マロウ公爵の忘れ形見
「アルニカ様ぁ―! いるぅ────⁉」
突然その場の不思議な空気を変えた女性の声が、部屋の入口付近から聞こえ扉が何度かノックされた。
「その声は、ローズマリー? …僕はいるけど?」
ため息交じりで苦笑いのシッサスと一緒に入り込んできたのは、自信に満ち溢れた笑顔のローズマリーだった。
「フェンネルから書状をもらって来ているから大丈夫よ!これ、読んで!」
腕にフェンネルから預かったバングルを付け、それを胸の前に拳を出しポーズを決め見せつけながらそのままフェンネルからの書状をアルニカに手渡した。
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「なるほどね。……それで、君が帯同した場合のメリットと、役割と、今後の展望は何かな?」
アルニカは既に何かを悟った様な顔つきでローズマリーに意図した質問を投げかけた。
「今冬から来春にかけて教会の上の子たちが複数人、自立を計る年齢になるの。
これは数年前からゼラニウム神父とメリッサと、もちろんその子達とも合わせて相談していたのだけど。
今、私が携わっている農地の一部と仕事をその子たちに割り振って、本職にしてもらおうと思っていて、私は経営に重心を置くつもりでいるの」
その言葉を聞いた瞬間、グレコリ王は少し震える声で思わずその人物の名前を呼んだ。
「…マロウ……!」
「?」
ローズマリーは自分を見るグレコリ王のほころぶ顔を不思議そうに見ながらも、自分の話を続けた。
「あと、私シャトラナをもっと華やかな街にしたいの。
この国の外にはもっと沢山の料理があるのを、グロリオサ姫から教わったわ!
アルニカ様達と同行すれば、その分だけ色々料理の勉強も出来るし。それにその時アルニカ様の苦手な料理が出てくれば、私がその場でシャトラナ風にアレンジもできるわ…!」
ローズマリーはアルニカの国外料理の苦手な部分と、それを上手く吸収し利用できる自分を切々と語った。
「……。マロウ夫人にも、よく似ているわね」
シラー王妃が懐かしそうな記憶を辿る笑みでグレコリ王に話しかけると、グレコリ王も無言で頷いた。
「そして、この国でお店を構えた時には、メリッサとメリッサのお母さんを迎える場所にしたい。
メリッサのお母さんにはこのカードを私にも与えてくれたおかげでこうしていられる事を、その目で見てもらいたいの…!」
ローズマリーの想いを聞いたアルニカは、自分の父親の方を振り返り答えた。
「父上、母上。承知の通りに僕は国外の料理がちょっと苦手な事があって。でもそれを伝えると相手方にも悪いし…。
でもローズマリーを仮の毒見役として挟んでもらえば相手を悪い気分にさせない事も出来ます。
その際にローズマリーが、そっと味をアレンジしてもらえれば助かるかなぁ」
そしてローズマリーの方へ振り返り、アルニカはフェンネルの書状を持ちそれを小さく振りながらローズマリーに念を押した。
「まあ、僕は一通り毒関連の事例も勉強して来ているから、大体は毒の有無を感知出来ちゃうしローズマリーはその辺りは心配しなくていいよ、振りでいいからね。それに多分僕よりもメリッサが先に気付くだろうけど」
その後シラー王妃がアルニカに続けてすぐ様、ローズマリーに違う使命を伝えた。
「そうね、じゃあローズマリー。ドレイクちゃんと私達が同じものが食べられる料理も考案して下さる?」
それを聞いたグレコリ王は誰かを思い出した表情のままで、仕方ないな…という気持ちからの笑みを浮かべた。
「…わかった。そこまで道筋を立てているのであれば、反対のしようがない。
ローズマリー、君の話した夢はだな。…全く。マロウ公爵と同じ事を言うなんて……。卑怯だぞ。マロウ…」
「父と、同じ?」
ローズマリーが不思議そうな顔をした所に、ゼラニウムは横からローズマリーを覗き込み頭を撫でた。
「母親にもそっくりですよ、ローズマリー」
ゼラニウムの穏やかに自分を見つめる表情を真っすぐ見つめ返しながらローズマリーは少し考え込み、そして何かを思い出してゼラニウムに笑顔を返し答えた。
「そっか。……でも、今の私の家族はゼラニウム神父とメリッサとマンドレちゃんだから。
今いる目の前の父、ゼラニウム神父と、弟のマンドレちゃんもお店が出来たら招待したい!
そう、シラー様の願いの…。マンドレちゃんと私たちが一緒に食べられる料理もそれには必要だわ!」
ローズマリーは心のどこかに産みの親への気持ちを持ちつつも、目の前にいる育ての親のゼラニウムに感謝をしながら新たな約束を加えた。
「何だか次の外交先は、色々と賑やかな事になりそうだなぁ」
アルニカが一人のほほんとした顔つきになっていた所に、グレコリ王がそれを見て眉間にしわを寄せながらごつんとアルニカの頭を強く叩いた。
「痛って…!」
「外遊ではなく、外交だからな。アルニカ?」
グレコリ王はアルニカの穏やかそうな表情に心配になりながら、厳しい一喝を加えた。
「…分かっていますよ。庭園の環境機具のお礼もディアスキアのマロニエ王子に改めて伝えないといけないですからね。彼に会うのも卒業以来だなぁ…元気にしてるかな?」
アルニカの思い出の独り言に気付くと、シラー王妃が改めて真剣な表情となりアルニカへ念を押した。
「マロニエ王子には、私が本当に感謝している事と元気でいられている事を心からお伝えしてね」
「もちろんです。ただ予定していた日程を遅らせて欲しいそうで、今回はアルストロメリア経由で少し調整を兼ねてグロリオサ姫たちと再度すり合わせを行った上で、ディアスキアへ入国する予定です」
そしてアルニカはディアスキアから届いていた書簡に目を通しながら、今後の予定をローズマリーへ伝えた。
「アルストロメリア経由のディアスキア行きは、次の流星群の日を迎えた翌日正午に出発する事になっている。ローズマリー、君の準備もそれまでに整えておいてもらえるかな?」
アルニカのその答えにローズマリーは目を輝かせ、ゼラニウムの方へそのまま思い切り振り返った。
「私は教会と子供たちを見続けなければならないから、ここを離れる訳にはいかない。私の分までメリッサのお母さんを一緒に探してきて欲しい。そしてその時は皆で歓迎してこのシャトラナで一緒に暮らしていきましょう。ローズマリー」




