第三十三話 秘密の図書塔
闇学園の学園長が動き始めた。
その情報は学園中に広がったものの、詳しい内容を知る生徒はほとんどいなかった。
だから表面上は普段通りの日々が続いている。
授業。
訓練。
友達との会話。
笑い声。
けれど、どこか皆が落ち着かない。
嵐の前の静けさのようだった。
◇
「で、なんで私が呼ばれてるの?」
放課後。
ノエリアは本館最上階の廊下を歩いていた。
隣にはベル。
『ぼく知らない』
「絶対嘘」
『ほんとだもん』
怪しい。
ものすごく怪しい。
◇
昼休みに突然伝令妖精が来たのだ。
【学園長室へ来るように】
という内容だった。
もちろんノエリアは慌てた。
何かやらかしたかと思った。
だがグレタも首を傾げていたので、そういうわけではなさそうだった。
◇
学園長室。
ノック。
「入りなさい」
ゴードンの声。
◇
中へ入る。
すると予想外の人物がいた。
エイミー。
アンナ。
ウィリアム。
そしてトレバー。
生徒会全員だった。
◇
「え」
ノエリアが固まる。
「なんで私?」
アンナが笑う。
「うちらも聞きたいわ」
◇
どうやら生徒会も同じように呼び出されたらしい。
ノエリアは少しだけ安心した。
怒られるわけではなさそうだ。
◇
ゴードンは机から立ち上がる。
そして。
珍しく真面目な顔だった。
「ついてきなさい」
◇
全員が顔を見合わせる。
◇
学園長室の奥。
本棚が並ぶ壁の前。
ゴードンが杖を振る。
すると。
本棚が動いた。
◇
「ええええ!?」
ノエリアが叫ぶ。
「隠し通路!?」
『王道!』
ベルが喜ぶ。
◇
本棚の奥には階段があった。
下へ続いている。
誰も知らない秘密の場所。
◇
エイミーですら驚いていた。
「初めて見ます」
「そうじゃろうな」
ゴードンは笑う。
◇
全員で階段を下りる。
かなり深い。
石造り。
古い。
空気も違う。
◇
やがて広い空間へ出た。
そこは巨大な図書塔だった。
◇
「すご……」
ノエリアは息を呑む。
天井が見えない。
本棚が何十層にも積み上がっている。
光る本。
浮かぶ本。
妖精が管理する古文書。
まるで伝説の図書館だった。
◇
「ここは」
ウィリアムが呟く。
「学園の禁書庫」
◇
ゴードンが頷く。
「正確には記録保管塔じゃ」
◇
十五年前以前。
さらに昔。
歴代グランドリミィジュ。
妖精界。
世界の歴史。
全てが保管されている。
◇
ノエリアは圧倒されていた。
こんな場所が学園にあったなんて。
◇
そして。
ゴードンはある場所で立ち止まる。
中央。
巨大な水晶。
その周囲には複数の古い肖像画。
◇
一枚の絵。
そこには金色の衣装を纏った少女が描かれていた。
美しい。
優しい笑顔。
◇
ベルが息を呑む。
『……』
◇
ゴードンが言う。
「初代グランドリミィジュ」
◇
ノエリアは見上げる。
なぜか。
胸がざわついた。
◇
その少女の隣には。
小さな妖精。
◇
ベルに似ていた。
◇
「ベル?」
『うん』
ベルは珍しく静かだった。
◇
ゴードンは続ける。
「グランドリミィジュとは何か」
「なぜ十五年間現れなかったのか」
「そして」
そこで。
ノエリアを見る。
◇
「なぜお主が選ばれたのか」
◇
空気が変わる。
ノエリアの心臓が跳ねた。
◇
エイミーも表情を変える。
アンナも。
ウィリアムも。
◇
ゴードンは杖を水晶へ向けた。
光が広がる。
◇
映像。
古い記憶。
◇
そこに映ったのは。
七歳のノエリアだった。
◇
「え……」
本人が一番驚く。
◇
幼い自分。
笑っている。
今では考えられないくらい自信満々だ。
◇
その隣には。
ベル。
◇
『懐かしい』
ベルが小さく呟く。
◇
ゴードンは静かに言う。
「お主は七歳の時」
「一度だけ」
◇
映像の中で。
幼いノエリアが光に包まれる。
◇
周囲が息を呑む。
◇
その光は。
今まで誰も見たことがないほど美しかった。
◇
金色。
虹色。
暖かい輝き。
◇
エイミーが立ち上がる。
「まさか……」
◇
ゴードンが頷く。
◇
「覚醒前のグランドリミィジュじゃ」
◇
静寂。
◇
ノエリアは言葉を失う。
◇
自分が?
◇
適正値ゼロの自分が?
◇
ずっと自信がなかった自分が?
◇
そんなはずがない。
◇
でも。
映像は嘘をつかない。
◇
ベルが悲しそうに笑った。
『ずっと言えなかった』
◇
ノエリアを見る。
◇
『ぼくが待ってたのは』
◇
『ノエリアなんだ』
◇
その瞬間。
ノエリアの心の奥で。
何かが静かに動き始めた。




