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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
水平線にて #3
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日常の話

 今の私がこんなこと言うんもおかしいかもしれませんけど、高校生ってアホみたいに力があふれる時期なんやと思います。生物学的には子どもがつくれるわけですから、大人といえば大人になりますよね。でも、親に養ってもらってるわけですから、社会的な立場はまだ子どもでしかありません。で、精神面はというと大人と子どもが半々みたいなもんですよね。つまりですよ、高校生ってものすごく自由に力を発揮できる時期なんです。世の中のこともよくわかってませんから、身の程知らずな夢や理想も平気で持ってしまうんですね。私なんかその典型でしたけど。あはは。


 でも私は、さっきお話ししました通り平凡な人間なんです。高校生の時にはもうわかってました。

 役者になりたいっていう夢を持つ一方で、自分みたいな凡人には無理なんちゃうんかなっていう思いもあったんです。平凡で平穏な日常を捨ててまで、どない転ぶかわからへん夢の世界に飛び込むことに、それとなく恐怖を感じてもいました。

 そらもう、毎日のように悩んでましたよ。平凡な日常をとるか、危険な夢をとるか。


 でも、今にして思えば、私はそういうふりをしとっただけなんですね。


 答えはとっくに出とったんです。


 これは本当のことなんで正直に言いますね。私と、私の家族は、みんな平凡な人間です。私たちは世界にとってかけがえのない存在ではありません。おってもおらんでもどうでもいい、かわりなんていくらでもおる、そんな程度のもんです。

 でも、私にとっての私の家族は、かけがえのない存在です。どこにもかわりなんておりません。私も、私の家族にとっては、かけがえのない存在であるはずですし、そうであってほしいと思います。そして私は家族と過ごした日々を、はたから見れば平凡でありふれた日々を、絶対に失いたくないと思っています。

 もし神様が現れて、日常の世界と自分の夢とどっちかしか選べないって言うてきたら、私は日常の世界を選びます。その、うまく言えませんけど、日常の世界を失ったら、私は私が何者なのかわからなくなってしまうと思うんですよ。もちろん夢は大事です。でもそれって、結局は自分のためだけなんですよね。自分のことを気にかけてくれる人や、自分のために怒ったり悲しんでくれたりする人、一緒になって喜んでくれる人、そういう人たちをないがしろにしてまで夢を追うんは間違っとると思うんです。

 私は、私の日常を守りたいんですね。その思いは今も昔も変わりません。


 でも、高一の冬休み前くらいからですね。私の日常は少しずつ崩れていきました。

 私の目に見える世界にも、あの戦争の影響が出てきたんです。


 ニュースは毎日のように戦争について取り上げるようになりました。そこで私たちに伝えられる言葉も、だんだんおかしいなって感じるようになりました。きっとこの人たちは、本当に伝えなあかんことを隠しとるって思えたんです。空々しかったんですね。なんとなく。


 街中では外国の人をたくさん見かけるようになりました。世界中で戦争が起こってるわけですから、まだ戦場になってない私らの国に避難してきたんですね。外国の人は日を追うごとに増えていきましたけど、外国から入ってくるものはだんだん少なくなっていきました。私の父はコーヒーが好きだったんですけど、もう庶民の手には届かんくらい高うなったわってぼやいてましたよ。

 私らの国は経済も科学技術も世界トップ水準でしたから、あの戦争が始まってからも豊かな生活はできてたんです。でも、そのころにはもうだいぶ様変わりしてましたね。お店の商品の数はどんどん少なくなっていくし、増えていく外国の人らと地元の人らのトラブルは日常風景になっていくし、なんかもう、嫌な空気がそこかしこに漂ってましたね。


 そして悪いことに、この戦争で私たちは劣勢に立たされていたんです。


 もし戦争に負けたらどうなるか。


 恐ろしくて考えることもできませんでした。何が何でも勝たなあかん。でも、何をしたらええんやろう? そもそも自分に何ができるねん。という感じで、もうどうしようもない気分でした。


 アホみたいな話ですけど、私はその時まで戦争のことを別世界の出来事としか考えてませんでした。自分が生きているこの星のどこかで確実に戦争は行われている。頭では理解できるんです。でも、心の中では自分には無関係なことやって思ってました。

 まあそのうち誰かがうまいこと解決してくれて、うまいことおさまるやろ、くらいにしか考えてませんでした。アホ丸出しですよね。まあ、十五のアホなガキの頭なんで、勘弁してください。


 でも、もし私が大人だったとしても、たぶん同じことを考えていたと思います。

 私の国の大人たちだって、今まで当たり前のように続いていた日常が、戦争なんて別世界の出来事やと思っとったもんに壊されるなんて、思ってもいなかったでしょうから。




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