プライドと責任感の狭間に
今から数年前…。
学校の授業を終えたグロリオサは一人、
アルストロメリア城から少し離れた森の中にいた。
「将来この国を支えていく私が…、魔法が使えなくなるなんて…!
そんな事あるはずがないっ!」
グロリオサは必死に呪文を唱えて、唱えて息が切れ、声が枯れるまで続けた。
「どうしてよ⁉
いつもならこの森を燃やす事が出来る位の炎、簡単に出せるのに…!
もうすぐ試験なのに!卒業間近なのに!」
グロリオサは自分の杖を地面に叩きつけ、そのままうずくまり声を殺し
泣いていた。
そこに人の気配がし、グロリオサが顔を上げると目の前に一人の女性が立ち
女性は杖をそっとグロリオサに手渡した。
「正義感の強い貴女。あまりの責任感の強さから
一時的に立場上のプレッシャーにつぶされて本来の力が出せなくなっているだけですよ。何の為にその力が貴女にあるか、落ち着けば大丈夫」
そして、女性は一枚のタロットカードを手渡した。
「この魔法使いたちは貴女の気持ちを汲み、手助けしてくれるでしょう。
貴女なら正しく使いこなせるはず」
女性はグロリオサ姫に魔術師が描かれた一枚のタロットカードを手渡した。
グロリオサは手渡されたカードをしばらく怪訝に見つめ考えていたが
ふと素直な願いを込めてカードと杖を空へ掲げた。
「生きるための燃え上がる情熱を!この国と!人々と!私に!
アルストロメリアの人々のこれからの繫栄を!
それを鼓舞する炎を!……アルストロメリアが迷いなく生きる座標を私に示せ!」
自然と出たグロリオサ姫の願いの言葉に、
魔術師のカードから複数の魔法使いが姿を現しグロリオサ姫の杖に絡まると
一つの炎となり空へ向かって大きな炎の柱となり、枝分かれし、消えて行った。
「あんな大きな炎の柱…、こんな魔力、私持っていないのに…」
呆然と立ち尽くすグロリオサ姫に、笑顔で女性は答えた。
「一人で背負うのではなく、アルストロメリアの魔法の力、正しく人々と力を合わせれば大差ないのですよ、姫様。
しばらくこのカードの力を借りて、思い出しながら練習していけばすぐ貴女の本来の力を取り戻せるでしょう。カードの魔法使いたちも貴女を慕っている様です。
それは貴女に差し上げましょう」
呆然と立ち尽くしているグロリオサ姫に女性は背を向けると静かにその場を去って行ってしまった。
「この事をお母様に話して……
その後散々行方を捜したのだけどその女性は見つからないし
誰だか検討もつかなくて…。
でも、この後私自身の魔力も戻ってきたからこのカードの力は殆ど使用した事はないのだけれどちょっと不思議なの。
普通は魔法って自分自身の精神力を利用して生み出すのだけど…。
これは、カード自体に沢山の魔法使いの力が込められているというか…。その力を借りて生み出されるのよ。貴方たちは魔力がないから、分かりにくいかもしれないけれど」
グロリオサ姫の説明に、アルストロメリア女王が話を続けた。
「私もこのカードに触れたのですが、
感覚としてこのカードの中に膨大な魔法使いたちが留まっているというか…。
ただ、娘の様にこのカードを操る事は私には出来なかった。
このカードの主人は、あくまでグロリオサだと見ている様で…」
アルストロメリア女王は説明しがたい表情で、分かる範囲の説明を加えた。
その説明に、このカードと別の種類の物がシャトラナにある事を告げるか
アルニカは迷っていたがそこにシッサスが別の話を始めた。
「グロリオサ姫。一度シャトラナへ参りませんか? …その時の迷い、焦り。
息子のフェンネルへの想いも混ざってのものではないでしょうか」
シッサスの提案に、グロリオサ姫はびくつき、顔をこわばらせた。
「グロリオサ、シッサスの言う通りだと思う。
どこかで君は、フェンネルに期待を寄せていないだろうか?」
アルニカの言葉に、グロリオサ姫は咄嗟に母親の方を向いた。
「グロリオサ、一度その貴女が想う方と話をしなさい。
このままでは貴女はどこかでまたつまずく事になるでしょう」
三人に詰められたグロリオサ姫は、俯きながら考え込んだが、顔を上げ頷いた。
「そうね、その通りだと思う。…一度私、シャトラナへ行くわ」
「それがいい。僕らが一度戻った後、調整して時間を作るよ」
「…できたら早めがいい……。私の心がつぶれないうちに…」
弱気な顔になっているグロリオサ姫に、シッサスは優しく笑顔で語りかけた。
「フェンネルは私の息子ですが、あの子の心はあの子のもの。
もしも貴女を受け入れたいという気持ちがあれば止める事はしません。
また私が騎士団長に戻っても良いかどうかを国王陛下に相談いたします」
シッサスの意外な言葉に、今度はアルニカが驚きの顔を向けた。
「アルニカ様。あの子はどの様な気持ちでこの職務に就いているのか、
親の私でも本心は分からないのですよ。
でも、シャトラナへの気持ちは私以上だと感じています」
シッサスの中立的な考えを聞き、アルニカは困惑しながらも
自分の考えをグロリオサ姫に伝えた。
「…ごめん、グロリオサ。
僕に取ってフェンネルはシャトラナで共に一番力を貸してもらいたい
唯一の存在なんだ。
応援が出来ない。だけど、アルストロメリアを敵にもしたくない。
この国とは友好関係を続けていきたい…勝手言ってごめん」
アルニカの誠実な言葉に、アルストロメリア女王が話を繋げた。
「こちらも、シャトラナは決して敵に回したくないわ。魔法使いはやはり非力。
もし敵対関係となってしまったら力関係では勝てません。
私が杖を取り出し、呪文を唱え切る前にシャトラナの騎士は私に先に剣を向け、
杖を持つ腕と、呪文を口にするこの首を跳ねる事が先に出来てしまいますからね」
すると今度はその言葉に、シッサスが横に首を振り否定して答えた。
「私が女王の首を取る前に、貴女の前に慕う魔法使いの束で固められ、
その者達の魔法で焼き尽くされるのが先でしょう?」
アルニカとグロリオサは二人の言葉に、
改めて自分達が置かれている立場の現実を叩きつけられたが即座に二人に反論した。
「何を言っているの、お母様⁉シャトラナの土地が育むもの、供給を絶たれたら
アルストロメリアには食料が十分に行き渡らなくなってしまう!」
「シッサス!アルストロメリアの火力の助けを得なければ、
僕らはこの剣や守るもの、作り出す事が出来なくなる!」
その言葉に、アルストロメリア女王とシッサスは安心した様に
お互いの顔を合わせて小さく頷いた。
「二人とも、良く分かっているのですね。安心しました。
その言葉を聞いたらシャトラナ王も安心する事でしょう」
「グロリオサ姫、息子がどちらの道を選ぼうとも、
どちらの国も大切にするでしょうから安心してください」
グロリオサ姫は、自分の気持ちを少し誤魔化しながら
落ち着ける様に話をアルニカ側へ向けた。
「…アルニカの、その片耳飾りの相手にも会ってみたいしね」
「では、そろそろ次は次年度の流通の打ち合わせに話を切り替えても宜しいかしら?」
「そうですね、久しぶりの更新になりますからまず、こちらから」
不安を隠しきれないアルニカとグロリオサ姫の気持ちを切り替えさせるかの様に
アルストロメリア女王とシッサスはお互いの国の書面を取り出し、
お互いの内政の相談へと話を変えていった。




