表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/21

第十四話 ローズガーデンの招待客

翌日のグランドフォール学園は、春祭りのような華やかさに包まれていた。


中央通りには色とりどりのフラッグが揺れ、花壇には香り付きの光花が咲き誇る。放課後に行われる園芸クラブ主催のローズティーパーティーに合わせ、校内のあちこちへ薔薇の装飾が施されていたのだ。


白いアーチにはリボン。噴水には花びらの演出。購買部では限定ローズクッキーまで売られている。


そんな可愛らしい空気の中、ノエリアだけが顔色を失っていた。


「行きたくない……」


教室の机へ突っ伏し、弱々しく呟く。


ハイジが腕を組む。


「でも行かなきゃ相手の正体わかんねぇだろ」


フィアはローズクッキーをもぐもぐしている。


「おいしいよぉ」


「今そこ!?」


ベルは机の中から顔を出した。


『ぼくも行く!』


「あなたは行くでしょ!」


昨日、生徒会室へ届いた不気味な招待状。送り主不明。だがエイミーたちは、ただのいたずらではないと判断した。


結論として――ノエリアは予定通り向かう。だが護衛付き。


生徒会、グレタ、そしてDクラス仲間たちがそれぞれ配置につく作戦になったのだ。


昼休み、ノエリアは再び生徒会室へ呼ばれた。


白と金の可憐な室内には、すでに作戦図が広げられている。ローズガーデンは学園南西部、一般生徒にも開放された散策庭園だ。薔薇迷路、東屋、温室、小川橋などがあり、見た目は可愛いが隠れる場所も多い。


ウィリアムが地図を指し示す。


「ノエリアさんは中央東屋へ向かってください」


アンナが続ける。


「うちらは周辺で見張っとる。危なくなったらすぐ出る」


エイミーは真っ直ぐノエリアを見る。


「あなたは無理に戦わなくていい。相手の目的を確認することが優先よ」


「……はい」


ノエリアは緊張で背筋を伸ばした。


その様子を見て、アンナがふっと笑う。


「そんな固ならんでええよ。お茶会行くくらいの気持ちで」


「敵かもしれないのに!?」


「せやからこそ余裕や」


この人は掴みどころがない、とノエリアは毎回思う。


放課後。


ローズガーデンへ続く石道には、花びらが敷き詰められていた。夕陽に照らされた薔薇たちは宝石のように輝き、香りまで甘い。小鳥妖精が枝の間を飛び回り、どこか絵本の世界のような場所だった。


だがノエリアの足取りは重い。


「帰っていいかな……」


『だめ』


ベルが即答する。


東屋へ着くと、白い丸テーブルの上にティーセットが用意されていた。ポットからは湯気まで立っている。


「怖いんだけど」


『礼儀正しい敵かも』


「そこ安心材料にならない!」


周囲は静かだった。


けれど、気配はある。


ノエリアには分からないが、遠巻きに生徒会メンバーとグレタ、さらにハイジたちも潜んでいる。完全包囲だ。


そのとき、薔薇のアーチの向こうから、くすくすと笑う声がした。


「ちゃんと来てくれたんだぁ」


現れたのは、一人の少女だった。


ふわりと波打つ紫髪。フリルの多い黒紫ドレス風制服。瞳は甘くとろけるような紫色。年齢はノエリアたちと同じくらいに見える。


手には薔薇柄の日傘まで持っていた。


敵というより、貴族のお嬢様のようだった。


ノエリアは一歩下がる。


「だ、誰ですか」


少女は優雅に一礼する。


「失礼しました。私はカリン」


その名に、ベルがぴくっと震える。


『……敵側』


ノエリアの喉が鳴る。


カリンはにっこり笑った。


「そんな警戒しないで。今日はおしゃべりしに来ただけ」


「信用できません」


「素直でかわいい」


カリンは勝手に椅子へ座り、紅茶を注ぎ始めた。


手慣れている。


「あなたもどうぞ?」


「飲みません!」


「残念」


口調は柔らかい。だが空気が妙に冷たい。


ノエリアは剣こそ出していないが、いつでも変身できるよう意識を集中させる。


カリンは紅茶を一口飲み、楽しそうにノエリアを見る。


「ゼロなのに勝ったんだって?」


「……」


「みんな期待してるねぇ」


その一言で、胸がざわつく。


昨日から向けられる視線。噂。生徒会の注目。


嬉しくないわけではない。けれど怖い。


カリンはその反応を見逃さない。


「しんどいでしょ」


ノエリアは黙る。


「急に見られて、急に期待されて、急に“特別”扱い」


甘い声だった。


「でも失敗したら、みんなすぐ離れるよ」


心臓が嫌な音を立てる。


言われたくない言葉だった。


自分の中に、もともとある不安そのものだった。


カリンは微笑む。


「だからこっちにおいでよ」


「……は?」


「頑張らなくていい場所、あるよ」


ノエリアの眉が寄る。


「何を言って……」


「才能ある子も、ない子も、疲れた子も。みーんな楽になれる場所」


その声色だけは、本気に聞こえた。


敵の勧誘。


けれど単純な悪意ではない。救済を語る危うさだった。


ベルがノエリアの肩で小さく怒る。


『だめ。あの子、諦めを優しく包むタイプ』


「説明うまいね!?」


カリンが笑う。


「妖精ちゃん、相変わらず失礼」


その瞬間、茂みからハイジが飛び出した。


「もう十分だろ!」


「ハイジ!?」


続いてフィア、グレタ、さらに左右からエイミーたちも姿を現す。完全包囲だった。


カリンはぱちぱち拍手する。


「わぁ、豪華」


アンナが肩をすくめる。


「お茶会にしては人数多すぎやな」


ウィリアムは術式陣を展開した。


「抵抗しないでください」


エイミーは剣へ手をかける。


「ここで拘束する」


カリンは少しだけ首を傾げる。


「やだ」


次の瞬間、地面の薔薇の影が一斉に伸びた。


黒い影の蔦となって周囲へ絡みつく。


「っ!」


ウィリアムの術式が乱され、ハイジが腕で振り払う。フィアは結界でノエリアを守る。


カリン本人は、椅子に座ったままくすくす笑っていた。


「ノエリアちゃん」


影の中から真っ直ぐ見つめてくる。


「あなた、まだ自分のこと信じきれてないよね?」


図星だった。


言い返せない。


「また来るね」


その言葉と同時に、カリンの体が薔薇の花びらへ崩れるように消えた。


静寂。


残ったのは甘い香りだけだった。


ハイジが舌打ちする。


「逃がした……!」


ウィリアムが周囲を確認する。


「分身術式です。本体ではありません」


エイミーは剣を納め、ノエリアを見る。


「大丈夫?」


「……はい」


声は少し震えていた。


フィアがそっと隣へ来る。


「こわかったねぇ」


その一言で、張っていたものが少し緩む。


ノエリアは小さく頷いた。


カリンは敵だ。


でも、ただ壊したい人には見えなかった。


“頑張らなくていい場所”。


その言葉が、胸の奥に嫌なくらい残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ