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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第二十六話 昇格試験

試験当日の朝。


グランドフォール学園は、いつもより少しだけ早く目を覚ましていた。


中央広場には朝から多くの生徒が集まっている。


昇格試験は学園の恒例行事だ。


特に今回は注目度が高かった。


適正値ゼロの少女。


異例の妖精契約。


急成長。


そして試験官は生徒会長エイミー。


噂好きな生徒たちにとって、見逃せる行事ではなかった。



「帰りたい」


朝一番のノエリアの言葉だった。


ベルが即座に返す。


『だめ』


「まだ始まってないよ!?」


『だからだよ』


ハイジが笑う。


「通常運転だな」


「笑い事じゃない!」


ダニーも肩を叩く。


「大丈夫だって」


「根拠は?」


「ない!」


最近周りが適当だった。



試験会場は中央演習場。


学園最大の訓練施設だ。


白い石畳。


観覧席。


巨大な結界。


まるで競技場みたいな場所だった。


Dクラスだけでなく、CクラスやBクラスの生徒も集まっている。


かなりの人数だった。


ノエリアは胃が痛くなった。


「人多い……」


『人気者』


「やめて」



試験は複数種目。


まずは基礎能力測定。


次に実技。


最後に模擬任務。


総合評価で昇格が決まる。



最初の測定は順調だった。


ルークは予想以上の結果を出す。


努力が数字になっていた。


フィアも高評価。


判断力部門では上位だった。


ハイジは相変わらず豪快。


減点も多いが加点も多い。


そして。


ノエリア。



適正値測定。


中央の巨大水晶へ手を置く。


全員が見ている。


静寂。


ノエリアは少し緊張した。


以前なら何も起こらなかった。


今回も――


と思った瞬間。


水晶が光る。


ざわっ。


観覧席が揺れる。


ノエリア自身も目を見開いた。


光は強くない。


でも確かに反応している。



試験官席。


エイミーが静かにそれを見る。


アンナが小さく笑った。


「出たなぁ」


ウィリアムも記録を取っている。


「前回より明らかに上昇しています」


ゴードン校長は遠くから目を細めた。



結果表示。


適正値。


ゼロではなかった。


わずか。


本当にわずか。


だが。


「ブロンドバッジ1相当」


会場がざわつく。


ノエリアは固まった。


「え?」


ベルが飛び上がる。


『増えたぁぁぁ!!』



ゼロじゃない。


本当に。


初めて。


数値として現れた。


ノエリアの目が潤む。


ほんの少し。


たった一歩。


それでも。


大きな一歩だった。



ハイジが叫ぶ。


「やったじゃねぇか!」


ダニーも喜ぶ。


フィアは拍手している。


ジェイドは少しだけ微笑んでいた。


ノエリアは言葉が出ない。


ただ嬉しかった。



試験は続く。


実技。


模擬任務。


どれも簡単ではなかった。


何度も失敗する。


焦る。


転ぶ。


空振る。


でも。


以前と違うことがあった。


立ち止まらない。



模擬任務では負傷者役の救助が出題された。


以前のノエリアなら。


真っ先に飛び出していた。


今回は違う。


周囲を見る。


状況を見る。


仲間へ指示を出す。


「フィア、治療!」


「はーい」


「ルーク、避難経路!」


「わ、わかった!」


少しずつ。


少しずつ。


成長している。



そして。


最後。


全員が待っていた種目。


模擬戦評価。


試験官による直接判定。


会場の空気が変わる。


エイミーが立ち上がる。


赤制服が揺れる。


圧倒的な存在感。


観覧席が静まる。



候補生たちが順番に挑む。


ハイジ。


善戦。


だが完敗。


フィア。


うまく立ち回る。


だが届かない。


ルーク。


健闘。


しかし力の差は大きい。


そして。


最後。


「ノエリア」


名前が呼ばれる。



足が震える。


怖い。


でも。


逃げたくはなかった。


ゆっくり前へ出る。


演習場中央。


向かいにはエイミー。


風が吹く。


観覧席が静まり返る。



エイミーが剣を構える。


美しい構え。


隙がない。


まるで完成された芸術品みたいだった。


「始めましょう」


静かな声。


ノエリアは大剣を握る。


ベルが肩で囁く。


『大丈夫』



試験開始。


合図と同時。


エイミーが動いた。


速い。


今まで見てきた誰より速い。


一瞬で目の前。


ノエリアは反射で受ける。


衝撃。


吹き飛ばされる。


「きゃっ!」


観覧席から悲鳴が上がる。


圧倒的だった。



それでも。


ノエリアは立ち上がる。


怖い。


足が震える。


でも。


逃げない。



エイミーが少しだけ目を細めた。


「いいわ」


もう一度来る。


今度は連撃。


ノエリアは必死に防ぐ。


一撃。


二撃。


三撃。


全て重い。


全部強い。



それでも。


以前より見える。


以前より動ける。


以前より諦めない。



観覧席。


ダニーが拳を握る。


ハイジも真剣だった。


フィアは祈るように見ている。


ジェイドは静かに見守っていた。



エイミーが気づく。


この少女は。


本当に変わった。


最初に見た時は怯えていた。


今も怖がっている。


でも。


前へ進む。


何度でも。



そして。


最後。


ノエリアは踏み込んだ。


全力。


今の自分の全て。


「はぁぁぁぁ!!」


大剣を振る。



エイミーは受ける。


衝撃が走る。


会場が揺れる。


そして。


静寂。



ノエリアの剣は止められていた。


完全に。


圧倒的に。


でも。


エイミーは微笑んでいた。


「合格」


会場が静まり返る。


一秒。


二秒。


三秒。


そして。


歓声が爆発した。



ノエリアは呆然とする。


「……え?」


エイミーは剣を下ろした。


「あなたはもう前を向いている」


静かな声。


でも。


誰よりも温かかった。



適正値ゼロ。


落ちこぼれ。


誰にも期待されなかった少女。


その少女は。


初めて。


昇格試験へ合格した。

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