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エピソード3

ガチャッ

銃のスライドが引かれ、鳴海が銃を構える。

「じゃあな。」

バンッ

銃声が鳴る。

私に危機感が迸る。私はReparyを発動する。宙を進む弾丸を一時停止させ、私は話す。

「なぜ、私を狙うの。」

「さっきも言っただろ。お前が俺の部下を殺し、取引を邪魔したからだ。」

「3人殺したんだ。それなりの代価は払ってもらう。」

鳴海は銃を構え直し、引き金に手をかける。

その瞬間私は昨日のことを思い出す。空気を固定した、あの瞬間をだ。

「黙って殺される訳にはいかない。」

私は刃を手に持った。それは透明であり、かたい感触のみが感じられる、世界で最も硬い刃だ。

「なにか持ってるな、お前。」

鳴海の発言には脇目も振らず、私は走る。銃を打たれる前に、鳴海に近づかなくてはならない。私は腕を振る。

「ここから消えて。」

そう言い放ち、鳴海の銃を持つ手を狙う。

「おっと。」

「傷をつける気か?」

鳴海は体を捻り、私の一撃を避けた。続けざまに私はもう一度、鳴海に切りかかる。次は胴体を狙った。だが鳴海は後ろに飛び、私の攻撃をかわした。

「センスあるじゃねえか。」

「ここらでスカウトといきたい所だが…」

「こっちも商売でやってんだ。それも裏のな。」

「裏商売ってのは顧客との関係、信頼、それと相手にナメられない事が重要だ。」

「お前みたいなやつにナメられては困る。」

鳴海は即座に銃を構え、乱射した。そのうちのいくつかを空中に貼り付けたが、止めきれない。私の体を2発、弾丸が掠める。服に血が滲む。

「うっ…」

死に1歩近づいた。私は手に持つ刃を投げ、時間を稼ごうとする。

「フンッ…」

その刃を首をそらしてかわした鳴海は余裕綽々といった表情で私に問う。

「報告ではお前と一緒にいた男がいると聞いたが…、それはどんなやつだ?」

「彼は時雨と名乗ったよ。でも偽名かも。」

「苗字は?」

「白坂。」

「まさか…!」

突然鳴海が驚愕した表情を浮かべる。

「白坂時雨と言えば、うちの"教団"の現人神とされてる人じゃねぇか。」

「なぜあの人が…?」

鳴海は状況を理解できないといった顔で、私から距離をとった。今殺せただろと思ったが、命を拾わせて貰った。

「待って、教団って何なの?」

「知らないのか?まあ、知らないか、新興宗教だしな。」

「この世界にはときどき、ものが"固定"される現象があるだろ。」

「それは神の奇跡であり、恵みとする宗教だ。」

「あなたはそれを信じてるの?」

私は問うた。

「お偉いさん方みたいに真面目に信じてる訳じゃねぇ。」

「ただ、理念にだけは共感できる。」

「『固定とは停滞ではなく、進化である』とな。」

「止まっちまえばそれより先は無い。死でさえもな。」

「私は共感できないかな。」

「止まるということは未来を失うという事だから。」

私は返した。

「考えは人それぞれだ。」

「俺はお前を否定しない。」

「だが、申し訳ないが、その命だけは否定させてもらう。」

「そんなのお断り。」

私は逃げられない。そう直感が告げる。戦闘が再び始まる。

バン!バンバンッ!

銃弾が飛び交う。同時に別の考えがよぎる。時雨についてだ。時雨は新興宗教の主神であると。じゃあ、私は彼に騙されたのか?いや、そんな人がなぜ私を?考えが巡る。これは現実逃避なのだろうか?今は戦いについて考えるべきだ。切り替えなくてはならない。人間は危機が迫ると自分の知らない力を発揮出来るらしい。これは私の実感である。私は飛び交う銃弾を止め、鳴海の服を固定し、すぐに私は走る。見えない刃を手に、鳴海を目指しスタートを切る。

「このままやられてなるものかよ!」

鳴海はもはや拘束具と化した服から抜け出し、私に迫る。流れるように拳が飛ぶ。拳は私の腹部を目掛けて直進してくる。私は何とかかわそうと飛ぶが、流石に甘くない。鳩尾に当たるのは避けたが打撃は私の体に当たる。

「あがっ…!」

強力なパンチだ。体が逸れた分、間に腕が入ったが、それでも衝撃が伝わる。私は吹き飛ばされ、壁に体を衝突させてしまう。またもや衝撃が伝わる。これは厳しい。

「がはっ!」

それでも私は立つ。立たなければ死ぬだけだ。また鳴海の前に立ち、戦う。戦って、勝つ。それ以外の思考が私の頭から消えた。

「あなたと戦う。」

「そして勝つ。」

「おっ、いいねぇ。」

「じゃあガチでいくよ。」

鳴海は私に向かってスタートを切った。今までの比にならないぐらいのスピードだ。そのままインファイトに持ち込むつもりだろう。そんなことが通ってしまっては当然私に勝ち目は無い。私はReparyを発動しつつ距離をとる。手始めに鳴海の腕を固定する。鳴海は失速する。即座に銃を持った鳴海は私に向けて引き金を引く。私は見えない刃を持ち、更に弾丸を止める。そのまま接近し、刃を振る。鳴海は体の捻りだけでそれを回避し、銃を構える。私は銃を撃ってくると読んだが、それは間違いだった。銃本体を振り、私の刃を持つ腕を叩く。そこまでの威力ではなかった。しかし振り上げた刃をキャンセルさせるのには十分な威力だった。腕を引いてしまった私は、次は蹴りを放つ。鳴海の脛を打ち砕くように、正確に放つ。鳴海は一瞬顔を歪めたが、ダメージはそこまでだろう。すぐに銃を構え、引き金を引いてきた。私は鳴海に寄りかかるように前へ進む。すぐに刃は振り下ろされ、鳴海の体を切る。鮮血が吹き出す。これはかなりダメージが入っただろう。

「やるじゃん…」

「でも…」

同時に鳴海の腕の固定が解けた。集中していたがゆえに、腕の固定が意識から外れてしまったからだ。鳴海は動くようになった腕で、すぐに私を殴ろうとする。拳を固定した私は鳴海の動かない拳を足場に飛び、背後へ回る。

「じゃあ。」

私は鳴海の背中を切る。血は出る。でも何故か鳴海には余裕がある。違和感。不気味な感じだ。それでも私はやるしかない。そう思った次の瞬間私の腕が固定される。

「ッ!!!」

どういうこと!?

私は動かない腕を必死に動かそうとする。振り返った鳴海は銃を構え、私の肩を撃つ。

「あっ…!」

今、私は理解した。

それと同時に鳴海が言う。

「俺も使えるんだ。Repary。」

「かわいそうだな。」

「今回は許してやる。」

腕が自由になる。

「なぜ、解放したの。」

「さっきお前が固定を解除した腕の礼だとでも思えばいい。」

闘争心が湧く。私は弱い。でも何か才能がある。そういう自負がある。今の言葉は私を傷つけた。

「じゃあ、次からはお礼はいらないよ。」

私は最初に固定した鳴海の服を回収した。そして服を投げ、固定し、鳴海に視線を遮った。私は見えない刃を両サイドに投げた。鳴海は動かないまま服の奥に突っ立っている。私は右から攻めようとする。

「見えてるぜ。」

鳴海が合わせるように右側に飛び、私を迎撃しようとする。

「かかった。」

私は服の固定を解除する。服が地面に落ちる間もないまま、私は鳴海との距離を詰める。

「とったよ。」

「何っ!?」

鳴海はかわそうとするが、かわしきれない。私は刃を振る。鳴海の左腕が切断される。

「がぁあっ!!」

鳴海を追い込むようにもう一度刃を振る。次は胸を切った。しかしさっきの違和感が現実になる。腕を切られ、裂傷は3箇所ある。それなのに、鳴海は死ぬどころか止まる気配すらない。

「やってくれたなっ…!」

鳴海は反撃するように銃を乱射する。違和感に惑わされた私は反応できない。右腕に弾丸は直撃し、膝、脇腹、肩と弾丸が掠めた。今ので死ななかっただけ充分マシだ。私の脳はフル稼働する。鳴海はReparyを使える。更にあの傷で死んでいない。私はひとつの仮説にたどり着く。

「あなた、自分を固定しているの?」

「そうだ。」

「だが、正確には違う。」

「Reparyの本質は"状態の保存"に近い。」

「写真に映る人間は、どんな奴でもずっと同じ表情をし続ける。そんな感じだと思ってくれればいい。」

「これが俺の結論だ。」

「この能力で、俺は生き続ける。」

「この先100年、いや1000年後でもな。」

鳴海は自分を良い状態で固定していた。まだ不可解な点はある。鳴海を切った時、鳴海からは血が出た。本当に自分を固定しているのなら、血が出るはずがない。あんなに血が出ても、死なない。疑問は私を惑わせた。だが考えている暇はない。鳴海は私に向かってくる。インファイトの方が分があるという判断だろう。さっきの手はもう使えない。私は見えない刃を手に、迎撃に移る。拳と蹴り、そして刃が交錯する。間合い同士がぶつかり、削り合うかのようだ。突然、鳴海の体が前へ傾く。予想外だった。鳴海はタックルをかましてきた。私は体を逸らそうとするが、鳴海の方が早い。私は鳴海の体に押される形で、後ろへ吹き飛ばされた。同時に私は鳴海を刃で刺し、鳴海を引かせた。熾烈なインファイトを演じた甲斐があった。鳴海の胸に一瞬触れた。その時、たしかに感じた。鳴海の心臓の鼓動を。無数の針の穴に糸が通った。おそらく、心臓が止まると、いくら体を固定していても死んでしまうのだろう。唯一の弱点とも言える。だが、死ぬことでしか心臓は止まらない。逆に、鳴海は死なないのだから心臓は止まらない。鳴海に心臓発作が起きたら死ぬだろうが、そんな可能性は誰かがデスノートを拾わない限り0に近い。

鳴海は刺さった刃を抜き、フラフラと立ち上がる。そして突然語り出す。

「俺には姉がいた。」

「姉貴は病気で死んじまった。」

「その後、力を授かった。」

「姉貴が死ぬ前に、力を授かれたら良かったのに。そうだったら、姉貴は死ぬことなかったのに。」

「俺は、姉貴の分まで生きる。」

「姉貴の分まで俺が生き切るまでは、死ねない。」

あたりが暗くなり、花火が打ち上げられた。今日は花火大会の日であった。そんなどうでもいいことが出てくる程、私の頭は記憶の隅から隅へと対抗策を考えていた。ドクン、ドクン、ドクン、心臓の鼓動が強くなってくる。鳴海が立ち上がり、こちらへ迫ってくる。

ドクンッ!

パァンッ!

花火は破裂し、美しい花が夜空に咲く、同時に私の頭は昨日の出来事を思い出す。時雨が男の胸に手を当てた時のことだ。今なら、あれがなんだったのか、全てが分かる。時雨は心臓を固定したのだ。糸口を見つけた私は、鳴海に言う

「今から、あなたを殺す。」

鳴海ははっと気づいた表情で私を見る。

「まさか…!?」

私は鳴海に詰め寄る。

「俺はっ…!死ねないっ!」

「そう誓ったんだ!」

「やめろ!!!」

鳴海の制止を振り払い、私は鳴海の胸に手を当てる。

「おやすみなさい。」

ト゛クン!!!!!!!

鳴海の最後の鼓動が、花火のように鳴り響く。生に執着した男の最後の鼓動だ。喉ではなく、心臓が生きたいと叫ぶように。呆気ないなと思った。あんなに生に執着していた男が、花火のように儚く散った。悪い奴だったのは確かだ。しかし、そう思うことができない。家族が死に、その後に自分だけが永遠に生きられる権利を得た。私だったら既に狂っているだろう。それを鳴海は耐えた。ある意味狂っていたのかもしれない。しばらく、私は打ち上がる花火を眺めていた。そして私はその場を後にする。その前に、私は亡き人となった鳴海にこう囁いた。

「お姉ちゃんにまた、会えますように。」

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