皆が、あなたを待ってる。
「ねーアル兄ちゃんまだ帰ってないの?」
メリッサの診療所には時々、アルニカの戻りを確認に来る子供たちが
やってきていた。
「戻るのはまだ来週よ。その前に収穫祭もあるし
皆はまずローズマリーのお手伝いに行ってあげてよー」
メリッサは仕事の片づけをしながら入口近くにいる子供たちに声だけ
掛けていた。
「何かアルとは違うかっこいい兄ちゃん来てるよ、メリッサ!」
「え? 患者さん?」
メリッサが振り向くと、いつの間にかフェンネルが入口に立っていた。
「悪い、通りすがりで少し頼み事があって寄ったんだが…、少し時間いいか?」
メリッサは片づけを大まかに済ませると、フェンネルを自宅の方へ案内した。
「…まさか、シラー王妃に何かあったとか?」
心配そうなメリッサの問いにバツが悪そうな顔をしたフェンネルは、
苦笑いを浮かべながら話を切り出した。
「メリッサって、クレープとか作れる?」
「え?」
メリッサは、フェンネルの意外な質問に首を傾げた。
「アルニカが、前に食べて気に入っていてね。
外交から戻った時に甘いものでも用意してやって欲しいんだ。
ローズマリーは一日中自分の方で忙しいだろうからさ」
「生地を焼くタイミングとか…アルニカ様が帰る時間帯が分からないし、材料も多くいるし…、当日いい材料は収穫祭に回ってそうで果物とか手に入らないかもしれないし…」
「ああ、そうか…。んー、甘いものなら何でもいいんだが……」
珍しく焦りを見せているフェンネルに疑問を頂きつつもメリッサは奥にある
鶏小屋を見て、別の提案をした。
「プリンなら、うちで育てている鶏が生む玉子を使って出来なくも
ないですけど…」
「それ、それがいい!一つ作ってくれるだけでいいから!」
フェンネルは即座にメリッサに細かいお願いを続けた。
「当日、俺はシラー王妃の元にいるから毒見が出来ない。
その場でメリッサが先に一口食べて、そのままアルニカに食べさせてやって欲しい」
「そうですね、玉子…そんなに沢山産んでくれるかわからないから一つ位なら何とか」
その言葉を聞き、安心したフェンネルは立ち上がると、
嬉しそうにメリッサの手を握りしめ再度懇願した。
「じゃあ、頼んだ!」
そのままフェンネルは安心しきった顔をし、あっという間に去っていってしまった。
「…変なやつだなぁ」
奥にいたマンドレイクが怪訝そうにつぶやいた。
メリッサはフェンネルが帰り、再び一人になった家からこの間までいつも
アルニカが遊びに来て座り込んでいた木のある場所を、ぼんやりと見つめていた。
丁度夜の帳が降り、完全にその場所が見えなくなった瞬間、
自分が何故か少し寂しさを覚えている事に気付きながらも
そのままその気持ちと共に、カーテンをそっと閉めた。




