第三十一話 Cクラスの教室
防衛戦から一週間。
グランドフォール学園は少しずつ日常を取り戻していた。
壊れた施設は修復され、警戒態勢は続いているものの、生徒たちは再び授業や訓練に励んでいる。
そしてノエリアたちにも、大きな変化があった。
Cクラスへの正式編入である。
朝。
新しい教室の前で、ノエリアは立ち尽くしていた。
「入りたくない……」
『また始まった』
ベルが呆れる。
「だって!」
目の前の扉には金色のプレート。
【Cクラス】
今までいたDクラスより広い。
生徒数も多い。
知らない人ばかり。
緊張する。
◇
ハイジはすでに中へ入っていた。
「早く来い」
「無理」
「来い」
「無理」
「来い」
「無理」
結局引きずられた。
◇
教室へ入った瞬間。
視線が集まる。
ノエリアの心臓が止まりかけた。
「うわ」
「本物だ」
「ゼロの子」
「防衛戦で活躍したって」
聞こえている。
全部聞こえている。
◇
「帰りたい」
『三回目』
ベルが数えていた。
◇
すると。
一人の女子生徒が近づいてきた。
茶色のショートボブ。
元気そうな雰囲気。
「ノエリアだよね!?」
「ひゃい!」
また声が裏返る。
◇
少女は気にしない。
「私ミレナ!」
ノエリアは思い出した。
昇格前に戦った相手だ。
◇
「あ」
「覚えてる?」
「うん!」
「よかった!」
ミレナは笑う。
屈託がない。
負けた相手なのに嫌な空気が全くなかった。
◇
「今度は同じクラスだね」
「そうだね」
「よろしく!」
握手を求められる。
ノエリアも慌てて握り返した。
◇
それを見ていた周囲の生徒たちも少しずつ集まってくる。
「防衛戦どうだった?」
「本当にエスター見たの?」
「変身見せて!」
「それは無理!」
一気に囲まれた。
◇
ベルが笑う。
『人気者』
「やめて!」
◇
意外だった。
もっと嫌われると思っていた。
注目されるのは苦手だ。
でも。
悪意はない。
みんな純粋に興味を持っているだけだった。
◇
その頃。
Bクラス。
ジェイドは静かに窓際へ座っていた。
周囲の女子生徒たちが何か話している。
「最近よくD……じゃなくてCクラス行ってるよね」
「誰かいるのかな」
「ねー」
◇
ジェイドは聞こえていないふりをした。
だが。
少しだけ耳が赤かった。
◇
ダニーはそれを見逃さない。
「へぇ」
「黙れ」
「何も言ってない」
「顔が言ってる」
◇
いつもの二人だった。
◇
一方。
生徒会室。
エイミーは書類を整理していた。
防衛戦後の報告書。
結界修復計画。
警備再編。
仕事が山積みだった。
◇
アンナが紅茶を置く。
「休んだら?」
「まだ」
「またそれや」
アンナはため息をつく。
◇
ウィリアムも頷いた。
「会長」
「なに?」
「少し無理をしています」
エイミーは苦笑する。
図星だった。
◇
だが。
止まれない。
昨夜も夢を見た。
幼い頃のエスター。
笑っていた姉。
手を伸ばしても届かなかった。
◇
エイミーは机の引き出しを開ける。
中には小さな髪留め。
幼い頃にエスターからもらったものだった。
◇
「お姉ちゃん」
小さな呟き。
◇
その日の放課後。
ノエリアたちは再び自主練習をしていた。
場所は西訓練場。
いつものメンバー。
いつもの時間。
◇
ハイジが突っ込む。
ダニーが避ける。
フィアが笑う。
ジェイドが止める。
ノエリアが巻き込まれる。
いつもの流れ。
◇
でも。
少しだけ違った。
今は全員が前より強い。
前より連携できる。
前より信頼している。
◇
「ノエリア!」
ジェイドが声を上げる。
「右!」
「うん!」
反応する。
以前より速く。
自然に。
◇
連携が繋がる。
フィアの補助。
ダニーの援護。
ハイジの突破。
ノエリアの追撃。
◇
グレタが遠くから見ていた。
少しだけ微笑む。
◇
この子たちは変わった。
特にノエリア。
能力だけじゃない。
人との関わり方が。
◇
そのときだった。
空から一羽の伝令妖精が飛んでくる。
真っ直ぐ生徒会室方向へ。
◇
グレタの表情が変わる。
嫌な予感。
◇
数分後。
学園中へ緊急招集がかかった。
◇
中央広場。
全校生徒集合。
教師陣集合。
生徒会集合。
◇
ざわつく生徒たち。
ノエリアたちも駆けつける。
◇
そして。
広場中央にはゴードン学園長が立っていた。
その顔は珍しく厳しい。
◇
静寂。
◇
ゴードンが口を開く。
「隣国のリミィジュ学園が襲撃された」
空気が凍る。
◇
誰も声を出せない。
◇
リミィジュ学園。
この国だけではない。
世界には複数の育成機関が存在する。
その一つが。
壊滅した。
◇
ゴードンは続ける。
「敵は闇学園」
ざわめき。
◇
「そして」
ゴードンの声が低くなる。
「生存者の証言により判明した」
◇
全員が息を呑む。
◇
「敵の学園長が動き始めた」
◇
ベルの顔色が変わった。
エイミーの瞳も揺れる。
ゴードンだけが真っ直ぐ前を見ている。
◇
物語はここで新たな段階へ入ろうとしていた。
今までの敵は前哨戦。
カリンも。
エスターも。
まだ駒に過ぎない。
◇
本当の黒幕が。
ついに姿を現そうとしていた。




