恩師の条件
職業訓練校「イマカルチャー」の仲間は二十二名。男性は僅か五名であり男女比には偏りがあるが、二十代から六十代まで年齢層は様々である。出身地も様々でありブラジル出身の男性と、中国出身の女性が介護職員を目指して「イマカルチャー」に入校していた。
授業は平日の九時から十六時まで毎日行われる。二か月後には修了テストが行われるが、合格するまで何度でも同じ問題で再テストを受ける事が出来るので不合格の心配は無い。しかしブラジル出身の皆福さんと中国出身の小倉さんは、日本語の読み書きに不安がある。介護職員初任者研修のテキストには専門用語も多く、生粋の日本人である私も苦労しそうだ。
「二人の為に放課後に勉強会を開きましょう。」と「介護の基本」の担当講師である佐野美月先生は言った。
佐野美月。名前だけを聞くとスレンダー美女を連想させる名前だが、実際はメタボ体型の中年女性である。昨日の須藤氏もそうだったが、介護業界を十年以上経験する事は健康的な事ではないらしい。あまり知りたくない話だが、年上の彼氏がいるらしい。年下には興味がないらしい。あまり知りたくない話だが。
昨日の須藤氏の授業とは打って変わってまったりとした雰囲気のまま授業は進み、佐野氏が授業の終盤に披露した心温まる話にはクラスの女性の多くが涙した。
クラスで一番明るい河村瑞希さんも泣いていた。佐野氏と名前も体型も男の趣味も似ているのでシンパシーを感じたのかもしれない。
しかし、私はどうも引っかかっていた。
まず、来週の授業の中で生徒の誕生会を行う事になった事。介護施設で利用者の誕生日を祝うのは当然の事ではあるが、我々は職業訓練生なのである。受講料は免除。税金で勉強させて頂いている身分で授業中の誕生会を楽しむ気にはなれない。
そして、職業訓練後半の授業の中で私を含めた訓練生全員が佐野先生に手紙を書く事になった事。恩師に手紙を書くのは当然の事ではあるが、彼女が私にとって恩師と呼べる存在になるとは到底思えない。
恩師は、生徒に自分への手紙を書く事を強制したりしない。




