表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/28

第十八話 ベルが隠していること

夕焼けに染まる中央広場では、まだ噴水ショーが続いていた。


七色の水柱が夜空へ伸び、小さな光妖精たちがその周りを踊る。子どもたちの歓声、拍手、音楽。どれも平和そのものだった。


けれどノエリアだけは、その景色を楽しめなくなっていた。


ベルの様子がおかしい。


肩の上でいつも騒がしい妖精が、今は黙ったまま北の空を見つめている。


「ベル?」


呼んでも返事がない。


フィアも気づいたらしく、少し首を傾げた。


「どうしたのぉ?」


ベルは慌てて笑顔を作った。


『な、なんでもない!』


分かりやすかった。


ハイジが腕を組む。


「絶対なんかあるだろ」


『ないない!』


「あるな」


ダニーまで頷く。


ベルは目を泳がせた。


ノエリアは胸の奥がざわつく。


ベルは基本的に隠し事ができない。


嘘も下手。


だからこそ今の様子は珍しかった。



その日の夜。


女子寮の自室。


ノエリアはベッドへ腰掛け、窓の外を眺めていた。


学園の夜景は綺麗だった。


塔の灯り。


巡回妖精の光。


遠くの訓練場。


ここへ来たばかりの頃は、自分とは関係ない世界に思えた。


でも今は違う。


少しだけ居場所ができた気がする。


「ベル」


小さく呼ぶ。


ベルは机の上でごろごろ転がっていた。


『なぁに?』


「今日のこと」


ベルが止まる。


『……』


「何を見たの?」


静かな沈黙。


ベルはしばらく黙っていた。


やがて、ぽつりと言う。


『……嫌な気配』


「敵?」


『わかんない』


珍しい答えだった。


ベルは普段なら即答する。


でも今回は違う。


『敵に似てるけど、ちょっと違う』


ノエリアは眉をひそめる。


『昔の気配なんだ』


「昔?」


ベルは少し困ったような顔をした。


『まだ言えない』


その返事に、ノエリアは無理に聞かなかった。


ベルが話せない理由があるのなら、それもきっと大事なことなのだろう。


「わかった」


ベルは少し安心したように笑った。


『ありがとう』


その表情を見て、ノエリアは思う。


(私も変わったな)


前なら不安で問い詰めていたかもしれない。


でも今は待てる。


信じたいと思えた。



翌朝。


Dクラス教室。


珍しく全員が揃っていた。


ルークは相変わらず緊張している。


マルクは無言。


ハイジは机に突っ伏し、


「眠い」


と言っている。


フィアは朝からお菓子を食べている。


「それ朝ご飯じゃないだろ」


ハイジが呆れる。


「大丈夫だよぉ」


「何がだ」


そこへグレタが入ってきた。


いつもより少し真面目な顔だった。


教室が静かになる。


「来週、合同実地演習を行う」


ざわつく。


リミィジュ候補生にとって実地演習は大きなイベントだ。


実戦形式の訓練。


成績次第では査定にも大きく影響する。


ハイジが即座に顔を上げた。


「戦闘か!?」


「半分正解だ」


グレタが黒板へ地図を描く。


「演習場所は妖精の森」


ノエリアは少し聞いたことがあった。


学園の管理区域内にある広大な森。


妖精たちが暮らしており、訓練用の魔物も配置されている。


一年生が初めて外部フィールドを経験する場所だ。


「各クラス混合チームで行動する」


さらにざわつく。


Dクラスだけでなく、BやCとも組むらしい。


「評価対象は戦闘だけではない」


グレタが続ける。


「判断力、協調性、救助能力、生存能力」


ノエリアは少し緊張した。


戦うより、そっちの方が難しそうだ。



昼休み。


その話題で学園中が盛り上がっていた。


中庭のベンチで昼食を食べながら、ダニーが身を乗り出す。


「チーム発表楽しみだな!」


ハイジが頷く。


「ジェイドと組みたい」


「お前は毎回突っ込むから嫌だ」


ジェイドの返事は辛辣だった。


フィアが笑う。


「仲良しだねぇ」


「違う!」


二人同時だった。


ノエリアは思わず吹き出す。


最近こういうやり取りが増えてきた。


みんなでいる時間が自然になっている。


そのとき。


ふと視線を感じる。


見上げると。


校舎二階の回廊。


赤制服。


エイミーだった。


相変わらず綺麗な姿勢で立っている。


隣にはアンナ。


少し離れてウィリアム。


生徒会の三人だ。


アンナが何か言う。


エイミーが小さく頷く。


そして――


エイミーの視線がノエリアへ向いた。


一瞬だけ。


でも確かに。



放課後。


生徒会室。


エイミーは窓の外を見ていた。


遠くでは生徒たちが帰宅している。


アンナが紅茶を置く。


「気になるん?」


エイミーは少しだけ黙った。


「……あの子」


ノエリア。


適正値ゼロ。


妖精ベル。


急激な成長。


全てが異例。


でも、それだけではない。


「何かを感じる」


アンナは微笑む。


「会長の勘は当たるからなぁ」


エイミーは窓へ映る自分を見る。


そして思い出す。


幼い頃。


姉が言っていた言葉。


――本当に強い人は、人を信じられる人だよ。


胸が少しだけ痛む。


エスター。


もう会えなくなってしまった姉。


「……お姉ちゃん」


小さな呟きは誰にも届かない。


窓の外では夕焼けが沈んでいく。


そしてその頃。


学園から遠く離れた場所。


黒い薔薇が咲き乱れる庭園で。


カリンが楽しそうに笑っていた。


「もうすぐだね」


その隣に立つ影は何も答えない。


ただ遠くの学園を見つめていた。


そしてカリンはくすくす笑う。


「ノエリアちゃん」


甘い声。


優しい声。


でもどこか壊れている。


「もっと揺れてね」


風が吹く。


黒い花びらが夜空へ舞い上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ