第二十八話 はじめての防衛戦
ゴォォォォン――――
ゴォォォォン――――
警報鐘が夜の学園へ響き渡る。
普段は優しく光るグランドフォール学園の街灯が赤色へ変わり、校舎の壁面に結界術式が次々と浮かび上がった。
寮の窓から飛び起きる生徒たち。
教師たちの指示。
飛び回る連絡妖精。
学園全体が一瞬で戦闘態勢へ移行していく。
ノエリアは呆然と窓の外を見ていた。
「本当に……?」
ベルが頷く。
いつになく真剣な顔だった。
『本物だよ』
『今までで一番大きい』
胸がざわつく。
今までの敵襲は局地的なものだった。
数人。
数体。
だが今回は違う。
学園そのものが警戒している。
◇
数分後。
中央広場。
全校生徒が集められていた。
夜だというのに広場は明るい。
結界灯が空中へ浮かび、まるで昼間のように照らしている。
ゴードン学園長が前へ出た。
いつも穏やかな老人。
だが今は違う。
その姿から圧倒的な威圧感が漂っていた。
周囲が静まり返る。
「諸君」
低い声。
広場全体へ響く。
「北方結界に大規模侵攻を確認した」
ざわめき。
「敵戦力は推定百以上」
生徒たちの顔色が変わる。
百。
今まで聞いたことのない数字だった。
◇
ゴードンは続ける。
「ただし慌てる必要はない」
その声には不思議な力があった。
聞いているだけで落ち着く。
「結界は健在じゃ」
「教師陣もおる」
「生徒会もおる」
そして。
少しだけ笑った。
「何より、お主たちがおる」
緊張が少し和らぐ。
◇
指示が飛ぶ。
Aクラス。
前線防衛。
Bクラス。
迎撃支援。
Cクラス。
避難誘導および後方支援。
Dクラス。
校内待機。
◇
ノエリアたちはCクラスへ昇格したばかりだ。
つまり。
出撃対象。
「え」
現実味がない。
昨日まで昇格試験だった。
今日は初実戦。
急すぎる。
◇
ハイジは真っ先に拳を握った。
「行くぞ!」
相変わらずである。
ダニーも頷く。
「やってやる」
ジェイドはすでに冷静に状況を確認している。
フィアは少し緊張していた。
でも逃げてはいない。
◇
エイミーが前へ出る。
赤制服が夜風に揺れる。
「各班へ分かれて行動」
静かな声。
だが誰よりも頼もしい。
「無理はしないこと」
「独断行動は禁止」
「必ず仲間と連携しなさい」
そして。
一瞬だけノエリアを見る。
「必ず帰ってきなさい」
その言葉は全員へ向けたものだった。
でも。
ノエリアには少し特別に聞こえた。
◇
出撃準備。
ノエリアたちの班は五人。
ノエリア。
ハイジ。
フィア。
ダニー。
ジェイド。
いつものメンバーだった。
全員少し安心する。
◇
北方結界付近。
到着した瞬間。
ノエリアは息を呑んだ。
巨大だった。
夜空を覆うほどの結界。
その向こう側。
無数の闇魔物。
黒い狼。
巨大な鳥。
異形の獣。
まるで闇そのものが押し寄せてきている。
◇
「うわ……」
ダニーも言葉を失う。
フィアが少し青ざめる。
ハイジだけが燃えていた。
「すげぇ!」
「感想それ!?」
◇
ジェイドが冷静に分析する。
「下級が中心だ」
確かに。
以前出会った高位個体ほどの圧力はない。
だが数が多い。
圧倒的に多い。
◇
そのとき。
前線で爆発音が響く。
Aクラスが戦闘を開始したのだ。
エイミー。
アンナ。
ウィリアム。
三人だけで戦況が変わる。
圧倒的だった。
◇
エイミーの剣が光る。
一振り。
それだけで複数の魔物が吹き飛ぶ。
アンナの術式が展開される。
巨大な光陣。
敵の動きを封じる。
ウィリアムは冷静に弱点を撃ち抜く。
まさに学園最強戦力。
◇
「すご……」
ノエリアは思わず見惚れた。
これがAクラス。
これが本物。
今の自分たちとは別次元だった。
◇
しかし。
魔物は止まらない。
次々押し寄せる。
教師陣も迎撃しているが追いつかない。
そして。
ついに。
一部が突破した。
◇
「来るぞ!」
ジェイドが叫ぶ。
班の前へ数体の闇狼が飛び込んでくる。
ノエリアの心臓が跳ねた。
初めての実戦。
模擬戦じゃない。
本物。
◇
怖い。
足が震える。
逃げたい。
でも。
横を見る。
フィアがいる。
ハイジがいる。
ダニーがいる。
ジェイドがいる。
◇
ジェイドが前へ出る。
「ノエリア!」
「うん!」
「左を頼む!」
その言葉で動けた。
◇
変身。
光が舞う。
ピンク色のリボンが夜空へ広がる。
ノエリア・リミィジュフォーム。
◇
闇狼が飛びかかる。
速い。
でも。
見える。
以前より。
ずっと。
◇
大剣を振る。
衝突。
弾き飛ばす。
初めて。
自分の力で。
◇
「やった!」
ベルが叫ぶ。
『いける!』
◇
ハイジは豪快に突撃。
ダニーは援護。
フィアは防御と治療。
ジェイドが全体指揮。
自然だった。
いつもの延長線みたいに。
◇
そして。
ノエリアは気づく。
一人で戦っているわけじゃない。
だから怖くても進める。
◇
その頃。
戦場のさらに奥。
闇の軍勢の後方。
カリンが楽しそうに戦況を見ていた。
「頑張ってるねぇ」
隣には誰かが立っている。
長身。
黒い制服。
顔は見えない。
◇
その人物がぽつりと呟く。
「まだ足りない」
低い声。
知らない声。
ノエリアたちがまだ知らない敵。
◇
カリンは笑う。
「そうだね」
そして学園を見る。
真っ直ぐ。
「でも」
紫色の瞳が細くなる。
「もうすぐ会えるよ」
その視線の先には。
戦場を駆けるノエリアの姿があった。
そして。
北方結界のさらに奥。
誰にも気づかれない場所で。
エスターが静かに目を閉じていた。
まるで何かを迷うように。




