表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/40

第三十六話 迎えに来た理由

「君を迎えに来た」


闇学園長の言葉が平原に響く。


誰も動けなかった。


ノエリア自身も。


意味が分からない。


迎えに来た?


なぜ自分を?


周囲の生徒たちも困惑している。


エイミーは正門前で剣を構えた。


「ノエリアに近づかないで」


闇学園長は穏やかに微笑む。


まるで優しい教師のようだった。


「誤解しているね」


その声にぞっとする。


優しい。


なのに怖い。


今まで出会った誰よりも怖かった。


ゴードンが前へ出る。


「下がりなさい、エイミー」


低い声。


学園長としてではなく、一人の戦士としての声だった。


エイミーは悔しそうに唇を噛む。


だが従った。


ゴードンは結界越しに闇学園長を見据える。


「何が目的じゃ」


闇学園長は少し首を傾げた。


「目的?」


そして笑う。


「世界を救うことだよ」


周囲がざわつく。


まただ。


エスターやカリンも言っていた。


世界を救う。


世界を作り直す。


それが彼らの理屈。


「今の世界は間違っている」


男は静かに続ける。


「努力しても報われない」


「大切な人を守れない」


「絶望する人が生まれ続ける」


その言葉に、一瞬だけエスターの表情が曇った。


ノエリアは見逃さなかった。


あれは。


エスター自身の傷だ。


「だから壊す」


男は微笑む。


「一度すべてを」


静かな狂気だった。


大声でもない。


怒鳴りもしない。


だから余計に怖い。


ゴードンの目が細くなる。


「そしてノエリアが必要だと?」


「もちろん」


即答だった。


男はノエリアを見る。


「君は鍵だから」


ベルが震える。


『やめて』


男はベルにも視線を向ける。


「久しぶりだね」


ベルの顔色が変わる。


ノエリアは気づく。


知っている。


ベルはこの男を知っている。


「ベル?」


『……』


答えない。


ただ震えている。


闇学園長は少し残念そうに笑った。


「嫌われたものだ」


その時。


エスターが一歩前へ出た。


「それ以上は」


静かな声。


だが空気が変わる。


闇学園長が横を見る。


エスターは男を見ていた。


「約束が違う」


平原が静まり返る。


エイミーが目を見開く。


アンナも。


ウィリアムも。


ゴードンも。


誰もが耳を傾ける。


闇学園長は困ったように笑った。


「違わないよ」


「違う」


エスターははっきり言った。


「私は戦うと約束した」


「でも」


赤い瞳が揺れる。


「ノエリアには手を出さないと」


ノエリアは息を呑んだ。


何を言っているのか理解できない。


だが一つだけ分かる。


エスターは守ろうとしている。


自分を。


闇学園長はしばらく黙っていた。


そして。


ふっと笑う。


「本当に優しいね」


その言葉にエスターは何も答えない。


「だから壊れてしまったのに」


空気が冷える。


エイミーが剣を握る。


怒りが見えた。


今の言葉は。


姉の傷を抉った。


だがエスターは怒らなかった。


ただ悲しそうだった。


闇学園長は肩をすくめる。


「まあいい」


そして再びノエリアを見る。


「今日は顔を見に来ただけだ」


ベルが叫ぶ。


『嘘だ!』


「半分は本当だよ」


男は笑った。


「もう半分は確認」


「確認?」


ノエリアは思わず声を出していた。


男は嬉しそうに笑う。


「そう」


「君が本当に目覚め始めているか」


その瞬間だった。


ノエリアの胸元。


ブロンドバッジが突然光る。


「え?」


全員が驚く。


光はどんどん強くなる。


温かい。


懐かしい。


禁書塔で見た光に似ていた。


ベルが目を見開く。


『まさか』


闇学園長は満足そうに頷いた。


「やはりそうか」


ノエリア自身にも分からない。


何が起きているのか。


だが。


胸の奥で何かが反応している。


眠っていた何かが。


「君は近い」


男は言う。


「とても」


その時。


ゴードンが杖を地面へ突いた。


轟音。


巨大な結界がさらに展開される。


平原を覆うほどの光。


学園最高位防衛術式。


闇学園長が少し驚いた顔をした。


「なるほど」


「時間切れじゃ」


ゴードンの声は冷たい。


「これ以上好きにはさせん」


しばらく睨み合いが続く。


そして。


闇学園長は微笑んだ。


「今日は帰ろう」


軽い口調だった。


まるで散歩帰りのように。


その姿に誰も安心できない。


男は最後に言った。


「ノエリア」


名前を呼ばれる。


背筋が凍る。


「また会おう」


「その時には」


少しだけ目を細める。


「君も真実を知っているはずだ」


黒い霧が広がる。


エスター。


カリン。


闇の軍勢。


全てが霧へ飲み込まれていく。


最後までエスターはノエリアを見ていた。


そして。


ほんの一瞬だけ。


笑った。


今までで一番優しい笑顔だった。


次の瞬間には全員消えていた。


静寂。


誰も声を出せない。


防衛戦でもない。


戦闘ですらない。


それなのに。


誰もが理解していた。


本当の戦いが始まったのだと。


そしてゴードンだけは険しい表情のままノエリアを見ていた。


闇学園長が言った。


「真実」


その言葉に。


学園長は心当たりがあった。


だが。


まだノエリアには伝えられない。


それを知る時は。


もうすぐ来てしまうのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ