第二十六話 昇格試験
試験当日の朝。
グランドフォール学園は、いつもより少しだけ早く目を覚ましていた。
中央広場には朝から多くの生徒が集まっている。
昇格試験は学園の恒例行事だ。
特に今回は注目度が高かった。
適正値ゼロの少女。
異例の妖精契約。
急成長。
そして試験官は生徒会長エイミー。
噂好きな生徒たちにとって、見逃せる行事ではなかった。
◇
「帰りたい」
朝一番のノエリアの言葉だった。
ベルが即座に返す。
『だめ』
「まだ始まってないよ!?」
『だからだよ』
ハイジが笑う。
「通常運転だな」
「笑い事じゃない!」
ダニーも肩を叩く。
「大丈夫だって」
「根拠は?」
「ない!」
最近周りが適当だった。
◇
試験会場は中央演習場。
学園最大の訓練施設だ。
白い石畳。
観覧席。
巨大な結界。
まるで競技場みたいな場所だった。
Dクラスだけでなく、CクラスやBクラスの生徒も集まっている。
かなりの人数だった。
ノエリアは胃が痛くなった。
「人多い……」
『人気者』
「やめて」
◇
試験は複数種目。
まずは基礎能力測定。
次に実技。
最後に模擬任務。
総合評価で昇格が決まる。
◇
最初の測定は順調だった。
ルークは予想以上の結果を出す。
努力が数字になっていた。
フィアも高評価。
判断力部門では上位だった。
ハイジは相変わらず豪快。
減点も多いが加点も多い。
そして。
ノエリア。
◇
適正値測定。
中央の巨大水晶へ手を置く。
全員が見ている。
静寂。
ノエリアは少し緊張した。
以前なら何も起こらなかった。
今回も――
と思った瞬間。
水晶が光る。
ざわっ。
観覧席が揺れる。
ノエリア自身も目を見開いた。
光は強くない。
でも確かに反応している。
◇
試験官席。
エイミーが静かにそれを見る。
アンナが小さく笑った。
「出たなぁ」
ウィリアムも記録を取っている。
「前回より明らかに上昇しています」
ゴードン校長は遠くから目を細めた。
◇
結果表示。
適正値。
ゼロではなかった。
わずか。
本当にわずか。
だが。
「ブロンドバッジ1相当」
会場がざわつく。
ノエリアは固まった。
「え?」
ベルが飛び上がる。
『増えたぁぁぁ!!』
◇
ゼロじゃない。
本当に。
初めて。
数値として現れた。
ノエリアの目が潤む。
ほんの少し。
たった一歩。
それでも。
大きな一歩だった。
◇
ハイジが叫ぶ。
「やったじゃねぇか!」
ダニーも喜ぶ。
フィアは拍手している。
ジェイドは少しだけ微笑んでいた。
ノエリアは言葉が出ない。
ただ嬉しかった。
◇
試験は続く。
実技。
模擬任務。
どれも簡単ではなかった。
何度も失敗する。
焦る。
転ぶ。
空振る。
でも。
以前と違うことがあった。
立ち止まらない。
◇
模擬任務では負傷者役の救助が出題された。
以前のノエリアなら。
真っ先に飛び出していた。
今回は違う。
周囲を見る。
状況を見る。
仲間へ指示を出す。
「フィア、治療!」
「はーい」
「ルーク、避難経路!」
「わ、わかった!」
少しずつ。
少しずつ。
成長している。
◇
そして。
最後。
全員が待っていた種目。
模擬戦評価。
試験官による直接判定。
会場の空気が変わる。
エイミーが立ち上がる。
赤制服が揺れる。
圧倒的な存在感。
観覧席が静まる。
◇
候補生たちが順番に挑む。
ハイジ。
善戦。
だが完敗。
フィア。
うまく立ち回る。
だが届かない。
ルーク。
健闘。
しかし力の差は大きい。
そして。
最後。
「ノエリア」
名前が呼ばれる。
◇
足が震える。
怖い。
でも。
逃げたくはなかった。
ゆっくり前へ出る。
演習場中央。
向かいにはエイミー。
風が吹く。
観覧席が静まり返る。
◇
エイミーが剣を構える。
美しい構え。
隙がない。
まるで完成された芸術品みたいだった。
「始めましょう」
静かな声。
ノエリアは大剣を握る。
ベルが肩で囁く。
『大丈夫』
◇
試験開始。
合図と同時。
エイミーが動いた。
速い。
今まで見てきた誰より速い。
一瞬で目の前。
ノエリアは反射で受ける。
衝撃。
吹き飛ばされる。
「きゃっ!」
観覧席から悲鳴が上がる。
圧倒的だった。
◇
それでも。
ノエリアは立ち上がる。
怖い。
足が震える。
でも。
逃げない。
◇
エイミーが少しだけ目を細めた。
「いいわ」
もう一度来る。
今度は連撃。
ノエリアは必死に防ぐ。
一撃。
二撃。
三撃。
全て重い。
全部強い。
◇
それでも。
以前より見える。
以前より動ける。
以前より諦めない。
◇
観覧席。
ダニーが拳を握る。
ハイジも真剣だった。
フィアは祈るように見ている。
ジェイドは静かに見守っていた。
◇
エイミーが気づく。
この少女は。
本当に変わった。
最初に見た時は怯えていた。
今も怖がっている。
でも。
前へ進む。
何度でも。
◇
そして。
最後。
ノエリアは踏み込んだ。
全力。
今の自分の全て。
「はぁぁぁぁ!!」
大剣を振る。
◇
エイミーは受ける。
衝撃が走る。
会場が揺れる。
そして。
静寂。
◇
ノエリアの剣は止められていた。
完全に。
圧倒的に。
でも。
エイミーは微笑んでいた。
「合格」
会場が静まり返る。
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
歓声が爆発した。
◇
ノエリアは呆然とする。
「……え?」
エイミーは剣を下ろした。
「あなたはもう前を向いている」
静かな声。
でも。
誰よりも温かかった。
◇
適正値ゼロ。
落ちこぼれ。
誰にも期待されなかった少女。
その少女は。
初めて。
昇格試験へ合格した。




