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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第二十八話 はじめての防衛戦

ゴォォォォン――――


ゴォォォォン――――


警報鐘が夜の学園へ響き渡る。


普段は優しく光るグランドフォール学園の街灯が赤色へ変わり、校舎の壁面に結界術式が次々と浮かび上がった。


寮の窓から飛び起きる生徒たち。


教師たちの指示。


飛び回る連絡妖精。


学園全体が一瞬で戦闘態勢へ移行していく。


ノエリアは呆然と窓の外を見ていた。


「本当に……?」


ベルが頷く。


いつになく真剣な顔だった。


『本物だよ』


『今までで一番大きい』


胸がざわつく。


今までの敵襲は局地的なものだった。


数人。


数体。


だが今回は違う。


学園そのものが警戒している。



数分後。


中央広場。


全校生徒が集められていた。


夜だというのに広場は明るい。


結界灯が空中へ浮かび、まるで昼間のように照らしている。


ゴードン学園長が前へ出た。


いつも穏やかな老人。


だが今は違う。


その姿から圧倒的な威圧感が漂っていた。


周囲が静まり返る。


「諸君」


低い声。


広場全体へ響く。


「北方結界に大規模侵攻を確認した」


ざわめき。


「敵戦力は推定百以上」


生徒たちの顔色が変わる。


百。


今まで聞いたことのない数字だった。



ゴードンは続ける。


「ただし慌てる必要はない」


その声には不思議な力があった。


聞いているだけで落ち着く。


「結界は健在じゃ」


「教師陣もおる」


「生徒会もおる」


そして。


少しだけ笑った。


「何より、お主たちがおる」


緊張が少し和らぐ。



指示が飛ぶ。


Aクラス。


前線防衛。


Bクラス。


迎撃支援。


Cクラス。


避難誘導および後方支援。


Dクラス。


校内待機。



ノエリアたちはCクラスへ昇格したばかりだ。


つまり。


出撃対象。


「え」


現実味がない。


昨日まで昇格試験だった。


今日は初実戦。


急すぎる。



ハイジは真っ先に拳を握った。


「行くぞ!」


相変わらずである。


ダニーも頷く。


「やってやる」


ジェイドはすでに冷静に状況を確認している。


フィアは少し緊張していた。


でも逃げてはいない。



エイミーが前へ出る。


赤制服が夜風に揺れる。


「各班へ分かれて行動」


静かな声。


だが誰よりも頼もしい。


「無理はしないこと」


「独断行動は禁止」


「必ず仲間と連携しなさい」


そして。


一瞬だけノエリアを見る。


「必ず帰ってきなさい」


その言葉は全員へ向けたものだった。


でも。


ノエリアには少し特別に聞こえた。



出撃準備。


ノエリアたちの班は五人。


ノエリア。


ハイジ。


フィア。


ダニー。


ジェイド。


いつものメンバーだった。


全員少し安心する。



北方結界付近。


到着した瞬間。


ノエリアは息を呑んだ。


巨大だった。


夜空を覆うほどの結界。


その向こう側。


無数の闇魔物。


黒い狼。


巨大な鳥。


異形の獣。


まるで闇そのものが押し寄せてきている。



「うわ……」


ダニーも言葉を失う。


フィアが少し青ざめる。


ハイジだけが燃えていた。


「すげぇ!」


「感想それ!?」



ジェイドが冷静に分析する。


「下級が中心だ」


確かに。


以前出会った高位個体ほどの圧力はない。


だが数が多い。


圧倒的に多い。



そのとき。


前線で爆発音が響く。


Aクラスが戦闘を開始したのだ。


エイミー。


アンナ。


ウィリアム。


三人だけで戦況が変わる。


圧倒的だった。



エイミーの剣が光る。


一振り。


それだけで複数の魔物が吹き飛ぶ。


アンナの術式が展開される。


巨大な光陣。


敵の動きを封じる。


ウィリアムは冷静に弱点を撃ち抜く。


まさに学園最強戦力。



「すご……」


ノエリアは思わず見惚れた。


これがAクラス。


これが本物。


今の自分たちとは別次元だった。



しかし。


魔物は止まらない。


次々押し寄せる。


教師陣も迎撃しているが追いつかない。


そして。


ついに。


一部が突破した。



「来るぞ!」


ジェイドが叫ぶ。


班の前へ数体の闇狼が飛び込んでくる。


ノエリアの心臓が跳ねた。


初めての実戦。


模擬戦じゃない。


本物。



怖い。


足が震える。


逃げたい。


でも。


横を見る。


フィアがいる。


ハイジがいる。


ダニーがいる。


ジェイドがいる。



ジェイドが前へ出る。


「ノエリア!」


「うん!」


「左を頼む!」


その言葉で動けた。



変身。


光が舞う。


ピンク色のリボンが夜空へ広がる。


ノエリア・リミィジュフォーム。



闇狼が飛びかかる。


速い。


でも。


見える。


以前より。


ずっと。



大剣を振る。


衝突。


弾き飛ばす。


初めて。


自分の力で。



「やった!」


ベルが叫ぶ。


『いける!』



ハイジは豪快に突撃。


ダニーは援護。


フィアは防御と治療。


ジェイドが全体指揮。


自然だった。


いつもの延長線みたいに。



そして。


ノエリアは気づく。


一人で戦っているわけじゃない。


だから怖くても進める。



その頃。


戦場のさらに奥。


闇の軍勢の後方。


カリンが楽しそうに戦況を見ていた。


「頑張ってるねぇ」


隣には誰かが立っている。


長身。


黒い制服。


顔は見えない。



その人物がぽつりと呟く。


「まだ足りない」


低い声。


知らない声。


ノエリアたちがまだ知らない敵。



カリンは笑う。


「そうだね」


そして学園を見る。


真っ直ぐ。


「でも」


紫色の瞳が細くなる。


「もうすぐ会えるよ」


その視線の先には。


戦場を駆けるノエリアの姿があった。


そして。


北方結界のさらに奥。


誰にも気づかれない場所で。


エスターが静かに目を閉じていた。


まるで何かを迷うように。

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