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『適正値ゼロのリミィジュ』(完全版)  作者: 柑橘みかん


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第十一話 きらめき査定週間

東棟での救助騒ぎから三日後、グランドフォール学園はいつもの華やかさを取り戻していた。


修復された回廊にはレース模様の光壁が張り直され、中庭の噴水には季節限定の花びらエフェクトが追加されている。購買部では新作の星型マカロンが売られ、放課後の芝生広場では上級生たちが優雅にステップ訓練をしていた。


危機のあとでも、可愛く美しく整える。それもこの学園らしさだった。


そして今日は、生徒たち全員が少しだけそわそわしている。


理由は一つ。


月例査定週間の開始日だからだ。


グランドフォール学園では、入学時の適正値だけで全てが決まるわけではない。月に一度、戦闘技術、判断力、学力、協調性、心の安定性などを総合評価し、クラス昇格やバッジ変動が行われる。


つまり、Dクラスでも努力次第で上へ行ける。


逆に、Aクラスでも停滞すれば評価は下がる。


この制度があるからこそ、学園内は常に熱を帯びていた。


「絶対上がる!」


朝の教室でハイジが机を叩く。


「Cクラスなんてすぐだ!」


フィアはパンケーキ味のクッキーを食べながら頷く。


「ハイジちゃんは元気だねぇ」


ルークはノートを抱えて震えていた。


「ぼ、僕は現状維持で十分です……」


マルクは腕を組み、いつも通り無口だ。


「まずは落ち着け」


そしてノエリアは、自分の机で小さくなっていた。


(査定……)


三日前に初変身し、小型闇獣を倒した。だがそれで急に自信満々になれるほど単純ではない。むしろ、期待されるほど怖くなっていた。


ベルが机の中からひょこっと顔を出す。


『大丈夫だよ!』


「どこから出てきたの!?」


『秘密ポケット』


「制服にそんな機能ないよね!?」


ハイジが笑う。


「お前、最近ひとりで騒がしいな」


「ベルがいるからだよ!」


「見えないと変なやつだぞ」


その通りだった。


妖精ベルの存在はDクラスと教師陣には共有されたが、全校へ公表されたわけではない。妖精は個人差で見え方が異なり、強い適性者ほど認識しやすいとされている。一般生徒には見えないことも多い。


ノエリアがひとりで空間に話しかけているように見える場面もしばしばあった。


グレタが教室へ入ってくる。


「本日から査定週間だ。まずは基礎実技」


教室の空気が引き締まる。


「Dクラスだからといって採点が甘くなることはない。むしろ伸び率を見られる」


ハイジが拳を鳴らした。


「望むところだ」


「壁は壊すな」


「まだ何もしてねぇ!」


訓練場へ移動すると、そこはいつも以上に華やかだった。白い石畳のフィールドに、色とりどりの採点水晶が浮かび、上空には記録用の小鳥型ドローン妖精が飛んでいる。観覧席には他クラスの生徒たちも集まり、小さな学園イベントのような賑わいだ。


「査定って人気なんだね……」


ノエリアが呟くと、フィアが頷く。


「推しの成長を見る日なんだってぇ」


「推し?」


「強い人とか、かわいい人とかぁ」


ハイジが鼻を鳴らす。


「つまり私だな」


「自信すごいねぇ」


第一種目は障害走だった。


リボン状の障壁をくぐり、浮遊ステップを渡り、最後に光的へ一撃を入れる。速さだけでなく、姿勢や美しさも加点対象になる。


「美しさ!?」


ノエリアが絶望する。


「無理だよ!」


ベルは元気いっぱいだ。


『笑顔で跳べばなんとかなる!』


「ふわっとしてる!」


ハイジは豪快に走った。多少ぶつかっても勢いで突破し、最後は飛び蹴りで的を粉砕。点数は高いが減点も多い。


「なんでだよ!」


「美しさ不足だ」


グレタの評価は辛辣だった。


フィアは驚くほど安定していた。ふわふわした動きに見えるのに無駄がなく、障壁をすり抜けるように進み、最後は優しく杖を当てて的を割る。


観覧席から歓声が上がる。


「かわいい!」


「フィア先輩すてき〜!」


フィアは首をかしげた。


「なんか褒められたぁ」


ノエリアの番が来る。


足が震える。


『だいじょうぶ』


ベルが肩で囁く。


『転んでもかわいい』


「慰めになってない!」


開始の笛。


ノエリアは走り出す。最初の障壁でスカート裾を引っかけそうになり、危うく転ぶ。だが変身時の身体能力のおかげで持ち直す。


浮遊ステップでは高く跳びすぎて悲鳴を上げた。


「きゃああ!」


観覧席から笑いが起きる。


最後の的へ向かい、大剣を振る。力みすぎて空振りしかけるが、ベルの声で軌道を修正。


『右!』


どん、と命中。


的が弾け、花びらのエフェクトが舞った。


終了。


点数は平均より少し上。


ノエリアは膝へ手をつく。


「つ、疲れた……」


ハイジが笑う。


「見てる方は面白かったぞ」


「うれしくない!」


次は対人模擬戦。


ここでは勝敗だけでなく、判断・連携・精神面も見られる。


組み合わせ発表で、Dクラス全員がざわついた。


「ノエリア 対 Cクラス ミレナ」


前へ出てきたのは、薄紫の巻き髪をした女子生徒だった。制服の着こなしも整い、所作がいちいち優雅だ。


「よろしくね、ゼロさん」


笑顔だが、少し刺がある。


Cクラスは人数も多く、Dクラスを下に見る者も少なくない。


ノエリアはぎこちなく頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします」


開始と同時に、ミレナがリボン型武装を展開する。しなる光帯が鞭のように伸び、ノエリアの足元を狙った。


速い。


ノエリアは慌てて跳ぶ。スカートがひらりと舞い、着地でよろける。


観覧席がざわつく。


「危なっかしい……」


「でも反応は悪くない」


ミレナは余裕の笑みを崩さない。


「避けるだけ?」


ノエリアは剣を構える。


怖い。でも前より、逃げるだけでは終わりたくなかった。


ベルが囁く。


『タイミング見て。相手はきれいに戦うタイプ』


「きれいに戦うタイプって何!?」


『今それどころじゃない!』


自分で言って自分で焦る。


ミレナの二撃目が来る。今度は横薙ぎ。


ノエリアはしゃがんで避け、そのまま前へ踏み込む。大剣を振る。


重い一撃。


ミレナは受けるが、予想より重かったらしく一歩下がった。


表情が初めて変わる。


「……っ」


ノエリアも驚いていた。


(押せた)


まだ勝てるとは思えない。でも、自分の一撃が届いた。


その実感だけで、胸が少し熱くなる。


観覧席の奥、赤制服の三人――エイミー、アンナ、ウィリアムも静かに見ていた。


エイミーの視線は、真っ直ぐノエリアへ向いている。


査定週間初日。


適正値ゼロの少女は、少しずつ“見る側の存在”になり始めていた。

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