第六話 「真実は笑顔の裏に」
この日、神都の各地で起こった太陽の使徒による襲撃事件は、神都および皇都の神官団によって速やかに鎮圧された。また、奉星の大祭に出場するため神都に滞在していた皇国各地の神官たちも鎮圧に協力したため、神都の治安は早い段階で回復できた。
記念公園で戦ったユラとシトリの活躍も高く評価された。偶然にもユラが守った子どもは奉星の大祭に出場する神官団が宿泊する旅館の経営者の一族であったため、今回の件の謝礼ということでユラとシトリは最も格式の高い部屋を用意してもらった。とはいえ、二人は先ほどの戦いで力を使い果たし眠っているためそのことはまだ知らないのだが。
「まったく。なんでこう行く先々で妙なことが起こるんだ」
センはシトリを布団に寝かし、やれやれとため息をつく。
彼に同行していたリクは「まあまあ」と気楽に声をかけた。
「いいじゃないの。君たちの活躍のおかげで平和が訪れたんだから」
「おかげでこっちは昼飯を食い損ねたんだが」
「まあまあいいじゃないの。人間、一食抜いただけで死にはしないよ」
「朝飯も食ってないんだが」
「まあまあいいじゃないの。人間、一日くらい何も食べなくたって死にはしないよ」
「次にまあまあいいじゃないのって言ったら殴るぞ」
「まあまあいいじゃないか」
センは拳を振り上げたが、腹が鳴ったので仕方なく拳を下ろした。
「冗談はここまでにして、夕食は期待していいと思うよ。今夜は大祭の参加者を招いての宴が中央広場で開かれるからね。まあ、のんびり昼寝でもして時間を潰しなよ」
「昼寝なんかできるかよ。腹が減って腹が立って腹の虫がおさまらねえんだ。それより、お前らはもう知ってるんだろ」
「なんのことかな」
「トベラ団長から聞いた。さっきの戦いでシトリが何をしたのか。お前らも報告は受けているはずだ」
「……そうだね。驚いたよ、本当に。まさかカゲオニに取り込まれた人間の救出に成功したとはね。カゲオニに精神を侵された人間は、決して元にはもどらないんだ。器の中で溶け合った水と血が分離しないように、その精神は絶対にカゲオニの力から離れることはできないはずだ。でも、彼女は精神をとりもどした。神おろしの力によるものじゃない。おそらくは創世の神器の力を使って、カゲオニに侵された精神を本来の姿に回復させたんだ」
「本人にその自覚はないんだろうけどな。でも、これでシトリと神器が結びついていることは確実になったし、その力を使えるってこともわかった。まあ、わかったところでどうすることもできないけどな」
「ただ、これで彼女が皇国にとって重大な脅威であることは証明されたよ。間違っても皇国と全面対決だけは避けないとね」
「だったら今すぐユヅルハの直隷地化を撤回しろよ」
「それができたら苦労はしないよ。そもそも彼女の危険性を承知の上で、今回の計画は進んでいるんだから」
「そんなに創世の神器が必要なのか?」
「たぶんね。皇国を脅かすものから、皇国を守るためにも力は必要なんだよ」
「……なあリク。さっきの戦いで俺が破壊した御柱、あれは『人柱』なんだろ」
「皇都の神官団の報告によると、間違いなく人柱だよ」
「あれをつくったのが太陽の使徒だとしたら、連中の中には禁術を使える術者が複数いるってことになるぞ」
「そう考えて間違いないだろうね。彼らの中には皇都の神官団と同格の術者が確実にいる。退役した神官か、現役の神官の中に内通者がいるか。なんにせよ、厄介なことだよ」
「なら、再発防止に努めてくれ」
「もちろん。それじゃ僕はこれで失礼するよ。宴の準備があるからね」
「確認するが、シトリの出場登録は明日までだよな」
「そうだね。記念公園の奥にある社で行うから忘れないで。ところで、奏者はどうしたの?」
「いろいろあって奏者はいない。大祭に出るのはシトリだけだ」
「なるほど。それはまた、勇者だねえ」
「しかも優勝する気でいる」
「本当に勇者だねえ。怖いもの知らずだねえ」
「世間知らずなだけだ」
「どうがんばっても優勝なんかできないのに。そもそも、そんなことしたって意味ないのに」
「それでも信じているのさ。ユヅルハを守るために」
「そっか。うんうん。残酷だね」
「まったくだ」
「だからセンは、彼女と一緒にいるんだね」
センは否定も肯定もしなかった。
「なんだったら、センが奏者をしてあげればいいじゃない」
「お断りだ。俺にそんな気は一切ない」
「でも気が変わることもあるかもしれないじゃない。奏者の登録は大祭当日でも大丈夫だからね。ま、覚えておいてよ」
それじゃ、とリクは部屋から去っていった。
センはシトリのそばに座り、ぼんやりと部屋の天井を眺めていたが、やがて横になり、いつの間にか眠ってしまった。
こういう時、人は何か予言めいた夢を見るものであるらしい。
しかしセンは、何の夢も見なかった。




