記憶にない過去の姿を追って
メリッサとアルニカがしばらくとりとめのない話で楽しんでいると、少しずつ見上げていた夜空に流れ星が降り注ぎ出し始めた。広大な暗闇だった夜空を小さな星たちがゆっくりと、そして大きく範囲を広げて流星群が自分たちの周囲を明るく埋め尽くしだした。
「今夜はどれだけの人がこの夜空を見上げて、どんなお願いをしているんだろうね?」
「この世界って…広いのよね。これを沢山の人たちが同時に見ているだなんて、不思議…」
メリッサの何気ない言葉に、またアルニカは何か考え込んだ様な表情のまま頷きぼんやりと夜空を見上げていた。
その時メリッサは何かを思い出したと同時に、少し肌寒い季節の空気を感じ取り、突然アルニカの手に触れ繋ぐとそのまま腕ごと引っ張り上げながら、片方の手でアルニカの頬に触れた。
「…えっ、えっ…?」
急な事に驚くアルニカに、メリッサはもう片方の手を繋いだまま真っ直ぐにアルニカの目を逸らさず見つめた。
「アルニカ。身体が冷えてしまうから中で温かいものを飲みながら、夜空を眺めましょう?特別な茶葉があるの!」
勝手に何かを想像したアルニカの高鳴る心を置き去りにし、メリッサは一人でさっさと先に家の中へ戻ってしまった。
「アルニカ、顔真っ赤だぞ? 熱ないか? 大丈夫か?」
マンドレイクがアルニカの頬に頬ずりをすると、身体をベトベトと触り始めた。
「ドレイクにじゃなくて、メリッサに診て欲しいんだけど…」
外でまだ何かをやいやい話し込んでいるアルニカとマンドレイクを横目に、メリッサは茶葉をすくいながら色々な考え事を頭の中で巡らせていた。
「マンドレちゃんが、ゼラニウム神父以外の男性に懐いているなんて、やっぱり珍しい…。連れ去られた事の記憶で、人間の成人した男性は苦手なはずなのに…」
そしてカップを取り出し沸騰する前の鍋から漏れ出る湯気を見つめながら、アルニカが星のカードに触れた瞬間メリッサの頭の中に見えた映像を同時に思い出していた。
「あれは…子供の頃のアルニカと…、一緒にいたのは子供の頃のフェンネルさんだったと思う…」
メリッサは何故か一瞬見えた頭の中の、自分が知らないはずの幼少期のアルニカとフェンネル、そしてその場所がシャトラナの書庫であった事も思い出し、続きが見えるのだろうかと突然思い付きでアルニカに触れてみたが結局分からずじまいだった自分の手の平を見つめ、再び考え込み、目の前の鍋に掛けていた火を消した瞬間目を見開きテーブルを手で強く叩いた。
「貴方への診察、私はまだ終えられていない……!」
メリッサは慌てて過去のアルニカのカルテを仕事場の中に頑丈に仕舞ってあった棚の中から取り出すと、持ち出す鞄の奥底へ咄嗟に仕舞い込んだ。
そして手にした星のタロットカードと窓越しに見える無数の流星群を交互に見つめながら不思議な感情が心に残った。
「…このタロットカードも、一体どれだけの人の願いを聞き入れてきたのかしら……」




