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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第三十九話 最強の敵

学園長室の空気が一瞬で張り詰めた。


「東部結界が突破されました」


「敵は一人です」


「闇学園長です」


伝令妖精の声は震えていた。


当然だった。


グランドフォール学園の結界は世界最高峰の防御術式だ。


歴代のグランドリミィジュと妖精たちが積み上げてきた技術の結晶。


それを一人で突破した。


その事実だけで異常だった。


ゴードンはすぐに動いた。


「全校生徒へ避難命令」


「教師陣は戦闘配置」


「生徒会はわしと来い」


伝令妖精が飛び去る。


部屋の中は慌ただしくなった。


だが。


ノエリアだけは動けなかった。


エスターが残した言葉が頭から離れない。


――今度はちゃんと迎えに来て。


あの言葉は誰に向けたものだったのだろう。


エイミー。


それとも。


もっと別の意味があったのか。


「ノエリア」


ゴードンの声で我に返る。


「お主も来なさい」


「え?」


思わず顔を上げる。


「危険じゃ」


「じゃが今のお主には知る権利がある」


その言葉の意味はよく分からなかった。


だが。


ベルが真剣な顔で頷いている。


ノエリアも小さく頷いた。


学園長室を飛び出す。


廊下にはすでに避難を始める生徒たちがいた。


教師たちが指示を出している。


空には警戒妖精が飛び回っていた。


完全な非常事態だった。


階段を下りる。


中央広場へ出る。


そして。


全員が足を止めた。


そこにいたからだ。


闇学園長が。


広場の中央。


噴水の前。


まるで散歩でもしているかのように立っていた。


周囲には誰も近づけない。


教師たちが包囲している。


生徒会も。


それなのに。


男は余裕の笑顔を浮かべていた。


「綺麗な学園だね」


まるで観光客の感想だった。


だが。


誰も笑えない。


男の周囲だけ空気が歪んでいる。


地面の花々が黒く変色していた。


近づくだけで周囲の魔力が侵食されているのだ。


ノエリアは初めて理解した。


エスターが恐れていた理由を。


この人は危険だ。


圧倒的に。


ゴードンが前へ出る。


「何をしに来た」


男は笑う。


「迎えに来たと言ったはずだよ」


そして。


ノエリアを見る。


背筋が凍る。


逃げたくなる。


でも目が離せない。


「君は特別だから」


ベルが前へ飛び出した。


『近づくな!』


男は少し驚いた顔をする。


「ベル」


懐かしそうな声。


「まだその姿だったんだね」


ベルは震えている。


怒りだった。


恐怖ではない。


ノエリアは気づく。


ベルはこの男を知っている。


しかもかなり深く。


ゴードンも気づいていた。


「やはりか」


男は肩をすくめる。


「隠すつもりもないよ」


そして。


信じられないことを言った。


「昔、私は妖精界の教師だった」


静寂。


誰も理解できない。


ベルが顔を歪める。


『嘘つき』


「本当だよ」


男は笑う。


「君たちを育てていた」


ノエリアは混乱した。


妖精界。


教師。


ベル。


全部が繋がらない。


だがゴードンだけは険しい顔をしていた。


知っていたのだ。


「堕ちたか」


男は少しだけ笑う。


「堕ちた?」


「違うな」


空を見上げる。


夕暮れの空。


「真実を知っただけだ」


その言葉と同時に。


轟音。


地面が揺れる。


全員が振り返る。


東の空。


黒い光柱が立ち上がっていた。


学園の結界がさらに崩れ始めている。


「何をした!」


エイミーが叫ぶ。


男は穏やかに答える。


「何も」


「もう始まっているだけ」


意味が分からない。


だが。


次の瞬間。


ベルが青ざめた。


『まさか』


「ベル?」


『妖精界だ』


全員が凍りつく。


ベルの声が震えている。


『妖精界の門が開いてる』


ノエリアは息を呑む。


妖精界。


ベルたちの故郷。


リミィジュの力の源。


「そんな」


ゴードンの顔色が変わる。


初めてだった。


この老人がここまで動揺したのは。


男は静かに頷く。


「やっと辿り着いた」


そして。


空を見上げる。


「十五年かかった」


その瞳には狂気があった。


優しそうな笑顔の奥に。


底なしの執念があった。


「世界を作り直すために」


その瞬間だった。


広場へ強烈な風が吹き抜ける。


全員が顔を上げる。


空。


学園の上空。


そこに巨大な光の裂け目が現れていた。


金色と黒色が混ざったような空間。


見たこともない現象。


ベルは震えていた。


『だめだ』


『開いちゃった』


裂け目の向こう。


誰かがいる。


いや。


何かがいる。


圧倒的な存在感。


ノエリアの胸元のバッジが勝手に光り始める。


熱い。


苦しい。


でも懐かしい。


そして。


頭の奥で。


誰かの声が聞こえた。


『見つけた』


ノエリアだけに聞こえる声。


優しい声。


知らないはずなのに。


なぜか涙が出そうになる。


『ずっと探していた』


ベルが目を見開く。


ゴードンも。


闇学園長までも。


全員が空を見上げている。


そして。


ベルが震える声で呟いた。


『グランドリミィジュの妖精……』


十五年間。


誰も見つけられなかった存在が。


ついに姿を現そうとしていた。

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