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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第二十四話 笑顔の写真と、届かない想い

黒薔薇の庭園に夜風が吹く。


闇学校の本拠地――かつては美しい庭園だった場所は、今では黒い花々に覆われていた。


それでも中央にある東屋だけは、不思議と昔の面影を残している。


エスターはそこで一枚の写真を見つめていた。


まだ幼かった頃のエイミー。


隣で笑う自分。


そして後ろには優しく微笑む両親。


今では失われた時間だった。


「また見てるの?」


カリンがひょこっと顔を出す。


相変わらず軽い。


エスターは写真を閉じた。


「別に」


「嘘」


カリンは向かいへ座る。


「会いたいんでしょ?」


静かな沈黙。


エスターは答えない。


だが否定もしなかった。


カリンは小さくため息をつく。


「素直じゃないなぁ」



一方その頃。


グランドフォール学園。


昇格試験まで残り四日。


学園内は少しずつ慌ただしくなっていた。


候補生たちは最後の追い込みに入っている。


ノエリアも例外ではなかった。


「はぁっ!」


大剣を振る。


汗が飛ぶ。


以前より明らかに動けている。


それでも。


「遅い」


ジェイドの木剣が肩へ当たる。


「うぅ……」


ノエリアがへたり込む。


ダニーが笑った。


「前より全然強いぞ」


「慰めになってない」


「本当だって」



最近。


ノエリアは気づいていた。


ジェイドとダニーは似ている。


全然違うようで。


根っこの部分が。


ダニーは表に出す。


ジェイドは出さない。


でもどちらも仲間想いだ。


そして。


二人とも努力家だった。


「休憩」


ジェイドが言う。


四人は木陰へ移動する。


フィアはいつの間にかお菓子を出していた。


「どうぞぉ」


「なんで持ってるんだよ」


ハイジが呆れる。


フィアは笑った。


「備えあれば憂いなしだよぉ」


違う気がする。



休憩中。


ダニーが突然言った。


「なあ」


全員を見る。


「卒業したらどうする?」


最近こういう話が増えた。


将来。


夢。


目標。


以前ならノエリアは聞くだけだった。


今は少し違う。


ハイジが答える。


「リミィジュになる」


即答。


誰も驚かない。


ダニーも頷く。


「俺も」


ジェイドも。


フィアも。


みんな自然にそう答える。


当然のように。


リミィジュになる。


それが夢。


それが目標。


それが当たり前。



ノエリアだけが少し黙った。


自分はどうだろう。


リミィジュになりたい。


それは本当。


でも。


「まだ想像できない」


ぽつりと呟く。


ダニーが首を傾げる。


「なんで?」


「だって」


ノエリアは苦笑する。


「少し前まで適正値ゼロだったし」


ハイジが即座に言う。


「今もゼロだろ」


「そうだけど!」


全員が笑った。


ノエリアもつられて笑う。


不思議だった。


以前なら傷ついていた言葉なのに。


今は違う。


みんなが馬鹿にしていないと分かるから。



その日の夕方。


ノエリアは図書館へ来ていた。


課題を返却するためだ。


グランドフォール学園の図書館は巨大だった。


天井まで届く本棚。


光る階段。


空中を飛ぶ整理妖精。


まるで魔法の城みたいな場所だ。


「返却完了っと」


受付を終えたとき。


奥の棚で誰かを見つけた。


金髪。


赤制服。


エイミーだった。



彼女は本を読んでいた。


窓際の席。


夕陽が差し込んでいる。


綺麗だった。


ノエリアは思わず見とれる。


(絵になるなぁ)


すると。


エイミーが顔を上げた。


目が合う。


ノエリアは固まる。


エイミーは少し驚いた顔をしたあと、小さく微笑んだ。


「こんばんは」


「こ、こんばんは」


前回ほどパニックにはならなかった。


少しだけ成長。


たぶん。


「勉強?」


エイミーが聞く。


「返却です」


「そう」


短いやり取り。


でも嫌じゃない。


むしろ落ち着く。



エイミーは本を閉じた。


表紙が見える。


歴代グランドリミィジュの記録。


ノエリアは少し目を丸くした。


「会長も読むんですね」


「当然よ」


エイミーは微笑む。


「学ぶことは多い」


そして少しだけ表情が変わる。


「特に今は」


その言葉の意味は分かった。


エスター。


姉のことだ。


ノエリアは少し迷った。


聞いていいのか。


でも。


気になった。


「会長」


「なに?」


「お姉さんのこと」


エイミーの指先が少し止まる。



しばらく沈黙。


やがて。


エイミーは窓の外を見た。


夕陽が沈み始めている。


「好きだった」


静かな声。


「今も好き」


ノエリアは黙って聞く。


「優しかったの」


エイミーは少し笑う。


「なんでもできた」


勉強も。


運動も。


戦闘も。


誰からも好かれていた。


憧れだった。


自慢の姉だった。


「だから」


声が少し震える。


「助けたい」


その言葉は本物だった。


十五年。


ずっと諦めていない。



ノエリアは思う。


すごい人だ。


自分なら。


そこまで頑張れるだろうか。


分からない。


でも。


「会長」


「なに?」


「きっと会長の気持ち、届くと思います」


思わず口から出た。


根拠はない。


でも。


そう思った。


エイミーは少し目を見開く。


そして。


ふっと笑った。


「ありがとう」


その笑顔は。


今まで見た中で一番柔らかかった。



帰り道。


ノエリアは図書館を出る。


夕焼け空。


ベルが肩で笑っている。


『今のよかった』


「なにが」


『会長、嬉しかったと思う』


ノエリアは少し照れる。


そのとき。


校舎の向こうで鐘が鳴った。


昇格試験まで。


残り三日。


そして運命の歯車は。


少しずつ大きく動き始めていた。

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