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第5話:理不尽な行為は、聖域構築への「先行投資」です。

第5話:理不尽な行為は、聖域構築への「先行投資」です。


 辺境都市ルナール。

 かつては街道の要所として栄えたはずのこの街は、今や「淀み」に満ちていた。

 

 門をくぐる際の不当な上乗せ税、路地裏に転がる痩せ細った子供たち、そして――それらを見て見ぬふりをして笑う、教団の紋章をこれ見よがしに付けた武装官たち。


「……ひどい。街全体が、泣いているみたいです」


 リリが悲しげに瞳を伏せる。

 俺の【構造解析】によれば、この街の経済効率は戦時下でもないのに30%以下まで低下している。原因は明確だ。中間層による過剰な搾取と、公共インフラの私物化。


「リリ、これが『管理されていない組織』の末路です。……さて、本格的なデバッグの前に、まずは拠点の確保と物資の調達をしましょう。俺はギルドで地域の需給バランスを確認してきます。リリは、その角にある市場で少し待っていてください」


「はい、オズ様。……あの、なるべく早く戻ってきてくださいね?」


 不安げに俺の袖を引く彼女に、俺は安心させるように頷いた。

 

 ――これが、俺の計算ミス(エラー)だった。

 いや、あるいは世界のOSが俺に「より大きなリソース」を寄越すための演出だったのかもしれない。


「……おやおや珍しい。あんなところに、ずいぶんと『上玉』がいるじゃない」


 リリが市場の隅で、オズから渡された果実の袋を抱えて待っていた時。

 下卑た笑い声を上げながら近づいてきたのは、教団の末端騎士を自称する男たち――ルナールの治安を食い物にするチンピラ集団だった。


「ひっ……! あ、あの、何かご用でしょうか?」


 リリは震える声で問いかける。

 聖女の法衣を脱ぎ、平民の服を纏っていても、彼女から溢れ出る気品と、隠しきれない「魔力の残り香」は、悪党たちの本能を刺激するには十分すぎた。


「そんなに震えるなよ。教団への寄付金が足りないんだ。……その綺麗な体で、直接納めてもらおうか」


「や、やめてください! オズ様、オズ様っ……!」


 リリの悲鳴は、腐敗した街の雑踏に虚しく消えた。

 数人の男たちが彼女を無理やり抱え上げ、市場の裏手に建つ放置された空き家へと引きずり込んでいく。

 古い空き家の内部。埃が舞い、カビ臭い空気が充満する部屋に、リリは荒っぽく投げ出された。


「あぐっ……!」


 床に叩きつけられた衝撃で、彼女の肩から衣服が大きくはだける。

 透き通るような白い肌が、月明かりが差し込む薄暗い室内で艶かしく浮かび上がった。


「はぁ……はぁ……。オズ様、助けて……」


 リリの瞳には涙が溜まり、恐怖によって早まった鼓動が、彼女の豊かな胸元を激しく上下させている。

 精神的負荷がピークに達し、抑え込んでいた魔力が、逆説的な色香となって全身から滲み出していた。


「おい、見ろよ……。この女、泣けば泣くほどいい匂いがしやがる」


 リーダー格の男が、下品に舌なめずりをしながらリリの顎を強引に持ち上げる。

 リリの頬は屈辱と恐怖で赤く染まり、潤んだ瞳が絶望に揺れる。

 引き裂かれた袖から覗く、吸い付くような白い二の腕。

 乱れた髪が、彼女の潤んだ唇に張り付く。


「……嫌。……来ないで。私の身体に、オズ様以外の手が触れるなんて……っ!」


 彼女は必死に身をよじり、抵抗する。

 そのたびに露わになる太ももの曲線が、男たちの理性をさらに狂わせていく。


「ははっ! そのオズってのは、今頃市場で右往左往してるさ。安心しろ、たっぷり可愛がって――」


 男がリリの襟元に手をかけようとした、その時。


 ――ギィィ……ッ。


 空き家の、腐りかけた扉が音もなく開いた。

 いや、正確には「扉という構造」が物理的に消滅した。


「……五分の遅刻。現場の状況判断としては、三流ですね」


 影の中から、静かな、あまりに静かな声が響いた。


「オズ様……!」


 リリの声が、安堵に震える。

 そこに立っていたのは、無表情な青年だった。

 だが、その瞳だけは、絶対零度の冷徹さを湛えて室内を見渡している。


「あぁ? なんだてめぇは! 今いいところなんだよ、消えろ!」


 男たちが抜剣し、オズへと襲いかかる。

 オズは一歩も動かない。

 ただ、視界の端で【構造解析】のログが爆速で流れていく。


【対象:ルナール所属・自称騎士】

【罪状:最適化プロセスの妨害、および重要資産リリへの損害未遂】

【判定:修正デバッグ不能――廃棄処分を推奨】


「……リリ、目を閉じていてください。少しだけ、清掃クリーニングが必要です」


 オズの周囲で、青白い魔力の火花が弾ける。

 それは、怒りというよりも、不具合を見つけたエンジニアが淡々と「削除キー」を叩くような、圧倒的なまでの効率を秘めた威圧感だった。


「貴方たちがリリに与えた『恐怖ストレス』は、すべて俺が買い取り(デポジット)ました。……今から、その対価をお支払いします。お釣りは入りませんよ」


 オズの手が、静かに上がった。

 ルナールの夜に、絶叫すら許さない「徹底的な最適化」の光が満ち溢れる。

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