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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第四章 「花々は誇り高く」
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第十三話 「生きるために」

 しばらく歩いたところで二人は広場に到着した。それは大通りに面した野原で、遠くには駅馬車の駅舎も見える。しかし、神都行きの駅馬車はすべて止まっているため、駅舎に人の姿はなかった。


「やっとひと息つけますね」


 シトリは草地の上に仰向けになって寝転び、コロンはその腹の上に乗っかった。

 センはシトリの隣に腰を下ろし、やれやれとため息をつく。


「昼飯までに間に合えばいいんだけどな」


「大丈夫ですよ。もし間に合わなくても、夕食があるじゃないですか」


「だとしても昼飯を食い損ねたことにかわりはないさ」


「セン様は本当に食べることがお好きなんですね」


「うまい飯を食ってこその人生だからな」


 そうですねえ、とシトリは空を仰ぎ見る。

 春の半ばに広がる空は海のように青く、じっと見ているとそのまま空へ吸い込まれそうな気分になるほどだ。

 広場にはのどかな時間が流れていた。駅馬車が通常通り営業していれば騒々しくなるのだろうが、今この時は穏やかな空気が満ちていた。耳をすませば幼子たちのはしゃぎ声が聞こえてくる。普段は遊べない場所だからこそ、楽しさもひとしおなのだろう。


「平和ですね」


「平和だな」


 他に言うことはないのか、と言いたくなるようなやりとりだった。


「でもどうしてここの人たちは、皇都の直隷地になることを選んだのでしょうか」


「生きるために必要な決断だったのかもしれないな」


「どういうことですか?」


「皇都の直隷地になる理由の大半は、自分たちの守り神の弱体化だ。守り神である神霊が力を失くし、消滅すると、その庇護下にあった連中の生活は破綻する。だからそうなる前に皇神の分霊を新しい守り神にしなくちゃならない。だから皇都の直隷地になるのさ」


「もともとの守り神はどうなるんですか?」


「放置していれば霊災を生む元凶になる。だからその前に破壊するんだ。住民の総意で神格を否定して無力化し、皇都の神官団がその神霊を抹消するのさ」


「そんな……いくらなんでもひどすぎますよ」


「ああ。ひどい話だ。でもな、それが守り神になった神霊の運命なのさ」


「いいえ。そんなのまちがってます。守り神が人々を守ってきたように、人々も守り神を守らなければいけません。私たちは互いに助けあい、支えあって、生きているんですから」


 その通りだ、とセンは思った。

 思っただけで、言葉には出さなかった。


「たしか、今から五年前だったか。ここの神官が病に倒れて、守り神は力を発揮できなくなったんだ。神官の後継者もいなくて、霊災の脅威は日を追うごとに高まっていく。早急に手を打たなくちゃならない。きっとここの連中にとっても苦渋の選択だったんだろう」


「だとしても、私はまちがいだと思います」


 シトリの紅い瞳がセンの姿をとらえる。


「人間はな、生きなくちゃならないのさ。今まで自分を守って来てくれたものを自分の手で葬らなければならなくなったとしても、どこの誰ともわからんやつに支配されることになっても、それでも命ある限り、生きなくちゃならないのさ」


 センは広場ではしゃぐ子どもたちと、そのそばにいる住民たちに目を向ける。


 そう。生きなければならない。守るべきものを、守るために。


 センは仰向けになって空を見上げる。心地よい風が吹き、草木の香りが広がる。日の光は暖かく、世界にささやかな祝福を授けているかのようだった。


 なにもかも全部放り出して眠ることができたらどんなに幸せだろう。


 そんなことを考えた時、センは頭にかすかな熱を感じた。交信の術式が届いたようだ。


「セン。聞こえるかい? 重要なお知らせがあるんだけど」


 リクの声が聞こえた。


「どうせろくでもないことだろ」


「そうでもないよ。いい知らせと悪い知らせの二つがあるんだ。どっちから聞きたい?」


「悪い知らせからたのむ」


「太陽の使徒が神都周辺の里で暴れまわってるんだ。奉星の大祭へ向かう人たちを手当たり次第に襲ってるらしい。開催間近の最後の追い込みってところだね」


 その時、遠くで爆発音が轟いた。


「え? な、なんですか、今の」


 シトリは飛び起きて、目を瞬かせる。


「……で、いい知らせはなんだ?」


「まあそんなわけで道中危なっかしいだろうから、迎えを送ったんだ。駅馬車の発着場がある漁村で待っててちょうだい」


「今まさにそこにいる。で、今まさに太陽の使徒が暴れてるところだ」


「ならちょうどいいや。適当に始末しといて」


「適当に頼むな。ところで、誰を迎えに寄こしたんだ? トベラ団長だとありがたいんだが」


「シロだよ。彼女は」


 その名前を聞いた瞬間、センは飛び起きて即座に交信を中断した。

 おろおろしているシトリの肩をつかみ、声を荒げて言う。


「今すぐここから離れるぞ」




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