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兄弟子との再会1

「一体あの子は」


そう独りごちようとしたメイサの言葉は、地響きめいた咆哮によって遮られた。思わず耳を塞ぎ、音のする方向を見やる。


そこには、町には近づいてこないはずのドラゴンがいた。

朝の光で鱗が鈍く光る。鱗がぶ厚い、古代種のようだった。とても大きく、周囲にある家が小さく見える。


白濁した小さい瞳は、逃げ惑う人々を映すと、喜びで残酷に細められた。


他のモンスターに比べて知能が高いドラゴンだが、獣の本能ともいうべきか、動くものに反応する性質を持っている。逃げ惑う群衆は、ドラゴンを煽る格好の形となってしまった。


この至近距離では転移魔法は使えない。ドラゴンのような竜系のモンスターはサイズが大きいため、術式を展開すると町の人が巻き込まれてしまう恐れがある。頼みの近衛騎士団も、森の方に出払ってしまっているらしかった。


「ウルスラ!は、早く逃げないと……!」

どうやら、ゲイリーのお店の前に転移されていたようだった。いつの間にか近くにゲイリーがいて、メイサの袖をグイグイ引っ張る。店主さんも慌てて店から出てきて、呆然としている。


「ゲイリー、店主さん、もっと離れてください!」


メイサはそう言い放つと、ドラゴンの方へと走り出していた。無造作にその巨体の前に躍り出る。ゲイリーの悲鳴が聞こえた気がしたが、振り返る余裕はない。


右手の人差し指と中指を揃えて、空中に円を描く。なぞった空中に、赤く輝く魔法陣が出現する。


「おいで!シルバーウルフ」


途端に魔法陣が目を開けられないほどの輝きを放ち、風が吹き荒れた。その中からゆっくりと銀色の大きな狼が姿を現す。


メイサはシルバーウルフの喉元をよしよしと撫でてやり、目の前のドラゴンを指さした。「あいつを空中に追いやって!」シルバーウルフはこくんと頷き、ものすごい速さでドラゴンに襲いかかった。


突然のことにドラゴンは狼狽し、小さな瞳が揺れ動く。堪らず大きな翼を羽ばたかせながら空中へと逃れた。メイサはその瞬間を見逃さず、ドラゴンに向かって転移術式を展開する。ドラゴンは一声わなないたが、その姿も、その声も、術式に吸い込まれて跡形もなく消えた。


周りの誰もが何が起こったかわからなかった。突然空からドラゴンが降り立ち、急に大きな銀色の狼が現れたかと思うと、ドラゴンが空中で消えてしまった……。まるで白昼夢のような出来事に、群衆はただただ唖然と、先程までドラゴンが浮かんでいた場所に残る、転移魔法の残滓であるキラキラとしたモヤを見つめるしかなかった。


皆が空中を見上げているうちに逃げようとしたわたしは、ふと射抜くような目線を感じた。そちらを振り向くと、群衆の中になつかしい姿があった。金の髪にエメラルドグリーンの瞳ーーーフェリクスだ。皆が見上げている中、フェリクスだけがその宝石のような瞳を見開いてわたしをじっと見つめている。


特徴的な黒髪は茶髪に見えるように魔法をかけてあるし、そもそもローブで頭の先からつま先まですっぽり全身を覆っている。メイサである痕跡は消えていて、今のわたしはウルスラという少女にしか見えないはずーー。まさかメイサ本人だと気づかれはしないだろうが、今のうちに逃げなくては。


だが、その期待を裏切るように、フェリクスはぐんぐんと群衆をかき分けてまっすぐメイサの方に向かってくる。


明るいエメラルドグリーンの瞳がメイサを捉えて離さない。瞬きもせずにメイサを見据えたまま、距離が縮まっていく。その視線に縫い留められているかのように、メイサは動くことができなかった。


ふいに、群衆からわあっと歓声があがった。近衛騎士団の面々が到着したようだった。その歓声でハッと我に返ったメイサは、急いでフードを目深に被り直し、身を翻してその場から立ち去ろうとした。

その手がガッと掴まれる。


「メイサ! やっと見つけた」


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