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女神の箱庭、堕ちた魔神  作者: 女又心
エピローグ

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30/30

続く未来、僕らの世界

(次の新世界の座は、この(わらわ)がいただきじゃ)


 間もなく天命を迎える何処(いずこ)かの旧世界。


 それに取って代わる新たな世界の椅子を賭け、幾多の神々が自ら手掛けた世界の卵を競い合う新世界コンペ。


 その最終選考の場で、女神ラル・ルル・ラルラは内心ほくそ笑んでいた。


 最終選考に残った世界は全部で五つ。


 中でも、ある二つの候補が突出して抜きん出ており、最優秀作品はそのどちらかになるのではないかというのが(もっぱ)らの下馬評だった。


 その最有力候補の片方が、彼女と男神テペノ・リペノが創造した世界であり、そしてもう片方が、男神ブレ・ド・ハットと女神イーク・ミィクが創造した別の世界だ。


 通常であれば、己が世界を最後の最後まで磨き上げ、出来得る限り洗練させた上で最終評価を待つ、というのが至極真っ当な流れであったが、少なくともラル・ルル・ラルラはそうは考えなかった。


 主義も理想もなく、ただ新世界の神にさえなれればいいと考える(よこしま)な神だった彼女は、自らが頂点に立つべく密かに暗躍を開始した。


 まず、二つの候補世界を天秤に掛けたラル・ルル・ラルラは、自分たちの世界ではなく他所の世界の方に勝算を見出し、不敵にもこれの乗っ取りを画策。ブレ・ド・ハットを誘惑する傍ら、イーク・ミィクを脅迫し、彼女を精神的に追い詰めることで勝負の舞台から引きずり下ろすことにまんまと成功する。


 イーク・ミィクの後釜に収まる段取りを付けたラル・ルル・ラルラは、最早邪魔者以外の何者でもない相方のテペノ・リペノを故意に自分たちが作った世界へと堕天させ、彼の唐突な失踪を演出。どちらか片方の神だけでは出場神規約違反となり、選考継続もままならないことから、ラル・ルル・ラルラは断腸の思いで自らの世界を諦め(る振りを装い)、パートナーを失ったばかりのブレ・ド・ハットと共に、彼の世界の存続に身を投じることを決めた。


 要は、どちらに勝敗が傾くか分からない不確実性を避け、敢えて片方を蹴落とし残った勝ち馬に乗ることで、より確かな勝利をその手に掴もうとしたのだ。


(元より妾に、テペノ・リペノとの間に作った世界に対し、愛着などこれっぽっちもありはしなかった。それに、ブレ・ド・ハットとイーク・ミィクの関係が親密で、互いの信頼が強固なものであったなら、初めから妾が付け入る隙自体そもそもなかったはず。全ては天の思し召しだったのじゃ)


 悪びれるどころか、自らの非道な振る舞いを正当化して(はばか)らないラル・ルル・ラルラ。


(幸いにも運は妾に味方し、何から何まで望んだ通りの状況を創出することができた。これを幸甚と言わずして何と言おうか)


 ここまでとんとん拍子に来たとあれば、最早この勝負、勝ったも同然というもの。


(ふふふ……もう少し、あともう少しじゃ)


 そして遂に、お待ち兼ねの、新世界に選ばれし最優秀作品の発表が行われようとしていた。


()えある新世界の座に輝いたのは――男神テペノ・リペノと女神イーク・ミィクによる世界です!』


「な、なんじゃとッ!?」


 公式のまさかの発表に、ラル・ルル・ラルラは度肝を抜かれる。どうしてそこで彼奴(きゃつ)の名が? それも、脱落(ドロップアウト)させたはずの女神まで一緒になって?


 状況を受け容れられぬ中、公式が選評を述べ始める。


『今回の最終選考は、徹頭徹尾波乱に満ちたものとなりました。とある参加神の謎の失踪に始まり、別の参加神の急な辞退の申し出……それに加え、パートナーを失った神同士のタッグ結成など、いずれもこれまでに例のない事態の連続でした』


 そこで公式は言葉を切り、タメを作るようにわずかな沈黙を挟む。


『数々のアクシデントに見舞われつつも、見事今回の選考を制した二柱には、まず惜しみない拍手を送りたいと思います。特に、理不尽な事故(トラブル)から奇跡の復帰を果たしたテペノ・リペノの、それでもなお新世界に懸ける深い情熱には、正に感服の一言でした。一度は廃棄が決まり、選考終了まで処分保留となっていた壊れかけの世界を、これまた身を崩していたイーク・ミィクと手を取り合って立て直すだけでなく、こうして逆転優勝まで勝ち取るとは、一体誰が予想できたことでしょう?』


「そ、そんな馬鹿な……。こんな結末、あってなるものか……」


 あうあうと言葉を失くすラル・ルル・ラルラに、公式の端的な事務連絡がダメ押しする。


『なお、今回の選考の裏側で、一部の神による不正行為が確認されています。詳細の公表は差し控えますが、該当する神には追って然るべき処罰が(くだ)りますので、今から震えてお待ちいただきますよう』


「あ……ああ……」


 色を失うラル・ルル・ラルラに、一緒に選考結果を聞いていた何も知らない哀れなブレ・ド・ハットが泡を食った様子で彼女の肩を激しく揺さぶる。


「お、おい! 何だこれは!? 一体何が起きているのだ!?」


 そんな二柱の下へ、早くも関係当局者が差し向けられてきたようで。


「ラル・ルル・ラルラとブレ・ド・ハットですね? 貴方方(あなたがた)二柱にはとある嫌疑が掛けられていますので、大人しくご同行をお願いします」


「はあ!? ちょ、待てよ!」


「は……ははは……」


 ブレ・ド・ハットが訳も分からず必死に抵抗を続ける中、諦念に打ちひしがれた様子のラル・ルル・ラルラは、完全に生気を失った捨て鉢の体で、ただただこの後に待ち受けている破滅の運命に身を委ねていた。





「ウィナ姉ちゃーん! 洗濯物干し終わったー!」


「はーい。今チェックするからちょっと待ってねー」


 上階から元気よく駆け下りてきた子どもに大きな声で応じつつ、ウィナはやりかけの洗い物をちゃっちゃと片付ける。


 あれから一年が経ち、引き取った子どもたちも両親を亡くした痛みを各自のペースで乗り越え、在りし日の活気を徐々に取り戻しつつあった。


 今では子どもたちの多くがルクレクレイトの日曜学校に通っており、年長者に至ってはテッドに憧れて衛士隊に入隊したり、ハークサムにはなかったウィートリダムの高等学校に進学したりなど、それぞれ進むべき道を自分の足でしっかりと模索している。


 かく言うウィナも、一時は極短だった髪がすっかり伸びて元の長さに戻っており、往年と変わらぬ美しいそれを、子どもたちがプレゼントしてくれた新しいリボンで以前と同じように結わっていた。


「ウィナ姉ちゃーん!」


「はいはい、今行きますよー」


 急かされたと思ったウィナが、手に残った水気を手早くエプロンで拭きながら厨房を後にすると、


「んーん、そうじゃなくて!」


 件の子どもはどこか興奮した様子で誰かの手を引いていた。


 記憶の中より少し大人びた顔立ちになったその人物の、そうは言ってもそこかしこに滲み出ている懐かしい面影に、ウィナは思わず口元を綻ばせる。


 一年ぶりに帰省した青年は、同じく妙齢の女性となったチェスカとララに冷やかされつつ、照れ臭そうに頭を掻きながら伏し目がちに口を開く。


「……ただいま、ウィナ」


 そんな恥ずかしがり屋の彼を、ウィナはいつもと同じ、お日様のような温かい笑顔で出迎えた。


「お帰りなさい、テッド」

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