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兄弟子との再会まで、あと1日

 地平線まで広がる緑の絨毯を、メイサは手にこじんまりとしたボストンバッグを引っ提げて歩いていた。まだ仄暗い夜明け前。見上げると視界いっぱいに星が瞬く。こうしていると、ここが異世界だとはとても思えない。上を向いて無防備になった頬を、風がするりとなでた。


 メイサは祝福石を拾っていたいつもの草原に来ていた。とても気に入っていた場所だけれど、ノアにもバレてしまっているし、オリバー様やフェリクス様まで来ている今となっては、留まることは出来ない。ノアが今朝迎えに来てくれると言ってはくれたけれど、彼には頼りたくなかった。これ以上、あの懐かしい日々を思い出すのはつらい。


 悶々と思い悩みながらも歩みを進めていると、ふと目の端に見慣れない白いものが映ったような気がした。よく見ると、それは倒木だった。地平線まで一面に続く草原に、あんな倒木はなかった筈。しかも白く発光している。

 メイサは倒木に向かって歩を進めた。近づいていくと、発光しているのは倒木ではなく、その向こう側にある何かだった。ひょいと覗いてみると、少年が一人、目を瞑って倒木に寄りかかっている。うたた寝をしているようだった。その少年が両腕に抱え込んでいる何かが発光しているように見える。

 こんなところに、なぜ少年が……。この草原は、メイサが仮住まいしている村から徒歩で30分ほどかかる。雑魚ながらモンスターも出るため、村人たちはあまり近づかない。だからこそ、祝福石が取り放題だった訳だが……。

 不躾だと思いながらも、メイサはその少年から目を離せなかった。抜けるように白い肌、白銀色の髪やまつげーーー美形と名高いエルフ族のノアやリアム、美形で評判のフェリクスやオリバーを間近で見てきたメイサでさえ、きれいだなぁと思わずにはいられない。あの村では見たことのない顔だ。どこから来たのだろう。そんなことを考えながらも、美しい芸術品をを見ているかのように見入ってしまう。

 

 刹那、少年の目が開いた。


 ガラス玉のようにきらきらとした目と視線があって、メイサはあっと口に手を当てた。起こしてしまった。いえ、それよりまず寝顔に見入ってしまった非礼を詫びなければ。

 詫びの言葉をメイサが口にしようとした瞬間、少年は自分の唇に人差し指を当て、しーっとメイサに伝えた。そうして目線を自らの腕の中に落とす。メイサが腕の中を除くと、小さな一角うさぎだった。酷い怪我をしているが、その怪我の箇所が発光している。よく見ると、少しずつ治っているようだった。少年が治癒魔法をかけてやっているのだろう。とすると、この少年は魔法使いだろうか。


 メイサはしばらくその様子を見つめていた。不思議と、この沈黙が心地良い。やがて傷が癒えたのだろう、少年の腕の中から一角うさぎがぴょんと跳ね出て、草原を走っていった。その姿を見送った後、メイサは口を開いた。


「あの、突然失礼しました。麓の村の方でしょうか。治癒魔法のお邪魔をしてしまってごめんなさい。一角うさぎさん、無事に治って良かったですね」


 少年は笑った。


「君に声をかけられたのは初めてだね。あいつの庇護が弱まってるおかげかな」


 初めてということは、やはり村人だったのだろうか。あの小さい村でこの美貌と佇まいであれば、目立つはずだけど……。それに、あいつって誰だろう。メイサが困惑しているのを横目に、少年は更に続けた。


「あれは治癒魔法じゃないよ。僕は魔法が使えないんだ。君と違ってね」


 どうしてメイサが魔法使いだとわかったのだろう。メイサが少し距離を取ろうとした時、麓の村の方からゴオオと音が響いた。


 いつの間にか空が白んでいる。驚いて村の方に目を凝らすと、村にほど近い土埃の中からドラゴンが首をもたげているのが見てとれ、メイサは驚愕した。何故急に、そんな所にドラゴンが?! 突然、なんの前触れもなく現れるなんて、それこそ転移魔法のようだ。ドラゴンが転移魔法を使えるなんて、聞いたことがない。


「ああ、時間切れだね。早く行って助けてあげないと。僕が送ってあげる」


「え……」


 少年を振り返ろうとした瞬間、メイサの足元が白く輝き出す。魔法陣がないが、この感覚は間違いなく転移魔法だ。顔をあげると、にこやかに手を振る少年が目に入った。


「お話できて楽しかったよ。また会おうね」


 その瞬間少年は視界から消え、まばゆい光がメイサを包み込んだ。再び目を開けると、そこはつい数時間前に通ったばかりの村の広場だった。

 

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