恐怖に包まれた私の心の機能か、それとも死に抗おうとする理性か、また座標が見えた。私は咄嗟に包丁を指さした。
「うおっ!!」
包丁は宙に固定され、男の手は包丁から滑り落ち、男は丸腰になった。
私には何故か、逃げる選択肢が思い浮かばなかった。それは仮に今逃げたとして、逃げ切れるかと言われれば逃げきれないからだ。相手は成人男性であり、体力、力など共に私では及ばないと思ってしまったからだ。
男は止まらない。
「オラァッ!」
即座に拳を握り、パンチを放つ。
「うぐっ!!」
その拳は私の腹部を捉え、クリーンヒットした。私には殴られた経験がない。男子なら、殴り合いの喧嘩に発展したりして、人と殴りあったことがあるかもしれない。しかし、私にはそういった経験は無かった。痛みに悶え、腹部を押さえる私が、男にこう尋ねた。
「なんで、こんなことするんですか。」
「Repary持ちの目は高く売れる。」
男は続ける。
「彩の目は移植すればされた側にReparyが宿る。」
「俺達はそれを高値で売って商売をしている。」
男は俺"達"と言った。それはつまり、こいつらはグループを組んで私を攻撃してきているということだ。私の身体に巡る危機感は倍増する。生と死の瀬戸際、まさに極限状態である。人は死を前にすると、いつもの数倍のスペックを発揮するらしい。私はまた座標を読もうと試みた。空気中には何もない訳では無い。多かれ少なかれ、空気中には気体の分子が存在している。その時、私は宙を指でなぞる。手には見えない"なにか"があった。私はそれを振る。その"なにか"は男の頬を浅く切った。男が呆気に取られている間。私は理解した。この手に持っているものは固定した空気であり、それは紙よりも薄く、どんな金属よりも硬い、世界で最も鋭い刃なのだと。私は男の胸を捉え、もう一度、手に持つものを振る。
「チィッ!!」
胸を切られたのに反応が薄い。この男は戦い慣れているのだと私は思った。男は反撃体制に移行し、拳を振り上げる。その瞬間、私は男の腕を固定した。腕は固定されたが、腕以外の部分は固定されていない。男は自らの力を、その関節にねじ込まれる結果となった。
「ああっッ!!!!」
「痛てェッ!!」
慣性の乗った男の身体は、そう簡単には止まらなかった。腕だけが身体から置いてけぼりにされ、結果として、男の肩は外れてしまった。
腕だけが宙吊りの男が私を睨む。私は、男を睨み返した。その時、男の仲間らしき人が現れる。絶体絶命、死を受け入れるしかないのかとも思ったその時、見知らぬ男が現れる。その男は白い髪をした若い男だった。若い男はまず腕が宙吊りの男に近づき、男の胸に触れた。男は汗をかき、苦しそうな表情をした。若い男は男の仲間らしき別の男にも近づき、また胸に触れた。触れられた男は倒れ、最後、残った1人も胸に触れられ倒れてしまった。
「大丈夫ですか。」
男は優しい声で私に問うた。
「大丈夫、です。」
私は緊張からかたどたどしくもそう答えた。
「あなたは?」
私が問う。
「僕はただの通りすがりです。」
「彼らに襲われるあなたを見てしまったので、助けないと、と思い。」
若い男は答える。
「あなたの名前は?」
私はそう聞いた。
「時雨、白坂時雨です。」
「へぇ、時雨さんと言うのですか。」
「ところで、あなたはなにかこう、超能力みたいなものがあるんですか?」
「さっき、触れただけで…」
私はその問いを言い切る前に時雨が答えた。
「あなたと同じ、Reparyを使えますよ。」
それでも私には疑問が残る。その疑問を解消すべくまた時雨に問いを投げかけようとしたが、時雨は、
「もう私は帰らなくては。」
「それでは。」
私の開きかけた口を閉じさせるように、時雨は足早にこの場を去っていった。
私も家に帰るべきだ。だがこの男達をどうするべきか、私は一応警察に連絡した。警察は男達を引き取り、私に気を付けて帰るよう言い、署へ戻って行った。家に帰った後、電話がかかってきた。男達は死んでおり死因は心臓発作のようなものということらしい。時雨が具体的に何をしたのかは不明だが、だいたいやったであろうことはわかった。
次の日、私は薄い金髪の男に出会った。男が私と会うなり、
「俺は黒瀬鳴海。お前が昨日殺した奴がいると思うが…」
「俺は…どういえば良いか…?そいつらの元締めって言えば良いか…?」
「まあそれはどうでもいい、俺の部下を殺したのはお前だな?」
といい、銃を構えた。




