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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第十九話 妖精の森と、はじめてのチーム

合同実地演習の日は、雲ひとつない快晴だった。


朝早くから学園中が慌ただしい。


一年生たちは演習用の軽装制服に着替え、各自装備の確認を行っている。中央広場には色とりどりの制服が集まり、まるで遠足前のような賑やかさだった。


もちろん、ただの遠足ではない。


妖精の森は学園管理区域とはいえ、本物の野外フィールドだ。


訓練用魔物。


幻惑植物。


迷いの霧。


実際の任務を想定した仕掛けが数多く存在している。


ノエリアは朝から緊張していた。


「お、お腹痛い……」


『いつものだね』


ベルが即答する。


「ひどい」


ハイジは肩を回している。


「楽しみだな!」


ダニーも元気だ。


「野外戦だぞ!」


フィアだけはいつも通りだった。


「お弁当持ったぁ?」


「そこなの?」


「大事だよぉ」


確かに大事だった。



中央広場。


全クラスが集まっている。


Dクラス。


Cクラス。


Bクラス。


そしてAクラス。


人数は多くないが、学園の上位層が一ヶ所に集まる光景は圧巻だった。


赤制服のAクラスは特に目立つ。


エイミー。


アンナ。


ウィリアム。


三人が並ぶだけで周囲の空気が少し変わる。


ノエリアは思わず見上げる。


(やっぱりすごいな……)


するとアンナが気づいた。


軽く手を振る。


ノエリアは慌てて振り返した。


「仲良くなったんか?」


ハイジが聞く。


「いや、そんな」


「会長に目をつけられてるしな」


やめてほしい。


胃が痛くなる。


そのときグレタが前へ出た。


「これより合同実地演習を開始する」


ざわついていた生徒たちが静かになる。


「今回の演習では混成チームを組む」


全員が注目する。


「今から発表する」



チーム発表。


ノエリアは緊張で手汗がすごかった。


そして。


自分の名前が呼ばれる。


「チーム七」


グレタが続ける。


「ノエリア」


「は、はい!」


「フィア」


「はーい」


「ジェイド」


周囲が少しざわつく。


「ダニー」


「よっしゃ!」


「以上」


ハイジが固まった。


「え?」


ダニーが振り向く。


「別れたな」


「なんでだよ!?」


ハイジは本気で不満そうだった。


ノエリアは少し驚いていた。


ジェイド。


ダニー。


フィア。


最近一緒にいることは多い。


でも正式なチームになるのは初めてだ。


ジェイドはいつも通り冷静だった。


ダニーは嬉しそう。


フィアはのんびり。


なんだか少し安心する。



妖精の森。


学園から馬車で一時間ほど。


巨大な結界に守られた自然保護区域だ。


森へ足を踏み入れた瞬間。


ノエリアは息を呑んだ。


綺麗だった。


木々の葉が淡く発光している。


空中には小さな妖精たち。


花は七色。


小川には光る魚。


絵本の中の世界そのものだった。


「すごい……」


『ひさしぶり』


ベルがぽつりと呟く。


「来たことあるの?」


『……うん』


少しだけ懐かしそうだった。



演習開始。


チームごとに与えられた課題をこなしていく。


今回の目標は三つ。


一つ目。


指定地点の探索。


二つ目。


遭難者役の救助。


三つ目。


魔物討伐。


総合評価方式だ。


ジェイドが先頭を歩く。


「まず地図を確認する」


さすがBクラス。


冷静だった。


ダニーは周囲を警戒している。


フィアは花を見ていた。


「かわいい」


「集中して」


ノエリアがつっこむ。


フィアは笑った。



しばらく進んだ頃。


事件は起きた。


茂みの奥から悲鳴。


全員が立ち止まる。


「聞こえたな」


ジェイドが言う。


ダニーが頷く。


「遭難者役か?」


もう一度。


助けを求める声。


ノエリアは胸がざわついた。


嫌な感じがする。


でも。


「行こう」


自然に口から出ていた。


ジェイドが少し驚く。


以前なら様子を見ると言っていたはずだ。


今は違う。


「急ごう」


ノエリアが先に走り出した。



声のした場所。


そこには小さな少女がいた。


泣いている。


年齢は七歳くらい。


白いワンピース。


膝を擦りむいていた。


ノエリアはすぐに駆け寄る。


「大丈夫!?」


少女は涙目で頷く。


「うぅ……」


フィアが優しく治療魔法をかける。


傷が消える。


「はい、だいじょうぶぅ」


少女はほっとした顔になる。


だが。


その瞬間だった。


ジェイドが剣へ手をかけた。


「下がれ」


低い声。


空気が変わる。


ノエリアが振り向く。


「え?」


ジェイドの目は少女を見ていた。


「それは演習用じゃない」


少女の表情が消える。


次の瞬間。


にやり。


笑った。


ノエリアの背筋が凍る。


黒い霧。


少女の姿が崩れる。


そして現れたのは。


紫色の瞳。


見覚えのある笑顔。


カリンだった。


「正解〜」


ダニーが即座に前へ出る。


「お前!」


カリンは楽しそうに拍手する。


「えらいねジェイドくん」


ノエリアは言葉を失う。


なぜここにいる。


どうやって結界の中へ。


カリンはまるで遠足に来たみたいな気軽さだった。


「今日は遊びに来たの」


誰も信じない。


ジェイドが剣を構える。


「目的は」


カリンはノエリアを見る。


真っ直ぐ。


まるで友達を見るみたいに。


「ノエリアちゃんに会いに来た」


ベルが警戒する。


『近づいちゃだめ』


カリンは笑う。


「そんな怖い顔しないでよ」


でも。


その笑顔の奥に。


前回より少しだけ暗いものが見えた。


そしてノエリアは気づかなかった。


少し離れた森の奥。


誰かがこちらを見ていることに。


長い黒髪。


冷たい瞳。


カリンとは別の存在。


その人物は静かに呟いた。


「……見つけた」


風が吹く。


森の妖精たちが一斉に逃げ出した。

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