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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第四章 「花々は誇り高く」
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第五話 「ただ、守りたかった」

 コロンを先頭に二人は山道を下っていく。山道といってもかつては道路として整備されていたらしく傾斜はゆるやかで、あまり苦労せず下ることができた。平坦な道に出たところで、どこからともなく波の音が聞こえてくる。

 もう大丈夫だろうとセンは振り返る。見えたのは生い茂る木々の姿だけで、さっきまで歩いていたはずの山道はどこにも見えなかった。


「あの場所も聖域と同じで、特別な場所だったってことか」


「素敵なところでした。奉星の大祭が終わったら、またユリ様に会いに行きましょうね」


「そうだな。ところで、ここは島のどのあたりになるんだ?」


「ええと、たぶんこのあたりだと思います」


 シトリは地図を取り出し、ユヅルハの北部にある東側の海岸を指す。


「ここからなら、お昼までには一番近い村の跡地に着くと思います」


 二人が話している間にも、コロンは先へ先へと進んでいく。


「あいつは迷わず進んでいるな」


「もちろんです。コロン様はユヅルハの守り神ですから」

 そういえばそうだったな、とセンは改めてコロンを見る。

 今さらながら、彼は一度もコロンが守り神らしく振る舞っている姿を見たことがない。

 それからしばらくして、海岸線に沿った道に出る。かつては漁村だったらしく、船着き場や漁具置き場の跡地らしきものや朽ち果てた家屋が点在している。それほど古びているようには見えず、ここに人が住まなくなってから、まだそれほど歳月はたっていないようだ。


「ここの住民は、別の土地に移ったのか?」


「はい。ここは五年ほど前まで港町としてにぎわっていました。けど、太陽の使徒の襲撃を受けて深刻な霊災がおこり、人が住めなくなって閉鎖されたようです」


「奴らがここに攻めてきたのか」


「はい。彼らはユヅルハの聖地へ侵入しようとしたそうです。その時は私の両親が亡くなってまだ間もない頃でしたから、その混乱に乗じたんだと思います」


「そういうことか。しかし、なんで奴らは聖地とやらに侵入しようとしたんだ?」


「わかりません。聖地には彼らが求めるようなものはありませんし、そもそもそういう場所でもありませんから」


「どういうことだ?」


「実際にご覧になったほうがいいと思います。もう少し進んだ先にありますので」


 港町の亡骸を通り過ぎ、見通しのいい平野に出る。聖地はこの平野の終わりにあるらしい。昼が近いらしく、太陽は空の中心へと近づいていた。

 しばらく歩いたところで、彼らは聖地に到着した。


「……なるほど。たしかに奴らが欲しがりそうなものは、何もなさそうだな」


 センは腕を組み、ため息をつく。彼の目に映ったのは、平原を一直線に走る巨大な断層だった。彼らが立っている場所から少しずつ地面は裂け、人の背丈ほどの高さの断層が露わになっている。断層の果ては見えず、センから見える断層の果ては、もはや崖といえるほどの高さになっていた。


 春の穏やかな青空の下、断層は無言のままその威容を示していた。


「それで、どうしてここは聖地なんだ?」


「伝承によりますと、この一帯は旧世紀の世界戦争で古の大精霊との戦場になった場所だといわれています。この断層は、古の大精霊が天と地を引き裂いた時にできたものだそうです。その力はあまりにも強大で、皇神による世界再生が行われても元通りには再生されず、今に至るまでその姿を残しているのです」


「その古の大精霊ってのは、前に話していたやつと同じやつか?」


「はい」


「本気で世界をぶっ壊そうとしたんだろうな。そういう心境になるのもわからなくはないが」


「そうですね」


 その言葉は、センが予想しなかった言葉だった。


「古の大精霊との戦いでは、かつてのユヅルハの民たちも大勢が犠牲となりました。その犠牲の上に、この世界は成り立っています。だからそれを忘れないために、今も彼らの魂は社の慰霊碑に祀られているのです」


「犠牲、か」


「ですが、彼らは犠牲者であると同じように、世界を救った英雄でもあるのです。彼らが示した世界を守るという意思を、私たちユヅルハの民は忘れません。私たちも彼らと同じようにこの世界を守り、次の時代を生きる人たちにつなげていかなければいけません」


「だからお前はユヅルハを守るために戦っているのか」


「そうですね。でも、もう一つ大きな理由があります」


 シトリはセンと向きあい、明るい笑みを浮かべる。


「私はユヅルハが好きなんです。生まれ育ったこの場所ですし、両親が守り続けた場所でもありますから。もちろん、両親のことも大好きですよ。だから私は守りたいんです。自分の好きな場所を、大好きな人たちの意思を。だから私は戦えるんです」


 そうか、とセンは短く言うと、先へ進み始めた。


 今、自分の顔に浮かんでいる表情を、シトリに見せないために。




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