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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第四章 「花々は誇り高く」
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第三話 「朝の一撃」

 名も知れぬ鳥の鳴き声が、朝の訪れを告げる。

 暖かで優しい香りが、センを眠りの世界から呼び覚ます。

 体を起こすと、管理者がお茶の用意をしている姿が見えた。

 窓からは朝の光が差し込み、部屋にはお茶の豊かな香りと朝の新鮮な空気が満ちていた。


「そんなところでよく眠れたものね」


 管理者は陶器の器にお茶を注ぎ、机の上に置く。


「貴方が眠る部屋も用意していたのに」


「どこで俺は眠ればよかったんだ?」


「彼女と同じ部屋よ」


「……結局、ここで眠ることになるな」


 でしょうね、と管理者は言う。

 それから間もなく、シトリが部屋に入って来た。


「おはようございます。今日もいい天気ですね。素敵な一日が始まりそうです」


 センはため息をつく。昨夜のことなど、まるで気づいていないらしい。


「おはよう。ちょうど今お茶が入ったの。温かいうちにどうぞ」


 ありがとうございます、とシトリは椅子に座り、お茶を飲んだ。


「どうかしら」


「おいしいです。でも、なんでしょうか。昨日とは少しちがうような気がします」


「どんなふうにちがうと感じたの?」


「昨日のお茶は心が安らぐような味がしました。でも、このお茶は元気がわいてくるような、そんな感じの味がするんです」


「使っているお茶の葉は同じものよ」


「そうなんですか?」


「ええ。けど、淹れ方を変えているの。朝は一日の活力を養うために、夜は一日の疲れを癒すために、お茶の葉から得られる成分が異なるように淹れているの」


「なるほど。どうりで昨日はぐっすり眠れたんですね」


「いい夢は見られたかしら」


「夢は、見ませんでした。そういえば、もう何年も夢らしいものを見ていませんね」


「最後に夢を見たのはいつかしら」


「わかりません。でも、髪が白くなってからは一度もないと思います」


「人間はね、眠ると必ず夢を見るものなのよ」


 管理者も自分の器にお茶を注ぎ、ひと口飲む。


「心がある限り、人は必ず夢を見るわ。夢を見ていないと思うのは、目覚めと同時に夢の記憶を忘れているだけなの」


「そうなんですか。ところで、管理者さんはどんな夢を見るんですか?」


「私は人間ではないから、夢を見ることもないわ。ただ、私にとっては今この時が夢と言えるのかもしれないわね。こうしてここにいることが……」


「え? いやいや、今この時は現実ですよ。夢じゃありません」


 ですよね、とシトリはセンに同意を求める。


「どうかな。ここが現実だって確証は、どこにもないんじゃないか?」


「ええっ? な、何を言い出すんですか?」


「もしかしたら、ここはお前が見ている夢の世界かもしれない。お前の目の前にいる俺たちだって、お前の心が作り出した幻にすぎないかもしれない」


 センが調子しゃべっていると、管理者は席を立ち、彼の隣に来て、彼の顔面に拳を叩きつけた。

 あまりに突然で、攻撃の気配など微塵もなかったため、センは完全に無防備の状態で拳をくらい、仰向けになって倒れた。


「て、てめえ、いきなり何を……」


「夢なら痛みはないと聞くけれど、どうかしら」


「痛いに決まってんだろ。ここは現実なんだぞ」


「というわけよ」


 管理者はシトリに顔を向ける。


「ここが現実であることを、彼は身をもって証明してくれたわ。でも彼自信はまだ寝ぼけているみたいだから、眠気覚ましに顔を洗わせてくるわね」


 管理者はセンの腕をつかみ、家屋の外へ連れ出す。

 周囲に聞き耳を立てているものがいないことを確かめると、彼女は声をひそめていった。


「何を考えているの。彼女を不必要に困惑させたらどうなるか、わかっているでしょう」


「たしかに。今になれば、不思議だ。どうしてあんな不用意なことを言ったんだ……」


「どうやら私の想像以上に、貴方たちは影響を受けているようね」


「影響?」


「万象の夢による影響よ。すぐにここを出発したほうがいいわ。彼女にもそう伝えなさい」


 管理者は花畑のほうへ歩き出す。とりあえず、センは彼女の言葉に従うことにした。

 ここはたしかに現実だ。

 しかしここが、現実離れした世界であることもまた事実なのだ。




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