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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第三章 「巡礼の路」
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第十一話 「姿形は変われども」

 シヅキの後に続き、センは険しい山道をひたすら登った。

 もっとも、彼が進む道は山道と言われればそう見えなくもない山の斜面だった。起伏の激しい岩肌が露わになっているためまともな足場がほとんどなく、おまけに夜の暗闇が空を覆い始めたので視界も悪い。一歩間違えれば滑落するという命がけの状況だ。

 一方でシヅキは風切り羽根に乗って空を飛んでいるため、のんびりと神殿へ向かっていた。

 あぐらをかいているシヅキの足には、コロンが身を丸めておさまっている。


「おーい、早くしなよー。日が暮れちゃうよー」


 シヅキは振り返り、センに声をかける。


「ふざけんなクソガキ。こちとら一日中歩きどおしだったうえに、あんなバケモノと一戦交えたんだぞ。文句があるなら俺もそれに乗せろ」


「やだよ。これは私専用の風切り羽根なんだから。しっかし軟弱なやつだねえ。この程度の山道で音を上げるなんて。お前、聖火の天士っていうわりには、全然たいしたことないじゃないか」


「そういうことは、自分の足でこの山道を登ってから言え」


「もう登ったよ。人間だった頃にね」


 シヅキは冷たい笑みを浮かべる。


「お前、さっきイクハが歌った祝歌を知ってるかい?」


 いや、とセンは首を振る。


「あれはシキと同じ、祝歌の原典の一つなんだ。私やイクハが人間だった頃はよく歌われていて、私はこの祝歌が一番好きだった。時代が進むにつれて、これを元にして多くの祝歌も生み出された。だから、いつしかこの祝歌は歌われなくなってしまった。儀式を行う時は、それぞれの儀式に応じた祝歌のほうがいいからね。今ではもうすっかり忘れられてしまったのさ」


「さびしい話だな」


「そう思うのは、お前がまだまだ若いからだよ」


「若い?」


「今この世界にある祝歌には、私が好きな祝歌から生み出されたものがたくさんある。忘れられても、姿形が変わっても、たくさんの祝歌に受け継がれ、生きているのさ。私にはそれだけで十分なんだよ」


「……ひとつ、聞きたいことがある」


「なに?」


「どうしてあんたは、半神になったんだ」


「さあねえ。なにしろ遠い遠い昔のことだから、すっかり忘れちゃったよ」


「そうか」


「そうだよ。さて、それじゃ先へ進もうか。神殿まであと少しだ」


 やがて彼らは広々とした高原に到着した。

 日はすっかり落ちていたが、月や星々の明かりに照らされて、その様子を見ることはできた。かつては精霊使いの修行場だったというだけのことはあり、大規模な闘技場がおさまりそうなほどの広さがある。

 なだらかな傾斜のそばには宿舎らしき家屋が見えた。日頃から手入れされているらしく、それほど古びているようには見えない。窓からは穏やかな灯りがもれ、家屋の奥のほうからは湯煙らしきものも見えていた。


「あそこに見えるのが宿舎だ。さあ、案内はこれでおしまい。私は先に行くよ」


 シヅキは風を切るように颯爽と宿舎へ飛んでいった。

 宿舎へ歩きながら、センは考える。


 あいつはやはり半神だった。神格を得た人間だ。イクハという少年も同じだろう。

 最初の神殿にいたハダとかいう大男も半神と考えて間違いない。

 やっかいだな。今のところ、ユヅルハで確認できた半神が三柱もいる。

 皇都の軍勢だけでここを制圧できるだろうか。


「まったく、とんでもない連中だな……」


 あれやこれやと考え、ため息をついている間に宿舎へ到着する。

 修行場だった名残なのか、宿舎の中は広々とした道場といった感じで、玄関に入ってすぐにある大広間ではイクハがあぐらをかいてセンの到着を待っていた。


「おお、やっと来たか。ずいぶん遅かったな」


「お前の片割れが風切り羽根に乗せてくれなかったからな」


「はっはっは。あれは照れておるだけだ。なにしろ、我以外の男を見るのは久しぶりのことだからなあ」


「それより、二人の様子はどうなんだ」


「シトリは問題ない。じきに目を覚ます。だが、ツナはだめだ。まともに動けるようになるには一週間ほどかかるだろう。奉星の大祭への参加は断念するしかない」


「そうか」


「そういうおぬしこそどうなのだ。なにしろ聖火を使ったのだ。こうして立っておるだけでも苦しいのではないか?」


「今にもぶっ倒れそうだよ。だから早く秘湯とやらに案内してくれ」


「よしわかった。ついてくるがよい」


 イクハに案内されて宿舎の奥へ進み、外に出る。

 山道に沿って石段が続き、その先には立ち上る湯煙が見えた。


「我らがユヅルハの誇る秘湯はこの先にある。そこはユヅルハの霊力の流れの中心に位置していてな、温泉に密度の高い霊力が含まれておるのだ。ゆえにひとたび浸かれば三日三晩は飲まず食わずの眠らずで動けるほどの活力が得られるぞ」


「霊泉の類だったか。秘湯ってのも納得だ。普通の人間は入らない方がいいものだからな」


「さて、あの二人のことは我に任せよ。おぬしは旅の疲れをゆっくり癒すがよい」


「何か企んでたりしないか?」


「もちろん、企んでおるさ」


「半神といえど、元は人間ってことか」


「我は今でも人間だ。生命のあり方が変わっても、心のあり方は変わらぬからな」


「……あんたみたいな存在がそれを言うと、妙に説得力があるな」


 センは石段を上り始める。

 イクハの意図はともかく、今は疲れを癒すことが先なのだ。




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