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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第二十二話 それぞれの憧れ

エスターと遭遇した妖精の森での演習から三日後。


グランドフォール学園は表面上こそ普段通りだったが、教師陣と生徒会は明らかに慌ただしくなっていた。


巡回する教師が増えた。


結界点検も頻繁に行われている。


北門周辺では上級生たちが訓練を兼ねた警備を担当していた。


だが、生徒たちの日常まで止めるわけにはいかない。


朝の鐘が鳴れば授業が始まり、放課後になれば自主練習や部活動で校内は賑わう。


それが学園だった。



「ノエリアー!」


昼休み。


中庭へ出た瞬間、ダニーが手を振っていた。


最近すっかりいつもの光景になっている。


フィアは芝生に座り、お菓子を食べている。


ハイジは木陰で腕立て伏せをしていた。


「休憩しろよ!」


「これが休憩だ!」


意味がわからない。


ジェイドは読書中だった。


ノエリアは自然とその輪へ向かう。


入学した頃なら考えられなかった。


自分から誰かのところへ行くなんて。


「何の話してたの?」


そう聞くと。


ダニーが嬉しそうに言った。


「将来の話!」


ノエリアは少し驚く。


「将来?」



「俺はAクラス行く」


ダニーが即答する。


全員が予想していた。


「その先は?」


ノエリアが聞く。


「最強」


即答だった。


ハイジが吹き出す。


「雑!」


「わかりやすいだろ!」


ダニーらしい。


でもその目は真剣だった。


「ジェイドに追いつきたいし」


ぽつりと本音が漏れる。


ジェイドが顔を上げる。


「無理だな」


「お前な!」


いつもの流れだった。


でも。


ダニーは本気で憧れている。


幼い頃からずっと。


その関係をノエリアも少しずつ理解してきていた。



「ハイジは?」


フィアが聞く。


ハイジは少し考える。


そして笑った。


「強くなる」


「またそれ」


ノエリアが笑う。


ハイジは腕を組む。


「でも理由はある」


珍しかった。


ハイジが真面目な顔をするのは。


「昔さ」


少しだけ遠くを見る。


「妹がいたんだ」


全員が黙る。


ハイジが家族の話をするのは初めてだった。


「病弱だった」


短い言葉。


「俺は何もできなかった」


だから。


強くなりたい。


守れるようになりたい。


単純だけど。


ずっと変わらない理由。


ノエリアは少しだけ胸が痛くなる。


みんなそれぞれ抱えている。



「フィアちゃんはぁ」


ダニーが聞く。


フィアは少し考える。


「うーん」


本当に考えている。


全員待つ。


一分後。


「みんなが笑ってるといいなぁ」


全員が納得した。


あまりにもフィアらしい。


「だから強くなりたい」


その言葉は意外だった。


フィアは向上心が薄い。


それが彼女の弱点でもある。


でも。


「泣いてる人見るの嫌だもん」


その優しさは本物だった。


ノエリアは少し笑う。


カリンと出会ったことで。


フィア自身も少し変わり始めていた。



「ジェイドは?」


今度はノエリアが聞く。


ジェイドは本を閉じた。


少し考える。


そして。


「守るため」


短い。


でも。


なぜかそれ以上聞けなかった。


ジェイドは多くを語らない。


でも最近わかってきた。


この人は行動で示す人だ。


言葉より先に助ける。


言葉より先に支える。


そういう人。


ダニーがニヤニヤしている。


「誰を?」


ジェイドが無言で本を投げた。


ダニーの頭へ命中。



「ノエリアは?」


突然聞かれる。


全員の視線が集まる。


ノエリアは固まった。


自分の夢。


将来。


目標。


考えたことはある。


でも。


「私なんて」


言いかけて。


止まる。


最近少しだけ変わった。


前ならそこで終わっていた。


今は違う。


考える。


みんなの顔を見る。


ベルも見ている。


「……まだわからない」


正直に答えた。


「でも」


続ける。


「みんなと一緒に進みたい」


静かな言葉。


ハイジが笑う。


「らしいな」


フィアも嬉しそうだった。


ダニーは大きく頷く。


ジェイドは小さく微笑んだ。


ベルは泣いていた。


『成長したぁ』


「泣くところ!?」



その日の放課後。


Dクラスへ一枚の通知が届く。


グレタが教室へ入ってくる。


「査定結果が出た」


空気が変わる。


全員が姿勢を正す。


月例査定。


学園で最も重要な評価制度。


クラス昇格に直結する。


グレタは紙を開いた。


「まずルーク」


緊張が走る。


「昇格候補」


ルークが固まる。


「え?」


「努力が評価された」


ルークの目が潤む。



「マルク」


「現状維持」


頷く。


予想通りだった。



「フィア」


少し間。


「昇格候補」


フィアが目を丸くする。


「ほんとぉ?」


グレタが頷く。


「判断力評価が高い」


フィアは照れくさそうだった。



「ハイジ」


「昇格候補」


当然だった。


本人も笑う。



そして。


教室が静かになる。


「ノエリア」


心臓が跳ねる。


グレタは紙を見る。


少しだけ目を細めた。


「査定委員会で議論になった」


教室がざわつく。


「前例がない」


ノエリアの喉が鳴る。


「適正値ゼロ」


「はい」


「だが実績がある」


沈黙。


そして。


「昇格候補」


ノエリアの思考が止まった。



「え?」


声が漏れる。


「え?」


もう一度。


「えええええ!?」


教室中が笑った。


ハイジが立ち上がる。


「やったじゃん!」


フィアも拍手する。


ダニーまで喜んでいる。


ジェイドは当然という顔だった。


ノエリアだけが現実についていけない。


昇格。


自分が。


本当に。


グレタは少しだけ笑った。


「ただし」


全員が静かになる。


「最終試験がある」


そう。


昇格候補は確定ではない。


最後に試験がある。


そして。


グレタは続ける。


「今回は特別だ」


嫌な予感。


ノエリアが震える。


「昇格試験は合同形式」


「合同?」


「Aクラス立会い」


教室が凍る。


そして。


次の一言で完全に固まった。


「試験官は生徒会長エイミー」


ノエリアの顔から血の気が引いた。


遠く離れた生徒会室では。


エイミーもまた。


静かに試験資料へ目を通していた。


その視線の先には。


ノエリア・ルミナス。


という名前が記されていた。

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