第十七話 はじめての休日
翌朝。
ノエリアは珍しく目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
窓から差し込む朝日が柔らかい。
いつもなら授業のことや訓練のことを考えて少し憂鬱になる時間だったが、今日は違った。
今日は月に一度の自由活動日。
授業も訓練もなく、生徒たちは学園内で好きに過ごせる。
グランドフォール学園は育成機関であると同時に、少年少女が生活する学校でもある。戦うだけでは心が擦り切れるため、定期的に休息日が設けられていた。
「……平和だ」
ベッドの上で呟く。
すると枕元で寝ていたベルが飛び起きた。
『遊びに行こう!』
「起きるの早いね!?」
『今日は絶対遊ぶ日!』
ベルは朝から全力だった。
数十分後。
寮の前へ行くと、すでにハイジが待っていた。
「遅い!」
「十分早いよ!?」
フィアはベンチに座ってパンを食べている。
「おはよぉ」
相変わらずである。
そこへダニーが走ってきた。
「集合ー!」
「だから朝からうるさい」
後ろからジェイド。
結局いつものメンバーが揃っていた。
「今日は何するんだ?」
ハイジが腕を組む。
「戦闘訓練!」
「休みの日だぞ」
ダニーが即座に却下した。
フィアが手を挙げる。
「スイーツ通り行きたいなぁ」
「賛成!」
ノエリアが珍しく即答した。
学園中央区には商店街のようなエリアがある。
生徒向けの雑貨屋、洋服店、カフェ、妖精用品店などが並び、休日はかなり賑わう場所だ。
ハイジは少し不満そうだったが、
「まあ……たまにはいいか」
と頷いた。
こうして六人は学園中央区へ向かうことになった。
◇
スイーツ通りは今日も華やかだった。
リボンで飾られた街灯。
キャンディ型の看板。
空には小さな妖精たちが風船を運んでいる。
まるでおとぎ話の街だ。
ノエリアは目を輝かせた。
「かわいい……!」
『かわいい!』
ベルも同時に叫ぶ。
フィアが笑う。
「似てるねぇ」
ノエリアは少しだけ照れた。
しばらく歩くと、限定パフェの看板を見つける。
「星空ベリーパフェ」
高さ三十センチ。
銀色のゼリーと苺クリーム。
上には小さな星型チョコ。
「食べたい」
ノエリアが即答する。
「食うか」
ダニーも乗り気だった。
結果。
全員でカフェへ入ることになった。
店内は花とレースで飾られている。
席へ着くと、ハイジがメニューを見て固まった。
「高ぇ」
「休みの日くらい」
フィアが笑う。
やがてパフェが運ばれてきた。
「おぉ……」
全員少し感動する。
ノエリアは一口食べた。
「おいしい……!」
自然と笑顔になる。
そんな様子をジェイドが静かに見ていた。
ダニーが肘で突く。
「お前もなんか言えよ」
「何を」
「かわいいとか」
ジェイドは無言でダニーの頭を叩いた。
ノエリアは聞こえていない。
フィアだけが気づいていた。
(あー)
にこにこしている。
◇
食事を終えたあと。
今度は雑貨屋へ向かう。
女子組と男子組で自然と別れた。
ハイジは武器用品店へ。
フィアとノエリアはアクセサリー屋へ。
店内には星、月、花をモチーフにした可愛らしい小物が並んでいた。
「見て見てぇ」
フィアが三つ編み用のリボンを見せる。
「似合う!」
「ほんとぉ?」
そんなやり取りをしながら歩いていると、
ノエリアの視線がある商品で止まった。
小さな星型の髪飾り。
淡いピンク色。
どこか懐かしい。
ベルも同時に止まる。
『あ』
「どうしたの?」
ベルは少し驚いた顔をしていた。
『それ……』
言いかけて止まる。
「知ってるの?」
『……ううん』
でも表情は明らかに違った。
ノエリアは少し不思議に思いながら、その髪飾りを手に取る。
なぜか温かかった。
◇
夕方。
みんなで中央広場へ戻る。
そこでは噴水ショーが始まろうとしていた。
光の妖精たちが集まり、水が七色に輝く。
子供たちの歓声。
カップルたち。
家族連れ。
平和な光景。
ノエリアはぼんやり眺めた。
「いいなぁ」
ぽつりと漏れる。
ハイジが首を傾げる。
「何がだ?」
「こういうの」
噴水を指差す。
「守られてる感じ」
みんな少し黙った。
ダニーが笑う。
「そのためにいるんだろ」
当たり前みたいに言う。
ジェイドも頷いた。
「そうだな」
フィアは微笑む。
「素敵だねぇ」
ノエリアは少しだけ胸が熱くなる。
自分はまだ弱い。
でも。
守りたいと思う気持ちは確かにあった。
そのときだった。
ベルが急に空を見上げた。
表情が変わる。
『……え?』
ノエリアも釣られて見上げる。
遠く。
学園の外。
北の森のさらに向こう。
一瞬だけ。
黒い光が空へ昇った。
ほんの一瞬。
誰も気づかない。
ベルだけが青ざめていた。
『……そんな』
「ベル?」
返事がない。
ベルはその方向を見つめたまま、小さく震えていた。
『なんで……』
声がかすれる。
『あの気配が……』
ノエリアの胸がざわつく。
楽しかった休日の終わり。
平和な夕焼けの向こうで。
何かが確実に動き始めていた。




