表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/22

第十五話 揺れる心と、隣にいる理由

ローズガーデンでの出来事から数日後。


グランドフォール学園は再び穏やかな日常へ戻っていたが、生徒たちの間には確かな緊張が残っていた。敵が学園内部へ直接干渉してきたという事実は、これまでの「遠くの脅威」という認識を大きく変えていたからだ。


中庭ではいつものように花が咲き、妖精が舞い、可愛らしい音楽が流れている。だが、その裏側で生徒会と教師陣は警戒態勢を強めていた。


そしてノエリアは――少し変わっていた。


「……はぁ」


昼休み、芝生の端でひとり座り込む。


フィアが隣へゆっくり座る。


「ため息多いねぇ」


「……うん」


いつもの元気なやり取りが少ない。


ベルが肩の上でそっと覗き込む。


『さっきからぼーっとしてる』


ノエリアは視線を落としたまま答えた。


「カリンの言葉が、ちょっと残ってて……」


あの時の声。


“頑張らなくていい場所”。


“楽になれる場所”。


否定したはずなのに、頭のどこかに引っかかっている。


フィアは少しだけ考えてから、優しく言った。


「楽になりたいって思うのは、普通だよぉ」


ノエリアが顔を上げる。


「え……」


「がんばるの、つかれるもんねぇ」


その言葉は、とても自然だった。


「でもねぇ」


フィアは少しだけ笑う。


「私は、誰かと一緒にがんばる方が好きかなぁ」


ノエリアは黙る。


そのとき、背後から大きな声が飛んできた。


「おーい!」


ダニーだった。


その後ろからジェイドも歩いてくる。


ハイジはすでに立ち上がっていた。


「遅ぇぞ」


「呼ばれてねぇよ!」


いつものテンポ。


ノエリアは少しだけ安心する。


ダニーはそのまま芝生へ寝転がる。


「なんか最近ピリピリしてるよなー」


「敵が来たからな」


ハイジが短く答える。


ジェイドはノエリアをちらっと見る。


「大丈夫か」


短い一言だった。


でもそれだけで、少しだけ胸が軽くなる。


「……うん」


ダニーが起き上がる。


「じゃあさ、気分変えよーぜ」


「どうやって」


「特訓」


ハイジの目が光る。


「いいな」


フィアはのんびり首をかしげる。


「またぁ?」


「お前はもうちょい本気出せ」


「がんばるぅ」


こうして、放課後の自主練習が始まった。


場所は西棟の軽訓練フィールド。


ここは正式な戦闘訓練場よりも安全性が高く、個人練習や軽い模擬戦に使われる。床は柔らかい魔法素材でできており、転んでも怪我をしにくい。


まずはハイジとダニーが模擬戦を始める。


「いくぞ!」


「こいよ!」


真正面からぶつかる二人。


ハイジは力と勢い、ダニーは柔軟な動きと粘り。タイプは違うが、どちらも“前へ出る強さ”がある。


ノエリアはそれを見つめる。


(私、あんな風に戦えてるのかな)


ジェイドが隣に立つ。


「お前は違うタイプだ」


「え?」


「正面突破じゃない」


視線は戦っている二人のまま。


「でも逃げてもない」


ノエリアは少し考える。


「中途半端ってこと?」


「違う」


ジェイドは短く言った。


「“間を見てる”」


その言葉に、少しだけ胸が動く。


戦いが終わり、今度はノエリアの番だった。


相手はハイジ。


「手加減しねぇぞ」


「してほしい……」


「しねぇ」


容赦がない。


開始。


ハイジが一気に距離を詰める。


速い。


ノエリアは慌てて後退する。


「逃げんな!」


「無理!」


ベルが叫ぶ。


『右!』


反射的に動く。


ハイジの拳が空を切る。


「いい反応だな!」


だが追撃が来る。


ノエリアはぎりぎりで避け続ける。


(怖い……でも)


さっきのジェイドの言葉が頭をよぎる。


“間を見てる”


ハイジの動きを見る。


速いけど、単調ではない。ちゃんと狙っている。でも、その中にわずかな“間”がある。


そこを――


踏み込む。


「っ!」


大剣を振る。


ハイジが目を見開く。


ギリギリで受ける。


「……やるじゃん」


距離が離れる。


ノエリアは息を整える。


「今の、当たると思った……」


ハイジが笑う。


「惜しかったな」


その顔は、ちゃんと楽しそうだった。


模擬戦が終わる。


ノエリアはその場に座り込む。


「疲れた……」


フィアが隣に座る。


「がんばったねぇ」


ダニーが笑う。


「いいじゃん、普通に戦えてる」


ジェイドは静かに頷く。


「成長してる」


ハイジは腕を組む。


「最初の頃より全然マシだな」


ノエリアは少し照れる。


「ありがとう……」


そのときだった。


ベルがふわっと前へ出る。


『ねぇ、ノエリア』


「なに?」


『さっきより、ちょっと光ってる』


「え?」


自分の手を見る。


うっすらと、淡い光が宿っていた。


昨日より、確かに強い。


小さいけど、確かな変化。


ノエリアはその光を見つめる。


カリンの言葉もまだ残っている。


不安も、迷いも消えてはいない。


でも――


「……みんなといる方がいい」


ぽつりと呟く。


ハイジが眉を上げる。


「急にどうした」


「なんでもない」


フィアがにこっと笑う。


「いいねぇ」


ダニーが伸びをする。


「じゃあ明日もやるか!」


「毎日!?」


ジェイドは静かに言う。


「継続が一番強い」


ノエリアは笑った。


まだ弱い。


まだ不安定。


でも、ひとりじゃない。


その実感が、少しずつ“自信”に変わり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ