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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
水平線にて #4
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親友の話

 高一の春休みでしたね。友だちが消えちゃったんです。

 高校に入ってからの付き合いの子でした。

 おとなしくて、人の輪に入っていくんが苦手で、図書室で本を読んだり、校庭の花壇で花の世話をしたりするんが好きな子でした。

 たしか、校外学習で同じ班になって、それからちょくちょく話するようになったんです。言い回しや表現がユニークな子でね、話してみるとけっこうおもしろくて可愛い子だったんですよ。

 その年は桜が早咲きで、春休みやし二人でお花見にでも行こうって約束したんです。


 え? あはは、ちゃいますちゃいます。

 あの子は私以外に友達はおらんかったし、三人以上の場になると途端にしゃべれなくなるんです。自分がしゃべると場の空気を壊してしまいそうだからって、それが嫌だからって言うてました。

 なので私とあの子がそういう関係だったていうわけじゃないんですよ。

 でも、うーん……実際はどうだったんでしょうね。

 結局あの子との付き合いは一年にもならないんですけど、高校ではなんだかんだで一番仲良くしてた友だちでした。私が演劇部をつくろうって動いた時、最初の部員になってくれたのはあの子でしたから。


 そうですね。友だちというよりは、親友ですかね。

 でも、いなくなったんです。

 一緒に桜を見に行こうって、あの子から誘ってくれたのに。


 その日、私は約束の二十分前に待ち合わせ場所の公園に行ったんです。あの子はいつも三十分前には来てましたから。

 そうなんです。時間は絶対に守るんですよ。待ち合わせ場所に一人で、本を読みながら私が来るんを待ってるんです。ふふ、可愛いでしょ。

 けどその日は、あの子は待ち合わせ場所にいませんでした。

 私があの子を待つなんて、それが初めてでしたね。時間が五分、十分とたって、私は手持無沙汰のままぼんやりとあの子が来るんを待ってました。まあたまにはこういうこともあるやろなって、そんなことを考えてました。

 でも約束の時間になっても、あの子は姿を見せませんでした。もしかしたら私が時間を間違えたんかなって思って、で、あの子に連絡したんです。でも、つながりませんでした。何の返事もありません。もしかしたらここへ来る途中に事故におうたんかもしれんって思って、あの子の家まで走ったんです。そしたらね、驚きましたよ。

 あの子の家の玄関に、売物件って札がかけてあったんです。


 次の日、私は学校へ行って先生にあの子のことをたずねました。でも、個人情報に関わることだから教えられないって言われました。

 その時の先生の様子から察するに、あの子のことについては何も言うなって誰かから言われとったんかもしれません。普段はちゃんと話をしてくれる人でしたから。

 でも、つけくわえるように先生は言うてくれました。

 あの子は学校生活を楽しんでいた、特に私と一緒におる時は本当に楽しかったって、面談週間の時に話してたみたいです。


 私も同じです。あの子といる時は、本当に楽しかった。

 何よりあの子は、特別な人なんです。

 私に、新しい名前を見つけてくれた人ですから。


 三学期の初め頃ですね。私、ちょっとしたいじめにおうたんですよ。小学校以来の名前のやつです。朝、学校に行ったら、教室の黒板に私の名前をからかった言葉がでかでかと書かれていたんですね。そのクラスには同じ小学校の子も何人かおりましたし、なんなら私がボコボコにしたやつもおりましたから、みんなすぐに私のことやってわかったんだと思います。

 それから私と周りの距離はだんだんと離れていきました。休み時間になると私の周りからそれとなく人がいなくなったり、授業のグループワークでもちょっと距離を置かれたり、部活に来る人も少しずつ減っていって、まあ、そんな感じです。


 たぶんですけど、みんな不安を感じていたんじゃないでしょうか。戦争は日を追うごとに悪化していましたし、私たちの日常をちょっとずつ、ちょっとずつ壊していましたから。なんていいますかね、なんでもええから気を紛らわせたかったんやと思います。


 あの子にもこの話はしましたよ。二人だけになった、演劇部の部室で。

 そしたらあの子、なんて言うたと思います?

 それなら私が新しい名前をつけてあげるって言うたんですよ。

 いやなんでやねんって、思わず笑いましたね。

 でも、あの子は真剣だったんです。ずっと前から私のあだ名を考えてて、いつかそう呼んでみたいって思ってたみたいですね。で、あの子がつけてくれたあだ名っていうのがまたおかしくて、読み方があの子の名前と同じだったんですよ。あの子が言うには、私の名前の漢字をばらして、それぞれの読み方をつけたら自分の名前と同じ読み方になるからおもしろいってことなんです。

 いやいやあんたねえ、自分の名前と同じ読み方のあだ名をつけるってどないやねんってツッコミました。そしたらあの子はこう言うたんです。


 自分と同じ名前だから、何があってもあなたのことを絶対に忘れないって。


 私もあの子のことは忘れません。私にとってあの子は、大切な親友ですから。

 でも今度会うたら、とりあえず一発どつきます。ちゃんと約束は守らんかいって。

 で、その後に二人でお花見に行きたいですね。

 いつかその時が来るって、私は今でも信じてますよ。




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