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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第二十七話 はじめてのバッジ

歓声はしばらく止まらなかった。


中央演習場全体が揺れているようだった。


「うおおおおお!!」


「合格した!!」


「本当に!?」


「ゼロから!?」


観覧席の生徒たちが立ち上がる。


特にDクラスは大騒ぎだった。


ハイジは柵を乗り越えそうになってグレタに止められている。


ダニーは両手を上げて飛び跳ねていた。


フィアは普通に泣いていた。


「よかったよぉぉぉ……」


ルークまで目を潤ませている。



一方。


当の本人は。


「え?」


まだ固まっていた。


エイミーが少し困ったように笑う。


「聞こえなかった?」


「いや」


聞こえた。


聞こえたのだ。


だからこそ信じられない。


「合格……?」


「ええ」


「私が?」


「そうよ」



その瞬間。


ベルが突撃した。


『やったぁぁぁぁ!!』


ノエリアへ抱きつく。


勢い余って二人とも転がる。


「わぁ!?」


『やったやったやった!!』


「ベル苦しい!」


『合格だよ!!』



観覧席。


アンナが笑う。


「可愛いやん」


ウィリアムも珍しく口元を緩めていた。


「予想以上でしたね」


エイミーは二人の声を聞きながらノエリアを見る。


あの踏み込み。


技術的にはまだ未熟。


力も足りない。


それでも。


心が折れなかった。


それが何より大きかった。



試験終了後。


昇格候補者たちは表彰台前へ集められた。


全校生徒が見守る中。


グレタが結果を読み上げる。


「ルーク、合格」


拍手。


ルークが泣く。


「フィア、合格」


さらに拍手。


フィアはにこにこしている。


「ハイジ、合格」


歓声。


本人はドヤ顔。


そして。


「ノエリア」


静寂。



グレタは少しだけ笑った。


「合格」


大歓声。


さっき以上だった。


ノエリアは思わず耳を押さえる。


「うるさい!」


『人気者』


「違う!」



そして。


ここからが本番だった。


昇格者への授与式。


学園では昇格すると新しいバッジが与えられる。


適正値と努力の証。


誰もが憧れるもの。



エイミーが前へ出る。


職員から小箱を受け取る。


中には四つのバッジ。


ブロンドバッジ。


銀色の小さな宝石が埋め込まれている。


まだ最初の一歩。


それでも特別な証。



最初にルーク。


次にフィア。


そしてハイジ。


順番に胸元へ付けられていく。


皆少し誇らしそうだった。



最後。


「ノエリア」


名前が呼ばれる。


心臓が跳ねる。


前へ出る。


たくさんの視線。


でも。


不思議と前ほど怖くなかった。



エイミーが小箱を開く。


中にはブロンドバッジ。


ノエリアは思わず見つめる。


ずっと遠かった。


届かないと思っていた。


皆が持っているもの。


自分にはないもの。



エイミーが言う。


「胸を張りなさい」


ノエリアが顔を上げる。


「え?」


「あなたが勝ち取ったものよ」


優しい声だった。



ゆっくり。


エイミーがバッジを付ける。


制服へ。


胸元へ。


かちり。


小さな音。


それだけなのに。


涙が出そうになる。



「おめでとう」


エイミーが微笑む。


ノエリアは震える声で答えた。


「……ありがとうございます」



拍手が響く。


ベルはすでに号泣していた。


『うわぁぁぁぁん!!』


「ベルが一番泣いてる!」



授与式終了後。


ノエリアはしばらく自分のバッジを見つめていた。


小さい。


でも重い。


今までの全部が詰まっている気がした。



そこへ。


ハイジが現れる。


「見せろ」


「え?」


勝手に覗き込む。


「いいじゃん」


「雑!」


ダニーも来る。


「おー!」


フィアも。


「かわいいねぇ」


ジェイドも。


少しだけ微笑んだ。


「似合ってる」



ノエリアは少し照れる。


でも。


嬉しかった。


みんなが喜んでくれている。


それが何より嬉しい。



その日の夕方。


昇格者たちは正式にクラス変更の手続きを受けることになった。


今回。


DクラスからCクラスへ上がる生徒が複数名出た。


ノエリア。


ハイジ。


フィア。


ルーク。


グレタのクラスから、一気に四人も昇格したのだ。


異例だった。



教室。


グレタが結果を見ながら言う。


「誇りに思う」


全員が静かになる。


グレタは滅多に感情を表に出さない。


だからこそ重い。


「よく頑張った」


その一言で。


ルークがまた泣き始めた。



ノエリアも胸が熱くなる。


入学した日。


自分は最底辺だった。


誰より弱かった。


何もなかった。


でも。


今は違う。


少しだけ前へ進めた。



そしてその夜。


女子寮。


ノエリアは鏡の前に立っていた。


胸元のバッジを見る。


何度も。


何度も。


本物か確認するみたいに。



ベルが笑う。


『嬉しい?』


「うん」


素直に答えられた。


『えへへ』


ベルも嬉しそうだった。



しかし。


その穏やかな時間は長く続かなかった。


窓の外。


学園の北側。


遠くの夜空が。


一瞬だけ黒く染まる。



ベルの笑顔が消えた。


『……来る』


ノエリアが振り返る。


「え?」


ベルは北の空を見ていた。


その顔は。


妖精の森でエスターと会った時と同じだった。


『始まる』


小さな声。



同じ頃。


生徒会室。


エイミーも窓の外を見ていた。


アンナが表情を変える。


ウィリアムが立ち上がる。


そして。


学園全体へ緊急鐘が鳴り響いた。


ゴォォォォン――――


ゴォォォォン――――


夜の学園を震わせる警報。



ゴードン学園長は静かに立ち上がる。


「ついに来たか」


その視線の先。


北方結界。


そこへ。


大量の闇の魔物反応が出現していた。


そして最前列には。


見覚えのある紫髪の少女。


カリンがいた。


彼女は学園を見上げて。


楽しそうに微笑んでいた。


「こんばんは」


その後ろには無数の闇魔物。


そしてさらに奥には。


まだ姿を見せない"誰か"の気配があった。


ノエリアたちの初めての本格的な防衛戦が。


今まさに始まろうとしていた。

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