誰が為に鐘は鳴る
シラー王妃は庭園にグロリオサ姫を招き、護衛の二人も横に招いた形でしばらくグロリオサ姫の心が落ち着くのを待った。
メリッサは、グロリオサ姫がお茶を飲み少し呼吸が落ち着いた様子に変わっているのを確認すると、話を切り出した。
「グロリオサ姫。貴女はあの状況下でどこか冷静にされていました。
普通の女性ならもっと取り乱していたはず。動揺していた中で、フェンネルさんの否定の答えがあっても既にどこか覚悟が出来ていた。姫様が自立した女性だと、その魔術師のカードが証明してくれています。このタロットカードは持ち主に大きな迷いがあればその力を主人の代わりに暴走させるはず…、それがなかったのはこの魔術師たちは姫様の力を認めてくれているのだと思います。昔の様に魔法が使えなくなる事はないはず…」
グロリオサ姫は、自身が心配していた心の底の悩みを見抜いた
メリッサに驚きながら話を始めた。
「実は私、国に許婚の候補がいます。でも何処かで学生時代に気になった
フェンネルの存在が心の中にありました。その決別の為に、今回ここに訪れた…
そんな気がします」
その落ち着いた発言に、護衛の二人は安心した表情でグロリオサ姫に
ささやきかけた。
「姫様、まずは貴女様が共に幸せになるお相手をお選びください。
焦らずとも大丈夫です」
「女王陛下も、それを望まれているはず」
そこに丁度アルニカ達も息を切らしながら駆けつけ、合流した。
「ごめん、大体の話は立ち聞きしたよ」
アルニカは即座にグロリオサ姫に謝罪したが、グロリオサ姫は余裕のある
穏やかな表情で顔を横に振った。
そして、フェンネルの傍に向かい頭を垂れた。
「先程はごめんなさい…。少し刺激が強かったけれど、
私の鎖を断ち切ってくれて、過ちを教えてくれて有難う」
落胆しているグロリオサ姫をフェンネルは写し鏡の様に見ながら頭を下げ、
優しく答えた。
「こちらこそ、配慮に欠け申し訳ない事を言った。
今の俺は、伴侶を求める事よりも信頼している者達と先ずは共に生きて行く道を
探したいんだ。最初からそれを伝えれば良かった…」
フェンネルはアルニカ、メリッサ、ローズマリーの瞳をそれぞれ見つめながら
グロリオサ姫へ伝えた。
「私もまずは目の前の、私を信頼してくれている者達からの信頼を
もっと受けられる様にしてみせるわ」
グロリオサ姫の力のある返事と赤く燃える様な瞳に熱意を感じ、
フェンネルは安心して頷いた。
「…それにしても貴女。あの女性と同じ、私が必要としていた言葉をくれるのね。
どこか、あの女性に似ている。やっぱりアルニカの言う様に貴女のお母様なのだと思う」
グロリオサ姫は再びメリッサに関心を戻し、本題の話を投げかけた。
「お姫様、メリッサの母ちゃんの顔覚えてないのか⁉」
突然メリッサのローブに隠れていたマンドレイクが飛び出して叫んだ。
「あ!マンドレちゃんっ!」
「ドレイクちゃん!」
うっかり姿を現してしまったマンドレイクにその場にいた皆が慌てたが
「……ガジュマルが…、しゃべってる…?」
グロリオサ姫がふくよかなマンドレイクを観葉植物のガジュマルと勘違いし、
全員が安堵した。
「俺は、メリッサが小さい頃から一緒にいるんだ!でもメリッサの母ちゃんにも
会って一緒に暮らしたいんだ!」
マンドレイクはそのままの勢いでグロリオサ姫にお願いをし始めた。
「…貴女、この子どうやって使役しているの? 人外を使役できる力って
貴女は精霊使い…?」
全員がその質問に慌てたが、シラー王妃が上手く話をすり替えた。
「グロリオサ姫、その女性の似顔絵は描けないのかしら?数年前なら顔立ちがもう変わらないはず」
その提案に皆が期待を膨らまし姫を見つめる中、グロリオサ姫はとても怪訝そうな表情になった。
「……………」
「…私、美術系は……」
全員が、グロリオサ姫の描いた似顔絵に無言となった。
「あ、貴女のお母様見つけられる様!私、努力するから!貴女のお母様は私の恩人でもあるから!」
グロリオサ姫は自分が描いた似顔絵をくしゃくしゃにして護衛の二人に放り投げた。
「見ず知らずの私に、力を貸していただけるなんて…嬉しいです」
メリッサがグロリオサ姫に満面の笑みでお礼を述べると、
グロリオサ姫は恥ずかしそうに横を向きながら目線を逸らし小声で呟いた。
「貴女は、私のプライドも併せてかばってくれた。それに答えるだけの事よ」
その二人の会話に、シラー王妃とアルニカは満足そうな笑顔を交えた。
「とりあえずグロリオサ、君と交流が深くて信頼できる所から調べておいてもらえないかな?」
アルニカの依頼に、グロリオサ姫はいつもの自信満々の余裕顔にあっさりと
戻って答えた。
「ええ、任せて頂戴。私の実力、貴方十分知っているでしょう?」
「もちろん、頼りにしているよ」
アルニカは苦笑いで返事をし、後ろでフェンネルも壁にもたれ、腕を組みながらそのやり取りに笑顔を浮かべていた。




