グロリオサ姫、シャトラナの地へ。
アルストロメリアのグロリオサ姫が来訪する当日、朝からシャトラナ城の中は少し空気が張り詰めていた。
表向きはグロリオサ姫がアルニカ来訪のお礼としてやってくる事となっていたが、関係者はグロリオサ姫が所持するタロットカードとその威力に関して不安を抱き、アルニカ達は更にグロリオサ姫がフェンネルへの好意をどうするか、二重の悩みを抱えていた。
「フェンネルには、グロリオサ姫が何を尋ねにくるか伝えているの?」
シラー王妃が小声でアルニカに尋ねた。
「いいえ。グロリオサ姫がフェンネルにどう切り出し結果どうなるか、二人の人生に左右しますから」
「…そうね、それがいいわ……」
その会話を最後に、二人はそのまま黙り込んでしまった。
シャトラナ城の玉座の間の扉が開き、グロリオサ姫、姫の横には二人の女性魔法騎士が護衛同行して訪れていた。
「素敵なお姫様―! あと双子かな?警護の二人、顔が瓜二つ」
部屋の端にいたローズマリーがそわそわと小さな声で同じく横にいるメリッサに耳打ちした。
「年齢も私たちとはそう変わらなそうな雰囲気だけど、すごく綺麗な方ね。
護衛の方もとても頼りになりそうな二人」
メリッサとローズマリーは、初めて見る異国の姫にただ感嘆の息を漏らしていた。
「アルストロメリアの第一皇女、グロリオサ=アルストロメリアと申します」
グロリオサ姫はアルストロメリアでの態度とは打って変わって、公的な態度で深くお辞儀をした。
「こちらは、常々交流を頂いております感謝のしるしとしてお受け取り下さい」
グロリオサ姫の護衛の二人が箱を開け、アルストロメリア産の貴重な鉱物や織物などを献上した。
「先日はアルニカがアルストロメリア訪問の際に大変良くしていただき。今回はそのお礼を兼ねております。さあ、奥の方でゆっくりと話などいたしましょう」
シャトラナ国王グレコリは謝辞を述べると先陣を切り、奥の間へ案内した。
奥の間に集まった者は、グレコリ国王、シラー王妃、アルニカ皇太子。
シッサス・フェンネルと一部の騎士団員。アルストロメリアからはグロリオサ姫、護衛魔法騎士二名。メリッサとローズマリー、ゼラニウムは部屋の端に同席する形となった。
「予め、書簡を送ってこの度の内容は把握されているかと思われるが」
グレコリ王は、グロリオサ姫に単刀直入に本題を切り出した。
「私がこのタロットカードを受け取った経緯やその力の話は、アルニカ王子より既に伝達済みかと思われますがその辺りはよろしいでしょうか」
その部屋の全員が無言で頷くと、グロリオサ姫は話を続けた。
「先ず、私や、母・アルストロメリア女王陛下はこの力を以てシャトラナに何か危害を加えるなどとは微塵も考えてはおりません。そこはご理解いただきたい。私は私自身の力を信じて、鍛錬をしていくつもりです」
グロリオサ姫のルビーの様な赤い瞳がまっすぐグレコリ王を見つめ、信頼を得るだけの意思が感じられた。
「そして、このタロットカードを私に与えてくれた女性の事を知りたいと
アルニカ王子から依頼され本日まで調べられる限りを尽くしたのですが、何も情報が得られず…。
おそらくアルストロメリアには現在いないものと思われます」
グロリオサ姫の報告で何か新たな情報が得られるかと思っていたが、進展がない事にその場の者はがっかりしたがメリッサだけは少し安堵の表情を浮かべていた。
「ただこの件、聞き及んでいる限り数名に別々のタロットカードをその女性が渡し、その場を離れているという話が書簡に書かれておりましたが…」
「それは、グロリオサ姫を信頼に足るべき人物だと、僕たちシャトラナ側は判断した事で開示した。
この話はここだけの話として欲しい」
アルニカがグロリオサ姫に念を押すとグロリオサ姫はそれに頷き、自身の予測の話を続けた。
「あの女性、不特定多数に何らかの条件でタロットカードを手渡している様に感じられるのですが」
「おそらく。国、身分、関係なく何かの条件で授けている様な…、そんな感じがしているよ」
アルニカも自身の仮説を語った。
話の進展がなく八方塞がりとなってしまったが、グロリオサ姫は一つの提案をした。
「仮説をここで話していても仕方ない。シャトラナ、アルストロメリアでまた別の方向から探していきましょう。少なくとも私達には学生時代に数国の、それも世界の主要の王族と共に学んできた友人達がいるわ。私たちの信頼関係が今も続いているか、慎重にならなければいけないけれど」
この話を聞いたグレコリ王はめずらしい笑顔を見せ、アルニカに伝えた。
「アルニカ。お前はとてもいい相手を見つけたな」
その言葉の意味を、メリッサは部屋の隅で複雑な気持ちで受けとめ下を向いた。
「父上、グロリオサ姫は…」
アルニカが首を横に振ったのを見て、グロリオサ姫は同時に何かを決意したような顔になり突然立ち上がった。
「国王陛下。私はこのシャトラナに就くある男性の力を、アルストロメリアにいただきたく…!」




