第三十七話 隠されていた真実
闇学園の軍勢が消えたあとも、学園には重い空気が残っていた。
結局、戦闘は起きなかった。
誰も傷ついていない。
それなのに全員が疲れていた。
闇学園長が現れた。
そしてノエリアを名指しした。
その事実だけで十分すぎた。
夕暮れ。
中央広場。
生徒たちが少しずつ解散していく。
だがノエリアはその場から動けなかった。
胸の奥がざわついている。
闇学園長の言葉。
エスターの態度。
ベルの反応。
全部がおかしかった。
まるで自分だけ知らない話があるみたいだった。
「ノエリア」
振り向く。
ゴードンだった。
隣にはエイミーもいる。
「少し来なさい」
静かな声。
だが断れない雰囲気があった。
ベルも黙っている。
ノエリアは小さく頷いた。
三人が向かったのは学園長室だった。
以前も来た場所。
だが今日は違う。
部屋へ入ると、ゴードンはすぐに結界を張った。
外からの盗聴を防ぐためのものだ。
エイミーの表情も真剣だった。
ノエリアは緊張する。
「何ですか」
ゴードンはしばらく黙っていた。
何から話すべきか考えているようだった。
やがて。
ゆっくり口を開く。
「お主はなぜ選ばれたと思う」
突然の質問だった。
「え?」
「この学園に」
ノエリアは困る。
理由なんて分からない。
今まで何度も考えた。
適正値ゼロ。
本来なら入学資格はなかった。
それでもゴードンが認めた。
「力があったから……?」
自信なく答える。
ゴードンは首を横に振った。
「半分正解じゃ」
そして。
真っ直ぐノエリアを見る。
「お主の母親を知っておる」
ノエリアの思考が止まった。
「……え?」
予想もしなかった言葉だった。
エイミーも驚いている。
ゴードンは続ける。
「いや」
「正確にはお主の両親じゃな」
ノエリアの心臓が大きく鳴る。
家族の話をされるとは思わなかった。
「どういうことですか」
声が震える。
ゴードンは机の引き出しから一枚の写真を取り出した。
古い写真だった。
二十年近く前だろうか。
そこに写っていたのは。
若い男女。
そして。
一人の少女。
ノエリアは目を見開いた。
「これ」
少女は自分によく似ていた。
髪色は違う。
だが目元がそっくりだった。
「誰ですか」
ゴードンは答える。
「お主の母親じゃ」
静寂。
ノエリアは写真を凝視した。
聞いたことがない。
母親がリミィジュだったなんて。
一度も。
「嘘」
「本当じゃ」
ゴードンは頷く。
「しかも普通のリミィジュではない」
ベルが目を伏せる。
その様子で全てを察した。
「まさか」
ゴードンは静かに言う。
「当時、最もグランドリミィジュに近かった候補の一人じゃった」
ノエリアの呼吸が止まりそうになる。
頭が追いつかない。
母親が。
グランドリミィジュ候補?
「そんな話聞いたことない」
「当然じゃ」
ゴードンの表情が曇る。
「本人が隠したからな」
エイミーが息を呑む。
「なぜですか」
ゴードンは窓の外を見る。
夕焼けが差し込んでいる。
「十五年前の事件じゃ」
その言葉で空気が変わった。
エスターが闇落ちした事件。
世界を揺るがした出来事。
「お主の母親はあの戦いに参加しておった」
ノエリアは写真を握る。
胸が苦しい。
「生きているんですよね」
小さな声。
ゴードンは頷く。
「生きておる」
ほっとする。
だが次の言葉で再び凍りついた。
「じゃが力を失った」
「……」
「二度とリミィジュになれなくなった」
ノエリアは写真を見下ろす。
そこには笑顔の少女がいる。
夢があった。
希望があった。
きっと誰かを守りたかった。
それなのに。
全部失った。
ゴードンは続ける。
「その後、普通の生活を選んだ」
「リミィジュとは関わらず」
「過去も語らず」
「お主を育てた」
ベルがぽつりと呟く。
『だからだったんだ』
ノエリアは顔を上げる。
「ベル?」
ベルは苦しそうだった。
『ぼく、ずっと不思議だった』
『なんでノエリアからあんな光を感じたのか』
そして。
写真を見る。
『受け継いでたんだ』
ノエリアの瞳が揺れる。
受け継ぐ。
その言葉が重い。
自分の力じゃない。
母から受け継いだもの。
でも。
それだけじゃない。
七歳の時。
自分は確かに選ばれた。
ベルに。
グランドリミィジュの力に。
ゴードンが静かに言う。
「血筋だけではない」
その言葉に少し救われる。
「お主自身が選ばれたんじゃ」
「だから闇学園長も狙っておる」
ノエリアは唇を噛む。
怖い。
本当に怖い。
今までよりずっと。
自分が何者なのか分かるほどに。
責任も見えてくる。
その時。
コンコン。
部屋の扉が叩かれた。
全員が振り向く。
結界を張っているはずだった。
ゴードンの顔色が変わる。
「誰じゃ」
返事はない。
もう一度。
コンコン。
静かなノック。
異様だった。
ゴードンが杖を構える。
エイミーも立ち上がる。
空気が張り詰める。
そして。
扉の向こうから。
聞き覚えのある女性の声がした。
「学園長」
静かな声。
優しい声。
でも全員が凍りつく。
「話があります」
エスターだった。




