声なき言の葉
メリッサ、アルニカ、ローズマリー、フェンネルはそれぞれアルストロメリア・ディアスキアへ向けての出発までの準備を整える為に、別々の時を費やしていた。
慌ただしい中もアルニカは出発の前に訪れる流星群をメリッサと共に見届けたい一心で、準備を前倒して急ぎ終えていた。
「メリッサもきっと準備は入念にする性格だし、もう準備は終えているだろうし…」
明日からの荷物を改めて確認するとアルニカは日が暮れる前に「アル」の姿になり、こっそりと城を抜け出しメリッサの自宅へと向かった。
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久しぶりにアルニカがメリッサの自宅兼診療所の前に辿り着くと、丁度「クローズ」の看板を掛け、家を見上げているメリッサとマンドレイクの姿を目にした。
「しばらく、行ったり来たりするけど…。戻ってくるからね」
「シャトラナから出た事がないから、俺も少しドキドキだぞ!でもメリッサも、ローズマリーも一緒にいるから安心だな!」
「私も、マンドレちゃんとローズマリーが一緒にいてくれるなんて思っていなかったから心強いわ」
二人が家の前で思い出に浸っている所に、アルニカが後ろからそっと声を掛けた。
「メリッサ、ドレイク。もう出発の準備は終えている様だね?」
その知る声にメリッサは振り返り、驚くでもなくアルニカが訪れる事を知って待っていたかの様な表情を見せた。
「アルニカ、うちの庭から見る流星群はとても綺麗なの。ここを住み処にした理由の一つでもあるのよ。
明日からの出発の前に、一緒に見届けて行きましょう?」
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メリッサとマンドレイクはアルニカを招き入れ、三人でそのまま庭へ寝転がりながら流星群の時間を待った。
そして何気なくメリッサが夜空に向かって自分の星のタロットカードを手に持ち、夜空の星と交互に見つめていた所にそっとアルニカが横から星のカードに突然触れた。
「⁉」
一瞬のアルニカの行動にメリッサは驚いたが、カードは何も反応を示す事はなくうーん…。という悩ましい顔をしながらアルニカが少しぼやき始めた。
「回復系も無反応って…。ゼラニウム叔父様のカードも、ローズマリーのカードも少し前に触れさせてもらったんだけど俺には何の反応も示さなかったんだよね。何かしら反応があってもいいのになぁ?」
「アルニカに反応を示さないのは、カード自身が貴方の心の内を見ての事だと思うの。何も反応を示さないのは、私はいい事だと思うけど…」
メリッサはアルニカ自身の人柄に対しての事である証だと、自分の説明を加えた。
「メリッサがそう言うなら…とは思うけど。俺も一応男として少しは抵抗されるだけの威厳ってものが欲しいんだよね。父上の様に」
アルニカはそのまましばらく腕を組み考えながら、ふと何かを思い出し組んでいた腕を広げた。
「そうだ! 俺ね、魔法は使えないけど少し違った言葉を使えるんだ。ちょっと見てくれる?」
アルニカは自慢気な様子で立ち上がると、メリッサに向けて右手を高く上げ手指を開け閉じし、弧を描く様に腕を下へ振り下ろした。そして手の平を広げ、左手の甲を撫でる仕草を見せた。
「…………」
それを見たメリッサは黙ってアルニカに向け、自分の両手を交互に上下させてアルニカへ見せ返した。
「………! えっ…? あ、ありがとう…って…⁉」
アルニカがメリッサの反応に驚くと、マンドレイクがふふんと横から鼻息交じりでアルニカに答えた。
「アルニカ~。メリッサの所には手で話をする呪文使いの患者さんも来るんだから、メリッサだって手の言葉の呪文は使えるぞー? 俺もちょっとは分かるぞ。何、流れ星より綺麗だよとか言ってるんだよー」
マンドレイクの答えにアルニカは悔しがりながらも、納得の表情を浮かべた。
「これならちょっとは自慢できるかと思ったのになぁー、そう…、そうだよなぁ。メリッサの職業でなら使う事あるよね」
アルニカのその悔しがる姿を見てメリッサは子供の様に、嬉しそうに答えた。
「本当にシャトラナの王子様は、私が子供の頃から思っていた王子様とは違って私と似た様な事に関心がある人だなんて、大人になるまで思ってもみなかった…!」
それを聞いたアルニカも同じ様に、今まで見てきた女性達のイメージを思い出してメリッサと比較し答えた。
「俺も、今まで見てきた女の子はふわふわしたドレスと、キラキラした装身具と花の様な香水の香り漂う人達ばかりだったから、皆女の子ならそれに憧れるのだと思ってドレスも沢山用意しておいたのに…。
俺が惹かれた人は薬草の香りに包まれて、森の中を一人でウロウロする趣味を持つ人だとは思ってもみなかったよ?」
「私も、素敵なお洋服や装身具は好きよ。でも自分が着ていても自分には見えないじゃない?
それを着ている素敵な方を見るのは好きだわ。でも薬草探しでドレスを着て森をうろうろしていたら動きづらいし、素敵なドレスは汚してしまうし、怪我をしてしまうでしょ?」
「…俺に見せてくれたらいいと思うんだけど?」
「アルニカは、綺麗に着飾った私を望んでいるの? アルニカはアルでいたいのに?」
メリッサの素朴な、そして珍しく鋭い質問にアルニカは慌てて否定した。
「それは違うよ! 君、意外に俺を試すんだなぁ…。でももしかして……、やっと俺に興味出てきてる?」
アルニカの何故か嬉しそうな態度に呼応する様に、メリッサも少しはにかんで普段見せない様な笑顔で答えた。
「うん…。興味が出てきているのかも。 まだ判明されていない未知の草花の謎くらいに…! これからは貴方の事をもっと分かる様になっていくのかしら?」
その答えに、アルニカは草花と一緒かぁ…。と、苦笑いを浮かべながらもこれからの事を思い描きながら切り返した。
「君とは、これから一緒に地道に色々な事を探す時間が増えていくからね。俺も楽しみだよ」
流星群が降り注ぐ前の静かな夜空ではなく、大地に育つ草花に触れながら答えたアルニカの表情をメリッサは不思議な感覚を持って黙って見つめていた。
「この国の穏やかな日常は願うものじゃなくて、俺にとってそれは使命だからね」
アルニカは自分自身ですらその言葉が分からない位の小さな声で呟き、自分の国の大地から見える夜空を見上げた。そしてメリッサは何かを考え込んでいるアルニカの邪魔にならない様同じ夜空を見上げ、二人の間には無言の時間がしばらく訪れた。
(……アルニカ。私には、今も貴方は子供の頃の書庫に入ったままの姿の様に見える……)




