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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第三十二話 闇学園の学園長

中央広場は静まり返っていた。


誰もがゴードン学園長の言葉を理解しようとしている。


隣国のリミィジュ学園が襲撃された。


それだけでも十分衝撃だった。


だが、本当に重かったのはその後の言葉だ。


――敵の学園長が動き始めた。


闇学園の学園長。


これまで名前だけは噂されていた。


闇落ちした生徒たちを集めた存在。


怪物を生み出し、各地で混乱を起こしている黒幕。


だが実際に姿を見た者は少ない。


ノエリアも知らなかった。


それなのに。


ゴードンの表情を見るだけで、その存在がどれほど危険か分かる気がした。



「本日より警戒態勢を強化する」


ゴードンが続ける。


「不要な単独行動は禁止」


「教師の許可なく学園外へ出ることも禁止じゃ」


生徒たちがざわつく。


かなり厳しい措置だった。



生徒会長のエイミーが前へ出る。


「不安になる必要はありません」


落ち着いた声。


それだけで広場の空気が少し変わる。


「学園は皆さんを守ります」


「私たち生徒会も全力を尽くします」


真っ直ぐな言葉だった。



ノエリアは少しだけ見惚れていた。


やっぱりすごい。


立っているだけで周囲を安心させる。


自分にはまだできないことだ。



解散後。


生徒たちはそれぞれ教室や寮へ戻っていく。


いつもより会話は少ない。


不安が消えたわけではないのだ。



ノエリアたちは中庭へ集まっていた。


ハイジが腕を組む。


「闇学園の学園長か」


ダニーも真面目な顔だった。


「今までの敵と違うんだろうな」


ジェイドが頷く。


「間違いなく」



フィアは少し心配そうだった。


「エスターちゃんたちも大丈夫かなぁ」


その言葉で空気が変わる。



敵。


なのに。


最近は単純にそう思えなくなっていた。


特にエスター。


彼女は何かを守ろうとしているようにも見える。



ノエリアがぽつりと呟く。


「エスターさん」


自然に"さん"付けになった。


ハイジが苦笑する。


「敵だぞ」


「分かってる」


でも。


完全に憎めない。



ベルも複雑そうだった。


『昔のエスターは本当に優しかった』


何度も聞いた話。


でも。


ベルがそう言うたびに胸が痛くなる。



その日の夜。


学園長室。


ゴードンの前には生徒会メンバーが集まっていた。


エイミー。


アンナ。


ウィリアム。


そしてもう一人。


トレバー。


ゴールドバッジ二つを持つ生徒会書記だった。


短い銀髪の少年で、普段はあまり前へ出ない。


だが実力は本物だ。



机の上には複数の報告書。


被害状況。


敵の目撃情報。


闇学園に関する調査資料。



ウィリアムが眼鏡を押し上げる。


「隣国学園の被害は想像以上です」


資料には焼け落ちた校舎の写真。


崩壊した結界。


負傷した生徒たち。



アンナの表情も珍しく硬い。


「ここまでやるんか……」



ゴードンが静かに頷く。


「敵は急いでおる」


エイミーが顔を上げた。


「急いでいる?」



ゴードンは窓の外を見る。


夜空。


静かな学園。


「何かを探しておる」


その言葉に。


エイミーの脳裏へ浮かぶ人物がいた。



ノエリア。



ゴードンも同じことを考えていた。


だが口にはしない。


まだ確信がない。



ただ一つだけ分かることがある。


闇学園が動き始めた時期。


エスターがノエリアへ興味を持ち始めた時期。


ベルが現れた時期。


全てが重なっている。



十五年間止まっていた運命。


それが再び動いている。



「学園長」


エイミーが呼ぶ。


「何じゃ」


「もし」


少しだけ迷う。


「もし、お姉ちゃんが本当に利用されているだけなら」


ゴードンは静かに聞いていた。



エイミーは拳を握る。


「私は助けたい」


真っ直ぐな言葉だった。



アンナが微笑む。


「当たり前や」


ウィリアムも頷く。


「我々も同じです」



ゴードンは少しだけ笑った。


「そうじゃな」



一方その頃。


闇学園。



そこはグランドフォール学園とは真逆だった。


黒い塔。


黒い花。


曇った空。


冷たい風。



巨大な校舎の最上階。


学園長室。



一人の男が椅子へ座っていた。


年齢は四十代ほど。


長い黒髪。


穏やかな笑顔。


一見すると優しそうな教師にしか見えない。



だが。


その瞳だけは違った。


底知れない闇。



机の上には複数の写真が並んでいる。


カリン。


キース。


オリオン。


そして。


エスター。



男は最後の写真を手に取る。


ノエリアの写真だった。



「見つけたよ」


優しい声。


なのに寒気がする。



「やっと」


男は微笑む。



「グランドリミィジュ」



その言葉と同時に。


部屋の空気が震えた。



離れた場所。


黒薔薇の庭園。


エスターが顔を上げる。


何かを感じたのだ。



「……始まる」


小さな呟き。



そして。


その瞳には。


初めて明確な焦りが浮かんでいた。


なぜなら彼女は知っている。


闇学園の学園長が本気で動く時。


世界そのものが壊れ始めることを。

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