第十一話 「命をはかるもの」
反逆の容疑、という予想だにしなかった言葉に、シトリは目を丸くする。
「容疑? え? な、なんのことですか? 私、何も悪いことなんか……」
「驚くのも無理はありません。ですので、順を追って説明しましょう」
リクはわざとらしく咳払いをする。
その様子を見て、そういうことかとセンはうなずいた。
「ご存知の通り、皇国における神霊はすべて皇神の統率下に置かれています。これは、皇国の安定は各地を治める神霊と皇神との信頼関係によって築かれているからです。しかしこれだけでは不十分です。なぜなら、各地の統治が現地を治める神霊任せになってしまい、皇国というまとまりの中での統治につながらなくなるおそれがあるからです。下手をすれば皇国からの分離、独立という事態が起こりかねません。ここまでの話は理解できますか?」
はい、とシトリは返事をする。
理解できていないことが丸わかりの、自信のない声だった。
「そのような事態を防ぎ、皇国の統治を確たるものにするためにも、神霊に仕える神官は皇都の承認を得た者でなければなりません。ですので、皇国における神官はすべて皇都の承認を得た者に限られています。もちろん、承認を得ているからといって好き勝手をやっていいというわけではありません。たとえば皇国からの分離、独立などは皇法において反逆と定められ、首謀者は極刑に処せられます。おそろしいでしょう」
「そうですね」
「というわけで、あなたは極刑に処せられます。つまり、死刑です」
「……え? 私が、極刑。死刑? え?」
リクは微笑みを崩さず話を続ける。
「まずあなたは皇都から正式に神官としての承認を得ていません。たとえそれに相応しい実力があったとしても、皇都にとってあなたは神官ではないのです。当然、神官としての振る舞いなどは許されません。にも関わらず、あなたは神官として振る舞っている。これだけでも重罪です」
「でも、でもそれは」
「次に」
リクはシトリの言葉を遮る。
「先日ユヅルハへ派遣された皇都の使者に対するユヅルハの態度です。正式な使者に対し、あなたたちは無慈悲に攻撃を浴びせかけ、撃退しました。死者こそ出ませんでしたが、悲しむべきことに一部の者は精神に深く傷を負い、ユヅルハの名を聞くだけで半狂乱になるような有様となりました」
センは空を仰ぎ、晴天の守護者と謳われた偉大なる騎士に思いをはせた。
「以上を踏まえて、ユヅルハの現状を説明しましょう。現在ユヅルハには皇都の承認を得た神官は存在せず、さらには皇都に対する反逆の意思も見受けられ、実際に被害も出ている。ユヅルハは皇国の統治が及ばない、無法の地と化しています。これは決して見過ごせるものではありません。加えて、ユヅルハで出現している正体不明の精霊についても、あなたがその精霊を生み出している可能性が高いという報告も出ています」
「へ?」
なんともまあ間の抜けた声を出すものである。
「以上のことから、あなたはユヅルハを皇国から完全に独立させるために戦の準備をしているとみられています。住民の武装化を進めると同時に件の精霊を大量に生み出し、ユヅルハを要塞化して独立戦争を遂行しようとしている。というわけです」
シトリはセンへ目を向ける。彼女の緋色の瞳を見て、センはため息をついた。
「要するに、お前がユヅルハの独立を進めてるって疑われてるのさ」
「なるほどそういうお話でしたか……って、そんなわけないじゃないですか! なんでそうなるんですか、おかしいですよ、普通に考えて。そもそも皇国はユヅルハから始まったんですよ。ユヅルハこそが皇国の中心であり原点なのです。なのに皇国から独立するなんてありえません。私たちユヅルハの民が求めていることは、皇都の支配を受けないということだけです」
「もちろんそうでしょうね」
リクの口調が柔らかくなる。
「皇都の神官団や元老院もそれくらいは理解しています。ですが彼らは、そのうえで大義名分をつくり、ユヅルハの直接支配を目指しているのです。はっきり言いましょう。あなたが奉星の大祭に出場したら、大祭が終わった後にあなたは反逆の罪に問われる危険性がとても高い。生きてユヅルハに帰れなくなるかもしれない。それでもあなたは奉星の大祭に挑みますか?」
「当然です」
シトリは即答する。
「私はユヅルハを守るためにここまで来たのですから。そのために死ねるなら本望です!」
「……なるほど。あなたの覚悟はよくわかりました。先日の使者からも話があったと思いますが、あなたが奉星の大祭で相当の結果を出すことができれば、皇都はユヅルハの直隷地化を断念するでしょう。そう……あなたをユヅルハの神官として認めざるをえないということを、あなたが証明できたのなら」
「上等です。私とユヅルハの名を皇国全土に轟かせてやりますよ!」
リクはセンのほうを見る。センは黙ってうなずいた。
「わかりました。奉星の大祭でのあなたの活躍を楽しみにしています」
リクはホウキボシの背に乗り、センに言う。
「それじゃまた、神都で会おう」
「ああ。ここからなら昼頃には着くだろう。うまい昼飯を用意しておいてくれ」
もちろん、とリクは笑う。ホウキボシは大きく翼を広げ、空へ舞い上がった。
「さて、俺たちも行くとするか」
声をかけるも、シトリは動かない。
「どうした?」
「あ、あ、あの、セン様。わた、私、その、し、死刑に、なるんです、か……?」
それは見事なまでのビビり様であった。さっきまでの威勢はどこへやらである。今にも泣き出しそうなくらいに顔を崩していた。というか、目にはすでに涙がにじんでいた。
「おいおい。急にどうした。情けない顔をするな」
「無茶言わないでくださいよ。死刑ですよ死刑! 私、たぶん何も悪いことしてないのに、おかしいじゃないですか」
「べつにおかしくはないさ。何も悪いことしてなくても、皇都の連中は平気で人を死刑にできるんだから。特に珍しくもない」
「気が狂ってますよ。なんなんですか、皇都の人たちは」
「連中が何考えてるかなんて俺にもわからねえし、考えるだけ無駄だ。ただ、連中は自分たちの支配力を手離したくないのさ。そのためなら人を殺すことなんてなんとも思わない。まあ、あんまり悲観することはないさ。お前の身にもしものことがあったらユヅルハの民は黙ってないだろうし、そうなれば皇都とユヅルハの全面戦争になる。相当な被害が出ることは確実だ。そこまでしてお前を殺す価値はないだろう」
「そう言われると不服ですね。自分で言うのもなんですが、私の命にはそれなりに価値があると自負していますよ」
「ぞうか。じゃあぜひとも死刑にしてくれって嘆願書を書いてやるよ」
「いやいや、恐ろしいことを言わないでください。いいですか、命の価値というものは、死ぬことでは示せません。生きて、何を成したかによって示すことができるのです」
「まっとうな考え方だな」
「というわけで私はまだ死ねません。成すべきことがありますから。まったく、さっきの方も穏やかな表情でとんでもないことを言ってくれますね」
「あいつは昔からああいうやつなのさ。悪気はないから、大目に見てやってくれ」
「セン様のお知合いでしたか」
「学府にいた頃からの腐れ縁だ。あれであいつはなかなかやるんだよ。学府を飛び級したうえに首席で卒業し、史上最年少で皇神神官団の入団試験に合格した、いわゆる神童だ」
「それはまた、すごい人なんですね」
「まったくだ」
センはそう言って、神都がある東の方角へ歩き出す。
シトリはコロンを抱きかかえ、彼の後に続いた。
彼らの行く手には、朝日に照らされ始めた空が広がっていた。




