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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第十三話 お茶会とあやしい招待状

査定フィールドでの勝利から一夜明け、グランドフォール学園の朝はいつも以上に騒がしかった。


中庭の花時計は朝露を受けてきらめき、噴水では白鳥型の清掃妖精たちが水面を整えている。購買部の前には限定いちごミルクパイを求める列ができ、芝生広場では早朝から自主練習する生徒たちがリボン武装を翻していた。


その賑わいの中心で、ノエリアは柱の陰に隠れていた。


「なんで私を見てるの……」


小声で震える。


昨日の模擬戦でCクラスのミレナに勝ったことで、適正値ゼロの少女は一気に話題の人になってしまったのだ。


「見て、あの子」


「昨日勝った子でしょ?」


「変身もかわいかったって」


「ゼロって本当なのかな」


視線、ひそひそ声、興味津々の空気。


ノエリアは今にも消え入りそうだった。


ハイジが呆れた顔で腕を組む。


「胸張れよ。勝ったんだぞ」


「むり……」


フィアは焼きたてスコーンを両手に持ちながら微笑む。


「有名人って大変だねぇ」


「他人事だね!?」


ベルはノエリアの髪飾りに擬態しながら、楽しそうに揺れている。


『人気者〜!』


「原因の一端あなたでしょ!」


そのとき、食堂側の扉が静かに開いた。


赤制服。


周囲の空気が自然と引き締まる。


Aクラスの三人――エイミー、アンナ、ウィリアムだった。


エイミーは金髪を揺らしながら真っ直ぐ歩く。気品と実力を兼ね備えた学園トップ層の象徴。アンナは柔らかな笑みを浮かべ、ウィリアムは冷静に周囲を見ている。


そして三人は、まっすぐノエリアの前で止まった。


「……え?」


ノエリアの声が裏返る。


ハイジは面白そうににやつき、フィアはもぐもぐしながら見守っている。


エイミーが口を開いた。


「放課後、時間はある?」


「えっ」


「生徒会室へ来てほしい」


周囲がざわめく。


生徒会室。学園上位五名で構成される生徒会メンバーが使う特別区画。新入生が気軽に入れる場所ではない。


ノエリアは完全に固まった。


「な、なにかしました……?」


アンナが吹き出す。


「怒られる前提なんや」


ウィリアムは眼鏡を押し上げた。


「査定内容の確認と、今後の観察です」


「観察!?」


ベルがひそひそ囁く。


『モテ期かも』


「違うと思う!」


エイミーはわずかに口元を緩めた。


「来られる?」


断る選択肢が見当たらない。


「は、はい……」


「待ってる」


それだけ言うと三人は去っていった。


残されたノエリアの周囲で、噂がさらに膨らむ。


「生徒会に呼ばれた!」


「すご……」


「スカウト?」


ハイジが肩を叩く。


「出世したな」


「胃が痛い……」


その日の授業はほとんど頭に入らなかった。


座学ではリミィジュ史の授業が行われた。伝説級の戦士たちがどのように世界を守ってきたか、過去の闇災害、妖精との契約理論などが語られる。


グレタが黒板へ大きく書く。


“心が力を決める”


「高い適正値を持っていても、迷いが深ければ力は鈍る。逆に低く見えても、信念があれば跳ね上がる」


その言葉に、ノエリアは思わず顔を上げた。


自分のことを言われているようだった。


放課後。


学園中央塔の上層、生徒会室前。


扉には金細工のリボン紋章、左右には花妖精のランプ。廊下の窓からは学園全景が見渡せる。中庭、訓練場、寮塔、そして遠くの北門修復区画まで一望だった。


「帰りたい……」


『今さら!』


ベルに背中を押され、ノエリアは扉を叩く。


「どうぞ」


エイミーの声だった。


中へ入ると、想像以上に可愛い空間が広がっていた。


白と金を基調にした部屋。大きな丸テーブル。ふわふわのソファ。壁には歴代生徒会長の肖像画。窓辺には花とティーセット。実務室というより、お姫様のサロンのようだ。


ノエリアは目を丸くする。


「すご……」


アンナが手招きした。


「座りぃ。お茶あるで」


ウィリアムがすでに資料を並べている。


「紅茶は三種類あります」


「なんでそんなに本格的なんですか」


「生徒会ですので」


理由になっているようでなっていない。


ノエリアが恐る恐る座ると、エイミーが向かいへ腰掛けた。


「緊張しなくていい」


「してます」


即答だった。


アンナが紅茶を注ぎながら笑う。


「正直でええやん」


しばらく穏やかな空気が流れる。ノエリアは少しずつ肩の力を抜いた。


やがてエイミーが本題へ入る。


「あなたの適正値について聞きたい」


やはりそこだった。


「私もよく分かってなくて……」


「妖精が現れたそうね」


ノエリアはどきりとする。


ベルは髪飾りに擬態したまま固まっていた。


「ど、どうしてそれを」


「学園内の異常事象は報告される」


エイミーの声は責めるものではない。


「隠すつもりはない。ただ、あなた自身も整理できていないのでしょう」


図星だった。


ノエリアは小さく頷く。


「……はい」


ウィリアムが資料をめくる。


「測定値ゼロ、実戦反応あり、変身成功、Cクラス撃破。数値との乖離が大きい」


アンナが柔らかく続ける。


「つまり、珍しいってことや」


ベルが小声で胸を張る。


『でしょ』


ノエリアは髪を押さえて黙らせた。


エイミーはノエリアをまっすぐ見る。


「あなたを敵視しているわけではない」


「……はい」


「でも、注目はしている」


その瞳には迷いがなかった。


学園上位者として、異例の存在を見逃さない。責任感の強さが伝わる。


「もし力が不安定なら、あなた自身が傷つく。周囲も巻き込む」


「……」


「だから見極めたい」


ノエリアは少し考え、素直に答えた。


「私も、知りたいです」


エイミーの表情がほんの少し柔らかくなる。


「なら協力しましょう」


そのときだった。


窓の外で、ひらりと何かが舞った。


白い封筒。


花びらに紛れて飛んできたそれが、開いた窓から部屋へ滑り込む。


ウィリアムが即座に立ち上がる。


「待ってください」


封筒はテーブル中央へ落ちた。


誰も触れていないのに、ゆっくり開く。


中から香水のように甘い香りが広がった。


そして、薄紫の文字が浮かび上がる。


“見つけたよ、ゼロちゃん♡

明日の放課後、ローズガーデンで待ってるね”


部屋の空気が変わる。


エイミーの目が鋭くなる。


アンナの笑みが消えた。


ウィリアムは即座に術式で封筒を拘束する。


ノエリアは青ざめた。


「だ、誰……?」


ベルが小さく震える。


『この気配……よくない』


エイミーは立ち上がり、窓の外を見た。


夕暮れの学園庭園、薔薇のアーチの向こうに、誰かの影が一瞬だけ笑った気がした。

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