引き継がれている血筋
正午を表示する時計台と太陽が重なる頃、シャトラナ城の奥の間にはアルニカ、グレコリ国王、シラー王妃、ゼラニウム神父の四人、テーブルの上に置かれた
『滅びの国のオリーワ』の本とメリッサから預かった首飾りを置いたまま、しばらく黙って見つめていた。
「メリッサの母親は…。当時私に赤子のメリッサを預ける際、必ず戻りますと言ってメリッサを私に託した。額を床に付けながら。
……私には、彼女は悪い事を企てる様な女性にはとても見えなかった。外見は深くフードを被って分かりにくかったが、メリッサの髪の毛の色と同じで唯一フードから見えた瞳は鮮やかな緑色だった事を覚えている…」
ゼラニウムは当時の精一杯の記憶と思いを三人に伝えた。
その話を聞きながら、グレコリは本と首飾りを交互に見て小さく頷き、また本へと目線を落とした。
「希望を見出すカードを託して、残りの絶望に追い込むカードを託す事が今の所ないのよね…?」
続けてシラー王妃が現在のメリッサの母親が起こしている行動を冷静に振り返り、相談する様につぶやいた。
「手順はともかくとして、占星術師であるのならばカードを手放すということ自体が妙ではないか?
行動に見当がつかない…、生業を放棄しているのか…?」
グレコリはそう答えると首飾りにヒントがないかどうか見つめながら、本をめくり眉間にしわを寄せ深くため息を付いた。
「更に、このカード。魔法の様な威力を発揮する事が出来る」
ゼラニウムが持つ教皇のカードを見つめ、グレコリ王は怪訝そうな表情を浮かべた。
「ゼラニウム叔父様にとても合っているカードですよね。教皇のカード」
アルニカはゼラニウムの性格と照らし合わせ、グレコリとは真逆の納得の笑みを浮かべた。
そしてそのままそっと無意識に教皇のカードに触れようとしたアルニカにゼラニウムは慌てたが、アルニカが触れても教皇のカードは無反応のまま、一瞬金属の煌めきを放っただけだった。
「…? 大丈夫なのか、アルニカ?」
驚いたゼラニウムにアルニカが不思議そうな顔をした為、ゼラニウムは試しにグレコリの手に教皇のカードを触れさせた。
「痛…っ‼」
グレコリの手に触れたカードから小さな閃光が走り、カードは何かを拒否した様な火花を小さく散らした。
「うーん、なんだろうねぇ。オリーワに否定的な人間を感知するのかな?」
ゼラニウムが少し子供の様ないたずらをした為、シラー王妃とアルニカは同時に思わず吹き出してしまった。
「私も別に、メリッサ達の事を敵として見ている訳ではないぞ? ゼラニウムに育てられ、開業医として誠実にこの国に貢献してくれている子だ。ただ、見えない力というものは誰もが怖いものなのだよ。それを明らかにする必要がある」
グレコリの意見にアルニカは深く頷き、そして自分の意思を改めて伝えた。
「父上。僕は僕の考えの元に、選び抜いた道を歩きます。
この国にたった一人、疑惑の念を抱かれている彼女を救う事と、この国自体の誰もが平等に安定した暮らしが出来る事は、同じ事ですからね」
そのアルニカの言葉に、ふとグレコリはマロウ公爵のなすりつけられた罪を思い出し、目の前の息子アルニカをまるで昔の自分を重ね見るか様に、ただ無言で見つめ深く頷いた。
「?」
アルニカはいつもと違う父親の理解の速さに疑問を抱いていたが、ゼラニウムとシラー王妃はグレコリと同じ人物を思い出し、少し悲しみの表情で、ただ少し笑顔交じりで頷いていた。




